日本が9種目制覇! JAPANパラバドミントン国際大会2018
「ヒューリック・ダイハツJAPANパラバドミントン国際大会2018」は、9月26日から30日までの5日間、東京都・町田市立総合体育館で行われた。2回目である今大会に14の国と地域から109人が参加。日本は12種目の決勝戦に進出し、18種目中9種目で頂点に立った。
圧巻の強さを見せた車いすの山崎
バドミントンで勝つための基本はミスをしないこと、そしてシャトルの下に素早く入り、コート4隅へ正確に配球することだ。 車いすバドミントンでも、勝つ基本は変わらない。世界ランキング1位の山崎悠麻(WH2/車いす)は、そんな当たり前のことをあらためて教えてくれるプレーで、女子単複、混合ダブルスの3種目で頂点に立った。
光ったのは高く遠くへ飛ばすクリアーと、コート前方へ山なりに落とすドロップショットだ。「私の基本はクリアーとドロップ」と語る通り、山崎は対戦相手をしっかりとコート奥に押し込んだあと、ドロップで相手を前に動かすラリーで押し切った。
山崎は、まず里見紗李奈と組んだ女子ダブルスで福家育美/小倉理恵組を9本、15本で圧倒すると、小倉との女子シングルスも25分で終わらせ2連覇を達成。WH1シングルス世界ランキング1位の韓国選手と組んだ混合ダブルスも基本に忠実なクリアー&ドロップで乗り切った。
自身初の3冠達成は、ここ1年の肉体改造とチェアワーク改良のたまものだという。小学生時代、強豪ジュニアに所属し全国大会出場の経験もあるだけに、もともとショットの正確性には定評があった。しかし、経験の浅いチェアワークには課題が多く、昨年10月より様々な微調整を試みた。
さらに2月からトレーナーをつけて、利き腕側の肩周辺に負荷をかけるなどして体幹を強化。コート奥の球を返球する際、のけぞった体を前に戻す速さや、コート前方に出るスピードが格段に上がったという。
来週からはいよいよ今年最大の目標であるインドネシア2018アジアパラ競技大会が始まる。「変なミスをせず、丁寧につないでプレーしたい」と静かに闘志を燃やしている。
20歳の里見紗李奈が車いすWH1で2冠
山崎と女子ダブルスでペアを組んだ20歳の里見(WH1)は、今大会でもっとも大きな歓喜を味わった選手だ。スイス選手と対戦した女子シングルス決勝は2ゲーム23オールから2連続得点して勝利。2冠を決め、観客席から「おーーっ!」と声があがると、喜びがこみあげ涙ぐんだ。
実は国際大会に出場するのは2回目。優勝するのは初めてだった。パラバドミントンを始めたのも2017年5月からと最近だ。
きっかけは、父親に「何か夢中になれることを探したら」と声をかけられたことだった。2016年5月に交通事故で脊髄を損傷し車いす生活になってから、人とのかかわりを遠ざけがちだった。この言葉をきっかけに運命は動く。
体育館に出かけて初めてプレーした日、日本代表の村山浩から、「パラリンピック目指せるよ」と声をかけられる。すると実力は順調に伸び、今年4月に日本代表入り。挑戦によって、心の明るさも取り戻した。
今では恐る恐るだが、世界で戦う覚悟も持つようになっている。
「アジパラでは、日本代表としてメダルを獲りたい。自信はあるとはいえないですけど、どれだけ食らいつけるか、しっかり試してきたいです」
持ち味は相手をコート奥に押し込めるクリアー。パワフルさを見せつけ、“パラバド界”に新しいヒロインが誕生した。
上肢障がいのシングルスは今井大湧と鈴木亜弥子が頂点に
SU5(上肢障がい)の鈴木亜弥子も単複で勝ち抜き、2つのタイトルを手にした。まず女子シングルスで杉野明子に圧勝して2連覇を決めると、大会直前に出場が決まった山田麻美との暫定ペアで女子ダブルス(SL3-SU5)も制す。
どちらの種目でも見せつけたのは、鈴木の戦略の豊富さだ。完敗を喫した杉野は、「とにかく頭脳派。強いスマッシュを打ってくるわけではないのに、動かされてしまう。先の先を読む力がすごいです」と鈴木を評す。
ダブルス決勝でも鈴木は、ペアとしての動きになれず1ゲームを失うが、2ゲーム目からは、高く奥へ配球したあと、ネット際に落ちるカットを使って相手を前後に揺さぶる戦略に勝機を見出し、逆転勝ちして見せた。
アジパラでは、女子シングルスのみにエントリーしている。「今年は、アジパラで勝つことを目標にしてきました。常に中国選手に勝つことをイメージして練習しているだけに、約1年ぶりの彼女との対戦を楽しみにしています」と打ち明ける。もちろんその視線の先に見据えているのは、東京2020パラリンピックでの金メダルだけだ。
悲願の初優勝を遂げたのは、世界ランキング3位の今井大湧だ。SU5の男子シングルスで昨年3位の悔しさをはらした。
決勝の相手は同格のポーランド選手。会場には家族、大学の仲間たちからの大きな声援が響き、「心が折れそうなときもグッとこらえられた」という20歳は、「自分のほうが上だという気持ちをつくり」1ゲームは中盤から抜け出した。試合後、今井は「今回は気持ちの作り方の面で大きな収穫があった。これからは応援がなくても勝ちに行く心構えをしっかりつくりたい」と明かしている。
さらに今年から母校・日体大のトレーナーの指導で、下半身を強化したことも試合に生かせた。「体幹を使わなくても早く羽根の下に入れるようになった」と話し、最後までシャトルをコントロール。準決勝ではラリーを強いられたが、決勝では得意の攻めに徹し、14本、11本で相手を圧倒した。
アジアパラでは、世界ランク上位のマレーシアとインドネシア選手を倒すことが目標だ。これまで一度も勝ったことがなく「少しきついけど、金メダルがほしい。速いタッチとフェイントで崩してくるので、しっかり我慢してラリーにして攻撃できれば」と高みを目指している。
このほか、日本はSL3(下肢障がい)の藤原大輔がタイ選手と組み優勝。シングルス決勝での敗戦は「直近、ラリーして負けているのに、昨年、ラリーで勝ったイメージで戦ってしまい完敗でした」と反省したが、ダブルスは「パラリンピック種目にこのクラスはないので国を越えて組んでいる。組むのは2回目で相性はいいと思う」と手ごたえを得ていた。
SL3-SU5の混合ダブルスで末永敏明/杉野明子組もタイペアを破り、世界ランキング2位の貫禄を示した。末永は「後衛から2人で強打できるのが僕らの強み。2016年のアジア選手権で優勝して自信をつけ、パラリンピックでも金メダルをめざしている」と話す。目前に迫るアジアパラは、2年後のパラリンピックを見据えた戦いになる。
※世界ランキングは2018年8月16日時点
text by Yoshimi Suzuki
photo by X-1