世界をリードする企業が実践するダイバーシティ雇用の最前線

2020.03.25.WED 公開

障がいのある方と一緒に仕事をしたことはありますか?実は、健常者と変わらない、いやそれ以上にスキルが高かったり、仕事が丁寧だったりと、プラスの驚きも多いのです。企業の労働力不足が問題視される今、障がいの特性を理解し、うまくマッチングさせて雇用する企業が増えつつあります。

4月からは障害者雇用促進法の改正が実施となり、多様な人々が活躍する社会へと移行するきっかけになるはず。そこで今回は、障がい者雇用を義務ではなく企業のメリットに繋げる採用のコツ、法改正のポイントなどについて、大手企業をクライアントにもつ障がい者転職エージェントの山口徳二さんに話を伺いました。

“義務”ではなく、会社にとって”有益”な人材を採用するポイントとは?

IT・アパレル・外資障害者転職エージェント ハッピー株式会社代表の山口徳二さん。グローバルブランドや国内大手企業など、世界をリードする企業への求人、転職・就職支援サービスを行なっている。
―――障がい者雇用を検討する際、有能な人材を採用するにはどんなポイントをチェックすべきでしょうか?

山口徳二さん(以下、山口):障がいの種類もいろいろで、大きく分けると、身体障がい、知的障がい、精神障がいの3つです。障がいの特性は人それぞれで、できないことや苦手なこともありますが、逆に突出して得意な作業分野があることも多いのです。たとえば、発達障がいのある方がこまかい数字のチェックに高い集中力を発揮したり、聴覚障がいのある方のパソコンのデータ打ち込みの速さや正確性は、健常者を上回ったりするケースもあります。苦手なこと得意なことの凸凹はありますが、業務内容がうまくマッチし、周りの人の理解と少しのフォローがあれば、障がい者雇用を機に企業の現場での生産性が向上する例は多くあるのです。企業にとっても最終的に収益アップに繋がるわけですから、これからは個々のもつ特性やスキルに注目して、戦力として採用することが大切だと思います。

―――企業にとっても形だけの雇用ではもったいない! 障がいの特性を生かせる業務の創出を進めることも、企業に求められることですね。

山口:はい。既にそういう採用にシフトする会社は増えつつあります。当社にご相談いただく案件でも、業務の創出をして、有能な人にしっかり働いてもらうという考えで雇用を検討されるケースは多いです。

―――なるほど。今までの障がい者雇用のあり方を変えるべき時期に来ているんですね。

山口:働くことに意欲的な障がい者はたくさんいます。お金のためだけでなく、自分の成長のため、社会の一員として社会参加を果たすこと、労働にはそういった目的もあります。今までの障がい者雇用の現場では、与えられる仕事が少なく待機時間が生じる、仕事でのステップアップが望めないといった、前向きなマインドの方にとっては悩みも多いケースが見受けられます。障がいの特性を生かせる仕事と巡りあえれば、やる気を出してバリバリ働きそうな方はたくさんいらっしゃいます。企業には、ぜひそういった埋もれた人材を発掘して、戦力として迎え入れていただきたいですね。

法改正によって企業側のメリットが増え、より雇用しやすい環境に

©️Shutter Stock

―――障害者雇用促進法が4月から改正となり、企業にとってもメリットが増えるそうですが、改正のポイントについて詳しく教えてください。

山口:数年前に、国の機関や自治体で障がい者雇用の水増し問題があったことは記憶に新しいですよね。それを機に見直しがされ、法定雇用率の達成のための数合わせの雇用ではなく、より実を伴う、障がい者が働きやすい社会作りを目指すために法改正が決まりました。改正の大きなポイントは下記の2つです。

◆事業主に対する給付制度
◆優良事業主としての認定制度

これまでは障がいの特性によっては長時間働くことが難しい人も多く、雇用に繋がりにくいのが実情でした。そこで今回の改正では、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の障がい者に対する支援として、雇用する事業主に給付金が支給されることになりました。

―――例えば、1日4時間で週3日働くケースでも該当するため、障がい者にとっては働き方の可能性が広がり、企業側も雇用しやすくなりますね。

山口:また、障がい者雇用に関して、一定の条件を満たした従業員300人以下の中小企業は、優良な事業主として認定されます。自社商品や広告に認定マークの使用が許可されたり、優良企業としての広報効果が期待できたり、さらには企業の多様性を尊重する姿勢が評価されて、障がいの有無に関係なく優秀な人材の採用に繋がるなどのメリットもあります。

―――こういった企業の取り組みを社会が支持することで、企業の意識もますます高まり、さらに障がい者雇用が進むといった、いいループが起きるわけですね。

障がい者雇用を成功に導く秘訣は、トリセツ&仲間のサポート

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―――民間企業で働く障がい者の数は56万人を超えて過去最高(2019年6月1日時点)(※1)とのことですが、その一方で1年後の離職率が平均37%という調査結果(2015年)もあるようです(※2)。安定就労に繋げるために企業ができることは?

山口:まずは、働きやすい環境作りですね。車いす利用者ならバリアフリー化など、物理的な問題は表面化しているため対策がとりやすいですが、ケアが必要なのは、目に見えない不安やストレスです。障がいの特性はいろいろで、仕事上で何がネックとなるかは本人にヒアリングしないとわからないことが多いですが、実際の業務で困ることや周りとの人間関係のストレスに対する配慮が、働きやすさを大きく左右します。

得意・不得意なこと、どういうシーンでサポートがいるのかなど、雇用する企業は働く人の障がいの特性について把握し、配属予定部署と情報を共有して現場の理解を深めることが大事になります。わかりやすく言ってしまうと取扱説明書を共有する感じです。その人の特性にもよりますが、例えば、指示は必ず紙に書いて渡す、集中しすぎる傾向があるため2時間ごとに休憩を促すなど、ちょっとした注意点を職場の仲間で共有し、フォロー体制をとることで障がい者の働きやすい環境を作れます。

当社のような人材紹介エージェントが間に入り、障がいの特性の説明、具体的な対応策、業務内容についての相談など、双方の立場を尊重しつつ就労までサポートさせていただくこともあります。以前に比べて、障がい者専門の窓口を設ける人材紹介会社も増えていますので、雇用を検討する段階で気軽に相談してみるとよいと思います。

―――障がい者の中には、言いたいことをうまく伝えられない人もいるので、第三者が間に入るというのは安心ですね。

障がい者とともに働く。そこから生まれた社内の変化とは?

―――障がい者専門のエージェントを経営される中で、障がい者を採用した会社で周りの社員にもいい影響が見られたケースもあるそうですね。

山口:私が紹介した車いす利用の方が就職した会社では、段差があるところでは誰かが率先して手伝うようになるなど、気づきが芽生え、ふだんのビジネスシーンでもやさしい気持ちをもてるようになったというお声をいただきました。また、IT系の会社では、聴覚障がいのある方が加わったことを機に、メンバーがローテーションで会議の議事録を作り、情報のキャッチアップをフォローする体制が生まれ、チームの一体感が醸成されたという例もあります。

―――個人で完結する業務が多いと、コミュニケーションレスになりがち。障がいのある人の安全面や働きやすさを守ろうと社員同士が協力し、絆が生まれる。会社としては願ってもない相乗効果ですね。

これからの時代は、多様性を受け入れる企業に人気が集中する!?

©️Shutter Stock

―――障がい者雇用が広がることで、社会全体にもいい影響があったりしますか?

山口:日本の人口は10年連続で減少しており、労働力不足は間近に迫る大きな課題です。障がい者の雇用が進むことは、そういった労働力不足の問題解決にも少なからず貢献できると思います。障がい者もそうですが、育児中のお母さんや介護をしている人など、労働条件に制限のある人の中には優秀な人材も多い。そういう人たちが辞めなくていい、持続可能な就業環境を作る経営が、結果的に企業の売り上げや発展に結びつくと私は思います。

週30時間の労働でも正社員として採用を継続する人事制度を作った会社もありますし、時短ワークやリモートワークを取り入れる会社もどんどん増えています。その背景には、労働力不足の中、優秀な人材に去られてしまうことが大きな痛手になるという考えもあると思います。障がい者雇用も含め、こういったD&I(※)な視点の働き方改革は、今後ますます進んでいくはずです。
※D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)= ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方。


多様な人を雇用し、個々が自分に合った働き方を選択できる会社には優秀な人材が集まり、また、多様な価値観から新しい事業が次々と展開し、発展していく。そんな未来がもうすぐそこまで来ています。企業だけでなく、働く私たち一人ひとりも多様性を尊重し合えるようになれば、誰もが活躍できる輝ける社会を実現できるはずです。

PROFILE 山口徳二
障害者転職エージェント ハッピー株式会社代表。1979年、神奈川県生まれ。米国ニューヨーク大学卒業。株式会社リクルートキャリア、パーソルチャレンジ株式会社で人材ビジネスに従事後、現在の会社を立ち上げる。自身も大病による後遺症で身体障害者手帳(下肢障害)を保持。その場限りの転職・就職支援ではなく、長期就労に結びつくよう、利用者に寄り添ったきめ細やかなマッチングを心がけている。

参考URL
※1:令和元年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省資料)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08594.html
※2:障害者の就業状況等に関する調査研究
(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター)http://www.nivr.jeed.or.jp/download/houkoku/houkoku137.pdf

text by Makiko Yasui(Parasapo Lab)
photo by Takeshi Sasaki, Shutterstock

『世界をリードする企業が実践するダイバーシティ雇用の最前線』