陸上競技・佐藤友祈、ライバルと競い合って成し遂げたパラリンピック2冠の快挙

陸上競技・佐藤友祈、ライバルと競い合って成し遂げたパラリンピック2冠の快挙
2021.08.30.MON 公開

29日、オリンピックスタジアムで日本のエースが歴史に名を刻んだ。佐藤友祈が今大会2つ目の金メダルを獲得したのだ。自身の持つ世界記録更新こそならなかったが、出場した2種目ともに大会新(パラリンピックレコード)。好タイムの裏には、コロナ禍でも最高の仕上がりで来日したライバルとの競り合いがあった。

ライバルとの激しい一騎打ちに

――最後までどちらが勝つかわからない魂が揺さぶられるレースだった。
27日に行われた陸上競技400m(T52)決勝。5年前のリオパラリンピックで銀メダリストだった佐藤が、リオの金メダリスト、レイモンド・マーティン(アメリカ)に競り勝ち、今大会一つ目の金メダルを獲得した。

この日、トラックに登場した佐藤の表情は緊張でこわばっていた。日本代表選手団の絶対的金メダル候補として期待されてきた重圧もあるだろう。

「世界記録保持者・佐藤友祈」。スタート地点で選手紹介のアナウンスが流れると、力強くガッツポーズ。佐藤の中で緊張が力に変わる瞬間だ。

朝の予選でミスもあったという漕ぎ出しは「100点満点」。佐藤は5年前のリオとは別人といえるほどの気迫をまとっていた。

スタートはいつも通り漕ぎ出しの速さが武器のマーティンがリード。佐藤は持ち味の「中盤からの伸び」で徐々に追い上げていく。2019年の世界選手権ではホームストレート入口で首位に躍り出た佐藤だが、この日はマーティンの加速も止まらない。佐藤は残り20mで捲り差し、5年越しのパラリンピックタイトルを獲得。佐藤は55秒39、マーティンは55秒59で、世界記録(55秒13)に迫る好タイムを残した。

400m決勝は終盤までどちらが勝つか分からない手に汗握るレース展開となった
photo by Takashi Okui

そのマーティンは佐藤の競技人生でもっとも大きな存在と言っていい。

「これまでで一番悔しかったのは、リオパラリンピックでマーティンに負けたこと。これまでで一番うれしかったのは、そのマーティンに世界選手権でリベンジできたこと。でも世界チャンピオンだけじゃだめなんです。パラリンピックの借りはパラリンピックで返さないと」
大会前にそう語っていただけに、この勝負には異常なほどのこだわりがあった。

ついにマーティンに勝利してパラリンピックのタイトルを獲得した佐藤は、試合後言葉を詰まらせながら、ライバルに対する特別な思いを口にした。

「2015年の世界選手権で初めてレースを一緒に戦って、そこで400mではマーティン選手が出場していなくて金メダルという結果だった。1500mはマーティン選手にレースを支配されてしまい、無力感でいっぱいで。そして、翌年、リオパラリンピックに出場し、そこで土をつけられたからこそ、この東京大会でリベンジを果たす、そして世界記録という新たな目標を設定することができたと思う。マーティン選手には非常に感謝している」

一方のマーティンも、
「競い合った結果、2人ともいいタイムが出た。リオと結果は逆になったが、とてもいい気分。生涯の中でもベストに近いレースを僕たちはできた」
と満足そうに話した。

勝負に徹してつかんだ2つ目の金メダル

そのレースから2日後の29日、男子1500m(T52)決勝に登場した。第1レーンのスタートラインに着くと、スタートを待つまでの間、表情は引き締まっている。隣の第2レーンは、400mでも争ったライバル、マーティンだ。

カメラを向けられると、しまった表情でぐっとこぶしを握り締めてガッツポーズ。そこからも、このレースにかける気合いが感じられた。

スタートから予想外の展開となった。マーティンの後ろに着くプランを立てていたというが、マーティンが前に出ない。そのため、第1コーナーに入る手前あたりで前に出た。その後ろをぴたりと、マーティンがつけている。1周と4分の1あたりで、3位につけていた上与那原寛和が徐々に離れ始め、金メダル争いは早くも二人に絞られた。

残り一周でも状況は変わらず。何度もスパートをかける佐藤にマーティンはくらいついていたが、最後のストレートで佐藤がマーティンを振り払い、フィニッシュ。大きくガッツポーズをして見せた。

400mにつづき1500mでも優勝し、2冠を達成した佐藤
photo by Jun Tsukida

金メダルを胸にした佐藤は、誇らしげに言った。

「リオでは銀メダル2つだった。だから2つ金メダルを獲らないとマ―ティンに勝てたとは言えない。2つの金メダルを獲ることができて感無量です」

素晴らしい敗者がいて、勝者がより輝きを増す。そこには勝負の醍醐味があった。

400m表彰式でメダルを掲げる(写真左から)マーティン、佐藤、上与那原
photo by Takashi Okui

text by TEAM A
key visual by Jun Tsukida

『陸上競技・佐藤友祈、ライバルと競い合って成し遂げたパラリンピック2冠の快挙』