[IPCノルディックスキーワールドカップ札幌大会]すべては来季のために。クロスカントリーW杯今季最終戦でベテラン新田が2位

2017.03.21.TUE 公開

15ヵ国から約80選手が参加して、IPC(国際パラリンピック委員会)が主催する「2017IPCノルディックスキーワールドカップ(W杯)第4戦札幌大会」が3月18日、札幌市の西岡バイアスロン競技場で開幕した。22日の閉幕までにクロスカントリーとバイアスロンが2種目ずつ行われる。2015年にクロスカントリーのみのW杯が北海道旭川市でアジア初のW杯として行われており、今大会は札幌市に会場を移し、バイアスロン競技を加えたノルディックスキーW杯としては国内初の開催になる。両競技とも今大会が今季最終戦となるためW杯年間王者が決まる上、来年のピョンチャンパラリンピックの国別出場枠もかかった重要な大会だ。

大会前半は心地よい青空のもと、クロスカントリー競技が行われた。重要な最終戦に向けて仕上げてきた強豪たちの競演で白熱し、2日間で1100人を超えた観客も大いに沸いた。10人がエントリーした日本チームも、大声援を後押しに精一杯挑んだが、なかなか厳しい戦いとなった。

阿部はクロスカントリーとバイアスロンの2競技に取り組む

昨年12月にフィンランドで行われたW杯初戦初日に金メダルを獲得し、今季好スタートを切った女子立位の阿部友里香は、今大会は2日間とも6位に終わった。だが、今大会で「最も狙っていた」というショート(2.5km)クラシカルは7位までがトップから1分差以内という接戦で、「順位は良くなかったが、内容はここ最近のレースではいちばんよく満足している。後半も食らいつける力をつけたい」と来季への課題も口にした。

地元札幌在住の選手として注目されたふたりは悲喜こもごもの表情だった。「地元の札幌で速く走れて、すごく嬉しい。応援が力になった」と笑顔を見せたのは19歳の専門学校生、新田のんのだ。2日目は初日に行われたミドル・フリーの女子座位(5km)で、W杯では自己最高位となる4位、2日目は5位に入った。車いす陸上からスキーへと競技を広げて2年目になる。

一方、17歳の高校生、星澤克は「自分の力を100%ぶつけたい」と意気込んでいたが、初日は11位に終わり、「体が動かなかった、地元で気合が入りすぎたかも」と振り返り、2日目は、「苦手なクラシカル競技なので順位は気にしなかったが、力を出しきれなかった」と悔しさをにじませていた。

立位の新田はショート・クラシカルで表彰台

そんななか、大黒柱の戦いぶりを披露したのが、5大会連続パラリンピアンで金メダリストの新田佳浩だ。2日目のショート・クラシカル(5km)の男子立位で2位に入り、今大会では日本勢として初めて表彰台に上ったのだ。

晴天で気温が高く、雪質が刻々と変わる条件下だったが、ベテランの冷静さと判断力で乗り切り、「表彰台は最低ラインと思っていた。勝負の坂でしっかり滑ることができ、ピッチの切り替えやコース戦略もうまくいった」と、新田はホッとした表情で振り返った。

5kmという短い距離のレース。「秒差での争いになる。前半から積極的に飛ばそう」と意気込んでスタートしたものの直後に転倒。最短距離を行こうとコース内側を果敢に攻めたところ、スキーの先端がコーンに引っかかった。一瞬、焦ったというが、すぐに気持ちを切り替えて立ち上がり、前を追った。

さらに、約800m地点のチェックポイントでコーチから他選手とのタイム差を聞き、「転倒の影響はそれほどない」と判断。最後まで気持ちを切らさず、優勝したベンジャミン・ダビエ(フランス)には追いつけなかったが、後続は周回を重ねるごとに徐々に引き離し、2位を確保した。転倒という想定外のトラブルにも冷静に対処して、今季最後のレースをいい形で締めくくった。

ピョンチャンでの金奪還に手ごたえ

今シーズンのレースを終え、笑顔を見せる新田

「今シーズンのモットーは、覚悟」

今季が始まる前、新田はそう語っていた。前回王者として臨んだソチパラリンピックでメダルなしに終わり悔しさを味わって以降、「ピョンチャンパラリンピックでの金奪還」だけを見つめ、4年計画で練習を積み上げてきた。今季はその3年目。本番を前に完成度を高める重要なシーズンと位置づけていたからだ。

ところが、シーズン序盤の昨年12月、左かかとを負傷して出遅れた。そこで、「シーズン終盤の3月に結果を出せばいい」と照準を絞り、調整を重ねた。結果的に、2月の世界選手権(ドイツ)と3月上旬のW杯第3戦ピョンチャン大会でも連続してメダルを獲得し、この日の2位につなげた。ピークを合わせ、しっかりと結果を出せたことは自信になる。

とはいえ、連続のメダル獲得にも、「常にトップではない」と気を引き締める。金メダルを獲ったW杯第3戦のミドル・クラシカル(10km)にも、「80%の走り」と自己評価は高くない。周回ごとにタイムが約10秒ずつダウンし、2位に23秒しか差をつけられなかったことが減点の理由だという。4年計画のなか、すべては来季のピョンチャンパラリンピックへの過程にすぎない。

ピョンチャンでの目標は、「初戦のスプリント・クラシカルで金メダル、最終種目のミドル・クラシカルで、もう一度表彰台に乗ること」だ。

「来年に向けて、今シーズン良かった部分は残し、足りない部分をしっかり洗い出しベースアップしていければ、ピョンチャンの舞台でも同じように表彰台に立てると思う。手応えは掴んだ。『ああしておけばよかった』と後悔しないよう気を緩めずに、本番の舞台に立つことを見据えて準備したい」

今シーズンは終わったが、新田の挑戦はまだ終わらない。

text by Kyoko Hoshino
photo by X-1

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