-
- 競技
-
バイアスロン
-
クロスカントリースキー
[IPCノルディックスキーワールドカップ札幌大会]虎視眈々と来季の上位を狙うベテラン、経験を積んだ若手。それぞれの2016-17シーズン
3月22日に札幌市の西岡バイアスロン競技場で閉幕したIPC(国際パラリンピック委員会)主催の「2017IPCノルディックスキーワールドカップ(W杯)第4戦札幌大会」。クロスカントリー競技のW杯は2015年に北海道旭川市で初開催されているが、バイアスロン競技も加えたノルディックスキーW杯としては今大会が日本初開催だった。
大会は前半のクロスカントリー競技に続き、後半の21日からは滑走と射撃を組み合わせたバイアスロン競技が行われた。国内で障がい者のバイアスロン大会が行われるのは1998年長野パラリンピック以来、2回目。力強く滑り、冷静に的を狙う選手の高いパフォーマンスを間近に見られる貴重な機会に、2日間で1200人を超える観客が訪れた。
日本からは6選手が出場し、21日はミドルに、22日にはスプリントに挑んだ。男子立位では佐藤圭一はそれぞれ6位、5位、星沢克は9位、10位、男子視覚障がいでは高村和人(ガイド藤田佑平)が8位、7位に、女子立位では出来島桃子が5位、7位、阿部友里香は2種目ともに6位、女子座位では新田のんのが2種目ともに4位で、今シーズンを終えた。
培ってきた力を披露したベテラン勢。ピョンチャンへ準備着々
21日のミドルでは、女子立位(10km)で出来島桃子の安定感が光った。2kmのコースを5周し、その間に計4回の射撃を行う。射撃は1回につき5発撃つが、ミス1発につきペナルティーループ(150m)1周の追加走が課される。出来島は1回目と3回目は1発ずつ外したが、2回目と4回目は落ち着いたパフォーマンスで満射。粘った末、5位になった。
「射撃は惜しい外れだった。(走りのペースが)なかなか後半で上がらなかった」。 レース後に淡々と振り返った出来島は2006年トリノ大会から3大会連続でパラリンピックに出場しているベテランだ。フルタイムで働く公務員で、練習は週末と全日本の合宿が中心だが、今季は2月の世界選手権で銀メダル、W杯ピョンチャン大会で銅メダルを獲得している。
「他の選手が射撃を外したときに、自分は崩れなかった」と冷静に分析しつつ、昨年の夏から秋にかけて約1週間の合宿が3度あり、「そこでしっかり練習できた。今シーズンは練習してきたことをレースでちゃんと出せることが多かった」と手応えも口にした。
「来シーズンはもう少し世界に近づけるよう、走力をアップしたい」。4度目となるピョンチャン大会へ静かな闘志を燃やしている。
最終日は、バンクーバーから2大会連続のパラリンピアン、男子立位の佐藤が気を吐いた。2.5kmのコースを3周する間に射撃を2回行うスプリントレースで、1回目の射撃は満射したが、2回目は1発目を外してしまう。ペナルティーループ(150m)1周が課されたが、懸命のスパートでフィニッシュし、5位入賞を果たした。
「今日は始めから飛ばして行くという作戦でいった。2回目の射撃でミスが出て、結果5位になったが、射撃は安定しているし、スキーも自分の狙った作戦通りできたので、シーズンの締めくくりとしては良い形で終えられた」と充実の表情で語った。
「人はどれだけ強くなれるか」が、アスリートとしての一番のテーマだという佐藤。以前から、スキー強豪国の合宿に単身参加して強化を図ったり、スキー練習の一環でトライアスロンも始めるとすぐに頭角を現し、昨年9月にはリオパラリンピックにも初出場。「夏冬パラリンピアン」の夢も実現させた。
そのため、今季はスキー練習への移行が遅れ、後半は蓄積疲労もあって厳しいシーズンになった。それでも、トライアスロンで培った脚力がスキーのキック力に活きるなど相乗効果も実感している。今後もバランスを考えながら、「夏と冬の両立」を目指す。トライアスロンも2020年東京大会を見据え、4月から海外転戦を始めるが、ピョンチャンを控えたスキー練習も例年より早く、夏頃から並行して始めるという。
「世界トップ3の背中は見えている。ピョンチャンでは自分の持っている力を全部出し切って、それがメダルにつながれば」。自分はまだまだ強くなれると信じている。
来季での飛躍期す若手選手たち
自国で迎えたW杯最終戦。次代を担う若手ら日本チームの選手たちはそれぞれの糧を掴んだ。
2014年ソチパラリンピック入賞の阿部は昨年春から本格的に始めたウエイトトレーニングで滑りに力強さが増し、今季はW杯フィンランド大会で金メダルを獲得するなど好スタートを切った。だが、後半は少し調子を崩し、今大会もあと一歩表彰台を逃すレースが続いた。この悔しさを、来季への糧にするつもりだ。
「来シーズンは例年より早く4月から基礎づくりをして準備したい。シーズン前半の勢いを後半まで保って、(3月の)ピョンチャンパラリンピックでメダルを獲得できるように」。次こそ、照準はぶらさない。
視覚障がいのためガイドの声を頼りに滑る高村は盲学校の教員で、自身が恩師から授かった「チャレンジする気持ち」を「机上の空論でなく、自分の経験談として生徒に伝えたい。今はそれがスキーでの世界挑戦」と意気込む。パラリンピック出場が叶えば、最高の教えになる。
ペアを組んで約1年半の藤田ガイドとは合宿や遠征続きの今季、「家族よりも2人で過ごす時間が長かった」という。コンビネーションに磨きをかけ、来季でのさらなる飛躍を誓う。
スキーを始めて2年目の新田のんのは今季から初参戦したW杯で3大会に出て、最終の札幌大会では2競技で全4レースに出場。3レース目で他選手との衝突で首と腰を痛めるハプニングもあったが、最後まで力走し、念願のパラリンピック出場への基準ポイントを獲得した。
「痛かったけど、出てよかった。今までで一番いい走りができ、バイアスロンでも(初の満射など)いい結果が残せて、嬉しい大会だった」と笑顔を見せた。今後はより力強く漕ぐため腕の筋トレに取り組み、小学校3年から続けている車いすマラソンで夏場は持久力も磨き、「ピョンチャンパラリンピック出場が決まれば、上位を目指したい」と高みを見据える。
17歳の星澤も今季がW杯初参戦。4大会すべてに出場したが、男子立位は世界的に選手層も厚く、大柄な海外選手のなかで厳しい戦いが続いた。
「力の差が明確にあり、いろいろな力を伸ばさないといけない。体格面でも不利かもしれないが、今後は技術などでカバーできるように練習したい。今シーズン戦ってきて浮き彫りになった、いいところは伸ばし、悪いところは直して、来シーズンはひとつでも上の順位を狙っていきたい」
今の自分を冷静に受け止め、前を向く。
どんな経験も成長への肥やしになる。パラリンピックのある来季の終わりに、それぞれのどんな表情に会えるのか。今から、楽しみにしたい。
text by Kyoko Hoshino
photo by X-1