垣田と岩渕がアジアパラ団体戦で金メダル! パラ卓球JAPAN躍進の秘密

団体戦で金メダル! アジアパラ卓球JAPAN躍進の秘密
2018.10.17.WED 公開

「前回大会のメダル数は、肢体不自由選手の5個(知的障がいを合わせると7個)でしたが、今大会では倍以上のメダル獲得を目指します」

10月6日から開幕したインドネシア2018アジアパラ競技大会。肢体不自由者卓球の日本代表チーム主将・垣田斉明には手ごたえがあったのだろう。大会の開幕前からこう宣言し、自身は岩渕幸洋と出場した男子団体(クラス9-10)で金メダルを獲得。さらに日本代表は銀2個、銅メダル6個と合計9個のメダルを手に入れた。

日本代表チームを率いた垣田

アジアには強豪もいる中、日本のこの結果は、躍進といっていい。優勝後、垣田は「世界選手権以来、4年ぶりに岩渕と組んでお互いの成長を感じられた」と話していたが、成長の勢いは2人だけの話に収まらない力強さがいまの日本にはある。

勝利への渇望を生む日本代表の自覚

この好結果は何によってもたらされたか。立石イオタ良二コーチがまず指摘するのは、選手に日本代表である「自覚」が増した点だ。

「スポンサーさんの支援を受けたり、今年度に入ってメディアへの露出が増えています。選手が自分自身で思う以上に、勝とうという強い気持ちが強まっていますね」

たとえば、アジアパラ直前には、メディアに公開練習日を設けるとともに、直前記者会見を実施。日本肢体不自由者卓球協会は、選手に「チームJAPAN」の一員である高い意識を促した。

チームの柱でもある垣田(左)と岩渕(右)

直前合宿もいい風を吹かせた。ジャカルタ出発直前の4日間、日本代表は日本財団パラアリーナで4日間の合宿を行い、垣田は「選手それぞれが目標を明確にできたと思います」と振り返った。
さらに昨年から日本リーグの強豪実業団に所属し、4月からフルタイムで練習に専念する岩渕は、合宿を岩渕ならではの問題解決に充てたという。

「パラ卓球の選手は、ボールの捕らえ方が違うんです。たとえば健常の選手だと速く打たれるシーンも、パラの場合はボールがゆっくり返ってくることもある。僕はゆっくりしたボールが取りづらく、そこにうまくタイミングを合わせられたらというのが合宿の狙いでした」

戦い方をパラ卓球モードへシフトする。そんな時間が持てたことも、エースが団体で金メダル、男子シングルスで銀メダルをつかめた要因の一つだった。

2人のコンビネーションも冴え渡った

試合の悪い流れを変えた外部コーチの存在

さらに日本が「メダル倍増」計画を遂行させるためになくてはならなかったのが、アジアパラに初めて帯同させた外部コーチの存在だ。今回、チームに加わったのは、健常者の全日本選手権でダブルス準優勝の実績を持ち、現在も選手でありながら、プロコーチを務める時吉佑一氏だ。

「卓球選手なら、誰でも名前を知る時吉コーチの言葉には説得力がある。さらに普段からジュニアやレディースにも教えているだけあって、指導の言葉が分かりやすい。選手として最新の卓球も熟知しており、優れた指導力を持つ方なんです」(立石コーチ)

そんな時吉コーチの手腕がもっとも発揮されたのは、垣田、岩渕が金メダルを獲るための大一番となった中国戦第1試合のダブルスだった。奪っては奪い返される熱戦で、勝利を3-1で引き寄せられたのは、「時吉コーチが送った言葉が効いて、試合の流れを引き寄せられた」(立石コーチ)からだという。
続いての第2試合は、世界24位の垣田が世界4位のリャン・ハオにストレートで敗れたが、第3試合で岩渕がコン・ウェイジンを3-0で突き放し、歓喜の瞬間を迎えた。

時吉コーチ(左)と握手する岩渕

「普段、大会には一人で行くのが当たり前。でも健常者のトップでやられていた方が見てくださるようになるなど、環境のよい変化が結果につながっていると思います」とは岩渕の弁だ。

さらに時吉コーチの手腕は、試合中以外でも発揮された。垣田、岩渕が出場したのはクラス9と10のコンバインド(隣り合うクラスを合わせた統合クラス)。中国選手が2人とも障がいが軽いクラス10だったように、この種目にはクラス10の選手2人を出させることが多い。

ところが、時吉コーチの采配は違った。クラス10の垣田とクラス9の岩渕のペアに勝機を見出した。左利きの垣田、右利きの岩渕という組み合わせなら、さほど動き回らなくてもチャンスは作れるはずだという思惑もあったという。その策略は見事にはまった形だ。
岩渕にとっては、プレッシャーが多くかかる試合だったはずだが、それだけ大きなものも手にしている。

「中国戦だけでなく、台湾戦も一つ障がいの軽いクラスの選手たちを相手に勝てた。これを自信にして来週の世界選手権に臨みたいと思います」

選手の力量を正しく見極め、難しいと思われる試合にも送り出し、勝たせ、そして自信を与える。ジャカルタで飛躍した日本代表には、選手が日本代表であることの自覚、以前よりも充実した練習環境、そして選手を前へ前へと、力強く歩ませる指導者の慧眼もあった。

卓球は8日間にわたる熱戦が繰り広げられた
クラス11(知的障がい)は、木川田優大(写真)と高橋利也が銅メダル

text by Yoshimi Suzuki
photo by Haruo Wanibe

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