パラ選手が健闘! 国内最高峰・全日本ターゲットアーチェリー選手権

2020.11.05.THU 公開

スポーツ日和となった10月30日~11月1日、愛知県岡崎市龍北総合運動場にて、「第62回全日本ターゲットアーチェリー選手権大会」が行われた。

同大会はトップクラスのアーチャーだけが出場できる国内最高峰の大会だ。そもそもアーチェリーは健常とパラとの垣根がなく、同大会も申請記録などの参加資格を満たしていれば出場できるため、例年、パラアーチャーが参加する。

今年は、パラアーチャー7名が国内最高峰の大舞台へ。東京2020パラリンピックアーチェリー日本代表内定の重定知佳(女子リカーブ)が出場したことで、パラアーチェリーに注目が集まった。

パラアーチャー7名が国内最高峰の大舞台に挑んだ

コンパウンドに6名が出場!

アーチェリーはダイバーシティ社会を体現しているスポーツだ。実際、2016年には女子リカーブのザーラ・ネマティ(イラン)がオリンピックとパラリンピックの両方に出場。オリンピックの開会式では旗手を務め、パラリンピックでは2連覇を達成している。

ただし、リカーブのオリンピックのレベルは非常に高く、パラアスリートが上位に食い込むのが難しいのも事実。今回の全日本でリカーブ唯一の出場となった重定は、初出場の緊張もあったのか、予選ラウンドは67名中61位に沈み、涙を飲んだ。

全日本ターゲットアーチェリー選手権大会初出場の重定

これに対し、先端に滑車が付いているタイプの弓で戦う種目「コンパウンド」では、その差がぐっと縮まる。あいにくオリンピック競技にコンパウンド部門はないが、コンパウンド部門が設けられている大会も少なくなく、今大会もその一つ。2015年第57回大会では平澤奈古が、2017年第59回大会(台風の影響により予選ラウンドのみ)では永野美穂がそれぞれ3位入賞を果たしている。

さらに、社会人のみを対象とした全日本社会人ターゲットアーチェリー大会に目を向けると、2018年第51回の男子コンパウンドでは1位に宮本リオン、2位に安島裕とパラアーチャーが1、2フィニッシュ。2019年第52回は永野が優勝を飾っているのだ。

今大会出場のパラアーチャーも7名中6名がコンパウンド。さらに、東京パラリンピックの日本代表内定者がまだひとりも決まっていない種目でもあり、代表選考の行く末を占う試金石ともなりうるだけに、おのずと注目度は高まった。

新星の大江が存在感

自分に集中することを意識したと語る大江

出場者は男女とも3名ずつ。男子はベテランの安島と服部和正、大江佑弥。女子は永野、平澤、篠原彩だ。

男子の決勝ラウンド進出ラインは666点。それに対し、服部は6点差、順位もあと3名追い抜けばというところまで迫ったが、力及ばず敗退。安島は636点で28位だった。

女子も永野が9位(627点)、篠原が10位(613点)で敗退した。この結果に対し、永野は、「結果には結びつかなかったが、試合中はもちろん、試合前後の準備も含めた改善点を自分なりに見つけられたという意味ではよかったです。やはり活躍することによって、障がい者も健常者と同じように試合ができると伝えられると思う。今後もさらにパワーアップして、多くの方に見ていただけるようにがんばりたい」と前を向いた。

これに対し、決勝ラウンドに進出したのが、平澤と初出場の大江の二人だ。決勝ラウンドは1対1での対戦形式。1エンドにつき3射、計5エンド15射(150点満点)の合計点で競い合う。金的と呼ばれる10点、9点を射るのは当たり前、わずか数ミリのずれが勝敗を分ける、文字通り国内最高峰の戦いが繰り広げられる。

準々決勝に駒を進めた平澤(右)

二人はそこに挑んだわけだが、残念ながらどちらもトーナメント形式の1戦目での敗退となった。

いち早く試合を終えた大江は、悔しさをにじませた。
「ふがいないです。小学生から社会人になるまで野球をしていたのですが、脳出血での中途障がいとなってから、健常者と対等に、そして世界で戦えるスポーツを探して、アーチェリーと出会いました。向いているかは分かりませんが、素直に好きだと言えるスポーツ。またリベンジしたいですし、(右手が使えないため、弦を引く)歯が砕けるまで射ち続けたい」

これに対し、「全日で優勝が目標」と言っていた平澤は、自身の出来栄えに首をひねった。
「全日の出場は4年ぶり。チャンスがあるときにつかまないと、という気持ちで臨んだのですが、ちゃんと射っているつもりなのに入らない。どこをどう修正していいかわからない感じでしたが、最後、気持ちでど真ん中に入れられたので、やはり気持ちが足りなかったのかもしれません」

久しぶりの大きな大会で、表情も明るく

それぞれに反省点や課題はあるようだが、表情は一様に明るかった。それも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会開催自粛が続いている中で、初めて大きな大会が開催されたことが大きい。

「今回はコロナ後初の大きな試合なので、緊張というより喜びの方が大きかったです。私は試合に向けて生活リズムを作っていくタイプなので、試合があることは大きいし、今回のようにご配慮いただいた上で試合ができる環境を作っていただけたことがありがたい。ほかの方を見ていても、笑顔が多かったように思う。(アーチェリーを)やっていてよかったなと思いました」(永野)

惜しくも予選敗退となったものの、課題を見つけたと語る永野

「全国大会規模の試合は久しぶりだった。ほかの方々とも再会できて、こうしてアーチェリーができる環境に感謝ですし、何より楽しかった」(大江)

「パラリンピックが1年延期になり、がっかりしたり気持ちが切れたり、ということはありませんでしたが、やはり久しぶりに広い会場で射てて楽しかった」(平澤)

選手にとっては、試合に出場することで試合勘を磨くことも大切になる。その意味では、結果にかかわらず、今大会開催の意義は非常に大きかった。出場選手はもちろん、それ以外の選手も東京パラリンピック代表選考会に向けて、自身の射にさらに磨きをかけるきっかけとなったはず。とくに男子コンパウンドは、大江という新星の大躍進で、その行方が混とんとしてきたのではないか。まずは代表選考会に注目したい。

■平澤奈古 コメント

「4年ぶりの出場でした。やはり強い人と戦うのは楽しいなと思ったので、また来たいです。試合中に考えていたのですが、全日でもあまり緊張しなくなっちゃって、(敗因は)そこなのかなと。勝ちに行く気持ちがもっと強ければ緊張感も高まってパフォーマンスもよくなったのかなと思うのですが、それが強すぎても空回りしちゃうので。いつもいいフォームで射つことに集中すれば、それに伴って点がついてきてくれると思っているのですが、今回はそれがうまくハマらなかった感じです。
(東京パラリンピックについて)SNSで見ていると、世界中の選手たちが開催を信じて練習しています。なので、私もそこで迷っている場合ではないなと思います。開催できたら、海外の選手たちと久しぶりに再会できて心の底から喜び合えるでしょうね。私もその場にいたいので、やはり東京大会に出たい。そのためには、本当に出るんだという強い決意を、100%以上に上げることが必要なのかもしれません」

平澤はアテネパラリンピック銅メダリストだ

■大江佑弥 コメント

「今大会は、申請(に必要な)点を射てたので、それなら行こうとエントリーしました。(普段から)仲良くさせてもらったり、お世話になっている仲間の方がたくさんいるので、恩返しの意味も込めて、ぜひ参加したいなと。
(大会では)一射一射大切に射とうという想いで、ここまで来ました。予選前半は自分でもでき過ぎてびっくりしたんですけど、今持っている、自分がやってきたことがすべて良い方に出たのだろうと思います。これからも自分を信じて続けていこうと思います。
(そうはいっても、決勝ラウンドの結果は)ふがいないです。(僅差だが)負けは負けです。またここからリスタートでがんばっていきます。
(東京パラリンピック代表選考会は)まだ、僕が対象になるか分かりません。なので、僕はそこに左右されず、自分のやることをやっていくだけです。アーチェリーはもうすぐインドアのシーズンになるので、それに向けてセッティングも変えて準備します」

アーチェリーの魅力は「10点に入ったときの爽快感」という大江

【第62回全日本ターゲットアーチェリー選手権大会リザルト】

リカーブ女子:
重定知佳 61位(予選576点)

コンパウンド男子:
大江佑弥 9位(予選679点、決勝140点/8分の1イリミネーション敗退)
服部和正 19位(予選660点)
安島裕 28位(予選636点)

コンパウンド女子:
平澤奈古 8位(予選646点、決勝116点/準々決勝敗退)
永野美穂 9位(予選627点)
篠原彩 10位(予選613点)

国内トップアーチャーが勢ぞろいした第62回全日本ターゲットアーチェリー選手権大会

text by TEAM A
photo by X-1

『パラ選手が健闘! 国内最高峰・全日本ターゲットアーチェリー選手権』