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若手パラアスリート4人らがトークイベントに登壇。パラリンピックが与える社会への影響とは?
トークイベント「挑む 東京2020へ」が2月、東京都千代田区・毎日ホールで行われた。このイベントは東京2020に向け、毎日新聞が主催している。第3回目となる今回は日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPC)との共催で開催。
第1部はJPCの安岡由恵・国際課長が「教材『I’m possible』とその可能性」について講演し、第2部は「挑む 東京2020へ」と題し、東京2020パラリンピックで活躍が期待される若手4選手と、平昌2018冬季パラリンピック日本代表選手団の大日方邦子団長を招き、パラリンピアンが社会に与える影響などについて語り合った。
ロンドンのように満員にするには教育がカギになる
「“Impossible(不可能)”にアポストロフィーをつけるだけで“I’m possible(私はできる)”に変わる。これはちょっと考えて工夫するだけでできないこともできるようになるという意味が込められているんです」
第1部の講演会の冒頭、JPC安岡氏がそう話すと、会場を埋めた150人の観客は「なるほど」とうなづいた。講演のテーマは「教材『I’m possible』とその可能性」。『I’m possible』は、国際パラリンピック委員会が開発した学校教育の教材で、「パラリンピックの価値」「パラスポーツ」の2つをテーマにしている。座学とパラリンピック競技を体験できる実技の2種類があり、教師用には「授業ガイド」も用意。すでに教材キットは小学校などに配布されている。
日本版の教材作成に携わった安岡氏は、教材作成の際、心がけた点を「お忙しい先生方の負担にならないよう、パラリンピックの知識がなくても、これなら教えられると思ってもらえる教材づくりを意識した」と打ち明けている。
またJPCなどがパラリンピック教育に力を入れているのは、2012年のロンドンパラリンピックの会場が満員になった実績や経緯を取り入れているからだという。
「子どもたちが学校で学んだことを家族に話し、その家族が会場に向かったという現実があったからだと言われています。東京2020でも質の高いお客さんがたくさん会場に来て、パラアスリートの活躍を応援している場をつくれるよう、これからも開発を続けていきたいです」と1部を締めくくった。
「障がい者スポーツは、健常者が障がい者を理解するための近道」(柔道の半谷)
「挑む 東京2020へ」をテーマにした第2部では、芦田創(陸上競技/右上肢機能障がい)、森下友紀(水泳/左前腕欠損)、岩渕幸洋(卓球/両下肢機能障がい)、半谷静香(柔道/視覚障がい)の若手4選手が、平昌パラリンピック日本代表選手団の大日方団長とともに登壇。司会は日本パラリンピアン協会の河合純一氏が務め、トークショーは大いに沸いた。
東京2020でのメダル獲得が目標だとはっきり決意を語った4選手。司会の河合さんが「東京パラリンピックが多様性と調和を目指しているなか、最終的に共生社会を実現しなければいけない。パラリンピアンだからこそ、考え、発信しなければいけないのでは」と投げかけると、様々な意見を積極的に語った。
パネラーの最年少で昭和女子大で福祉を学ぶ森下が強調したのは、スポーツが持つ共生のチカラだ。
「私自身は普通学級で育ちましたが、まだまだ日本には障がい者と健常者が一緒に何かをする機会が少ない。でも、スポーツには両者が一緒にスポーツを見たり、競技をしたりという参加の仕方がある。何かを一緒にしてつながることがあると思うんです」
森下の言葉を受け、岩渕は海外と日本の違いを指摘した。
「日本と海外の人では、障がい者に対する理解が違う。海外のほうが声かけだったりが自然。日本は無関心か、気合いが入りすぎてしまっているかの二極化している気がしますね。もっと自然にしたほうがお互いにハッピーになるのでは」
さらに芦田がパラリンピアンの社会貢献について語った。年間約50件もの講演活動を行っているという芦田は「自分はナルシストなんで」と会場を笑わせたあと、「パラリンピアンの仕事は結果を出してカッコいいなと思ってもらうこと。勝利の先にある価値を生み出すことが共生社会に近づく」と話した。そこには自身が活躍し、見てもらうことでマイノリティーの存在が世に知れわたり、違いのある人々がともに輝ける社会をつくっていけるのではないかという思いがある。
また健常者に障がい者について知ってもらうためには「障がい自体を知ってもらうことが大事。そのためには、もっと障がい者が発信する必要があるのでは」と語ったのは視覚障がいの半谷だ。健常者と練習している半谷は、普段から練習相手にどんなサポートが必要なのか、はっきり伝えることを心がけているという。
「周りからはぼこぼこに投げられているようにしか見えないでしょうけど(笑)。でも私にはそれが必要で求めている。何が必要で必要でないか発信し、理解してくれたから、練習相手が手を抜かず、練習してくれるという状況があります」
こんな経験を踏まえ、半谷は「障がい者スポーツは、健常者が障がい者を理解するための近道である」と考えている。
この後も“共生”をキーワードにトークショーは、約1時間に及んだ。終了時刻を迎えると、司会の河合氏は「若い選手の言葉に力を持っていることを感じられたことでしょう。彼らはアスリートとしての軸と、障がいがあることによる軸があるから皆さんに伝えられる思いがある。これがパラリンピックの魅力であり、価値だと思う」と締めくくり、登壇者は観客から拍手で見送られた。
text & photo by TEAM A