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ロンドンマラソン兼ワールドカップ、男子の和田と女子の道下が初の栄冠! 男女でメダル4個の「チームジャパン」がその強さを世界に強烈アピール
海外メジャーマラソンのひとつ、ロンドンマラソンが4月23日、イギリス・ロンドンで行われ、同時開催としてパラアスリート対象の「2017世界パラ陸上競技マラソンワールドカップ」も実施された。
障がいクラス別に全5クラスが行われ、そのうちT11/12(視覚障がい)クラスには日本から国別最多となる男子6、女子4の計10選手が出場。ロンドン市内を巡る42.195kmのコースで展開された熱戦の末、男女とも金と銅、計4個のメダルを獲得し、「チームジャパン」の存在感を世界に向けて強く示した。その模様をレポートする。
実績豊富な和田と堀越。悲喜こもごもの表情も、次につながる結果
男子の頂点に立ったのは2時間34分59秒でフィニッシュしたT11の和田伸也。ロンドンパラリンピック陸上競技5000m銅メダルの和田はマラソンの国際大会では自身初となる金メダルを手にした。全員が伴走者と走るT11クラスのみで実施された2011年、13年の世界選手権ではそれぞれ銅、銀のメダルを獲得したが、単独走の選手もいるT12との混合(コンバインド)で行われた、ロンドンとリオのパラリンピックではいずれもT12選手に先行され、5位入賞にとどまっていた。
「初めての金。しかもコンバインドのレース。本当に嬉しい。前半は自分のリズムを刻み、後半に順位を上げていくという、伴走者2人(中田崇志さん、今木一充さん)と狙っていた通りのレースができた」と声を弾ませた。
昨年12月に初出場した福岡国際マラソンでT11の世界記録にあと12秒と迫る2時間32分11秒の日本新をマークし、その記録更新も期待されたが、コースにカーブや凸凹が多く、視覚障がい選手にはつまずいて転倒の恐れも高い。「記録を狙うには厳しいコース」と冷静に判断。勝負に徹して2番手を維持。じっくりと前を追い、30km過ぎに熊谷豊(T12)をかわしてトップに立つと、そのまま逃げ切った。
これで、ロンドンでは2つ目のメダル。「ロンドンとは相性がいいみたいです。3ヵ月後にもう一度、戻ってきたい」と和田。ロンドンではこの7月、「2017世界パラ陸上競技世界選手権」も開催予定で、和田は帰国後、「大分パラ陸上2017」(5月6日開催)で、今度はトラック種目での参加標準記録突破を目指す。「気持ちはもう大分に飛んでいます」。世界で戦う意欲はまだまだ尽きない。
3位は堀越信司(T12)でタイムは2時間39分57秒。2015IPC世界選手権(ロンドン)で銅メダル獲得後は、2016年別府大分毎日マラソンで途中棄権、リオパラリンピックでも他選手との接触転倒で足首を捻挫するアクシデントもあって4位と苦戦が続いた。
「悪い流れを断ち切りたい」と臨んだ今大会で3位と最低限の結果を残し、「すべての失敗は東京に向けてのいい経験」。そう信じて前を向く。
他の日本勢は、羽立祐人(T12)が5位、米岡聡(T11)が6位、谷口真大(T11)が7位。昨年の覇者、熊谷は30km過ぎまでトップだったが、突然の体調不良で失速。それでも、強い気持ちで完走し、結果は10位だった。
リオ銀の道下が初制覇。西島も復活をアピール
女子はエースの道下美里(T12)が3時間00分50秒でワールドカップ初優勝を飾った。2014年の同大会の銀を皮切りに、15年世界選手権の銅、16年リオ大会の銀と表彰台の常連だが、頂点に立ったのは実は初。「世界の舞台で初めての金メダル」と嬉し涙を流した。
10km過ぎにスペインの選手を捉えてトップに立つと、そのスピードは他を寄せつけず、後続との差は開くばかり。「今回は周りに翻弄されず、自分でレースをつくり、攻めのレースができたのもよかった」と、走りたいように走らせてくれた伴走者(青山由佳さん、志田淳さん)にも感謝する。前半は順調なペースを刻み、世界記録(2時間58分23秒)の更新も期待されたが、レース直前の故障による調整不足とタフなコースも相まって、あと一歩届かなかった。
「世界記録更新も狙っていたので悔しい。でも、すべてが2020年東京パラリンピックへのいいステップ。目標があったほうが楽しいので、また挑戦します」と、未来を見据え、最後は笑顔を輝かせた。
3位には3時間19分31秒で走った西島美保子(T12)。リオ大会で熱中症によりでリタイアした無念を晴らした。
「本当に嬉しい。リオがああいう形で終わったので、今大会は絶対にメダルに絡みたかった」と笑顔だった。
また、藤井由美子(T12)は4位、近藤寛子(T12)は5位だった。
4個のメダルにも、「70点」。日本チームの強さを育む強化体制
今大会の成績について、日本代表チームの安田享平コーチは、男女合わせてメダル4個獲得でも、「70点」と評価した。マイナス要因には、男子が表彰台独占を逃したことや目標タイムに届かない選手が大半だったことなどを挙げた。さらに、和田や道下には記録更新を目指し、「もっと果敢にいってもよかった」と話した。
辛めの評価は、作り上げてきた「チームジャパン」の力がもっと高いところにあると信じるからだ。実は今大会直前、オーバーワークや生活環境の変化などにより故障や調子を崩していた選手も多く、不安があったと明かす。それでも全員が一定の結果は残し、「次につながる戦いはできた」と手応えも口にした。
日本盲人マラソン協会(JBMA)では長年、「チーム」としての強化体制を敷いてきた。全国各地に住む強化指定選手の練習日誌は少なくとも毎週、安田コーチが確認し、また平均して月1回、1泊から2泊の定期合宿を重ね、ベテランと若手が刺激し合う場を作り、切磋琢磨させてきた。最近は伴走者も合わせ、総勢40名を超える回もあり、走るだけでなく座学やヨガなども取り入れ、心技体を総合的に強化。「チーム」としての絆も育まれ、「チームジャパン」は力をつけた。
最近はさらに、視覚障がい選手には欠かせない伴走者の養成も重要課題として取り組む。世界で共に戦う伴走者には、選手以上の走力はもちろん、競技への高い意識と自己管理能力が求められる。自身も伴走者としてパラリンピック3大会(アトランタ、シドニー、アテネ)に出場経験のある安田コーチは最近、“競技専用伴走者”という表現を口にすることもある。
「選手にとって『走りやすい人』だけではダメ。マラソンは数字の競技。42.195kmを目標タイムで走るために1kmのラップを慎重に設定し、正確に刻める技量なども代表選手の伴走者には必要」と話す。信頼して伴走ロープを託せる伴走者は多ければ多いほど、チームの力になる。これまでも大学陸上部員や元実業団選手などに依頼してきたが、「もっと多くの、さまざまな人にお手伝いいただきたい」と望む。
安田氏は今回のワールドカップは何かの代表選考会でもなく、「個々の選手が現時点での課題をさらけ出すという意味では、いい大会だった」と振り返る。これまでもそうだったように、見つかった課題は日々の練習で、合宿で、一つひとつクリアにしていけばいい。大本命の東京2020に向け、「チームジャパン」一丸となった走りは、まだ続く。
text by Kyoko Hoshino
photo by Getty Images Sport
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