“続かない”を“続く”にする方法。運動を習慣にすれば人生は変わる

“続かない”を“続く”にする方法。運動を習慣にすれば人生は変わる
2022.07.19.TUE 公開

コロナ禍で、家に引きこもりがちになったとき、運動不足にならないよう体を動かしたい………と思ったものの、それが習慣にならず諦めてしまった……という人は少なくないのでは? 飽きっぽいとか、長続きしないという性質はネガティブに受け取られるものの、“習慣化”がいかに難しいかはみんなが知っている。とはいえ健康維持のために運動をしたい人が、それを習慣づけるにはどうしたらいいのだろうか? 習慣化コンサルタントの古川武士氏にうかがった。

“習慣化”を阻むのは、実は脳 !?

習慣化コンサルタントの古川武士氏

5万人のビジネスパーソンの育成と、1000人を超える個人のコンサルティングの実績がある習慣化コンサルタントの古川武士氏は、「早起き」「運動」「片付け」を、人生にインパクトをもたらす習慣3種の神器と呼んでいる。この3つは誰もが習慣づけたいと思って挑戦するが、なかなか実現しないことの代表格と言って良いのではないだろうか。

「“習慣化”とは“自分が続けたいと思っていることを、意志や根性に頼らず、毎日のハミガキのように楽々続く状態に導くこと”です。つまり好き嫌いにかかわらず「無意識の自動化状態」にすれば、習慣にできるということ。習慣は脳によって作られたプログラムなんですが、そもそも脳は良い習慣・悪い習慣を区別することはありません。ですから、運動でも、早起きでも、あるいはネガティブに捉えられる飲酒や喫煙でも一定以上繰り返せばそれを習慣としてシステム化してくれるのです」(古川氏、以下同)

一方で人間には、新しい変化に抵抗し、いつもどおりを維持しようとする傾向もある。どんなに環境が変化しようと平熱を保とうとする働き(ホメオスタシス)に象徴されるように、新しい習慣を身につけることを脅威に感じ、元のままでいようとする力、古川氏曰く「習慣引力」が働く。だから人は、何かを続けようと思っても、3日坊主になりやがて挫折…という悲しい結末を辿るのだそう。そんな習慣引力にあらがうにはどうしたらいいのだろうか。

「運動の習慣化についてまず言えるのは、人には大きく分けて運動が好きな人と嫌いな人がいるということです。好きな人は運動をすると気持ちいい、快感が得られると言って放っておいてもやります。でも苦手意識がある人は、そもそも動くことに抵抗があるので、やろうとするとものすごいエネルギーが必要になって、まるで楽しくない。この差は大きいと思います。まず、それを前提に考えた方が良いですね」

「習慣引力」の観点から言えば、運動が心から楽しいと思えない人は少なからずこの引力に引っ張られてしまい、習慣化できないということだろう。

ハードルは低く、できることからベビーステップで始める

とはいえ、健康に生きるために必要なこととして、どんな分野の専門家でも挙げるのが「運動」だ。一生のテーマとも言えるだろう。そこで古川氏は運動を習慣化するポイントとして次の3つをあげた。

1.時間を見つける
2.自分に合ったもの(合ったスタイル)を見つける
3.ベビーステップ

「忙しい現代人にとって運動を習慣化する際にボトルネックになるのは、時間がないことではないでしょうか? 運動したい気持ちはあっても、時間が見つけられない、そんな時間があったら他のことに時間を使いたいと考えても不思議はありません。ですから、時間をどうやって見つけるかは重要です。次に、自分が取り組みやすいスタイルを見つけること。ジムに通うとか、ジョギング、ウォーキングをするとかだけが運動ではありません。YouTubeで楽しいダンス動画を見つけたら一緒に踊るのでも良いし、ただ歩いたり走ったりするのがつまらないと思うなら、夫婦で歩いても良いし、ラジオの語学講座でも聴きながら勉強との一石二鳥を狙うとかでも良いと思いますよ」

そして、何かをやりはじめたとき、最初の挫折となるのが、何ごとも完璧にやりたいという「完璧主義」。やろうと思ったけど時間がない、気が乗らない、急な残業が入った……やる気を削ぐ理由はそれこそ無限にある。少しでもそういったネガティブ要素があると、「完璧主義」タイプの人ほど、挫折しやすくなるという。

そんな習慣引力の力に対抗するのがベビーステップだ。

「ウェアに着替え外に出て1時間走ると言うことを運動だと思っていると、ウェアに着替えて外に出るエネルギーが出ない、雨が降っている、帰宅したら子どもに遊びをせがまれて、相手になっているうちに面倒くさくなって……など、なんでも完璧にと思っていると言い訳はいくらでもできます。つまり、一番大事なのは“初動”なので、そこを小さくベビーステップ(赤ちゃんの一歩)で始めましょうということです」

ベビーステップのポイントは、1時間ではハードルが高いから5分にする、ジョギングではなくウォーキングにするなど(1)ハードルは徹底的に下げる。それでは十分な効果が得られないのではないかと思うかも知れないが、ベビーステップは行動を起こし続けることに意味があるので、(2)物足りなくても続ける。そして、(3)必ず毎日続ける。この3つが守られれば、ストレスも少なくモチベーションにも火が付きやすいので習慣化が容易になるという。

習慣化には、目的や意味づけも重要

古川氏自身は、24時間営業している空手の道場の会員になっているそうだ。稽古の日は決まっているが、それ以外は24時間いつでも行ってミットを叩くなど体を動かすことができるのが自分に合っていると語る。

「私は、たとえばジムでマシーンを使って機械的に動くというのはダメで、空手道場でミットを叩くというのが性格的に合っているんです。またリモートワークで働いているので、いつでも行けるというのも都合が良い。ただ、それだけでは不十分なこともあって、私の感覚で言うと、運動への意味づけ、目的のようなものも習慣化には重要だと思います。私の場合1つめはまず睡眠。運動をするとよく眠れるという快感。睡眠の質が良くなるので、起きている間ずっと調子が良くて仕事もはかどります。すると、毎日の気持ちいいリズムができて幸福度があがるというのが2つめの目的です」

運動をすると幸福度があがるセロトニンやドーパミンが増えるということもさることながら、自分で決めたことを実行できた、自分の人生の舵を自分で握っているという「コントロール感」を得られることも、習慣化の目的として重要なのではないかと古川氏は語る。

「会社に行けば上司からあれをやってこれをやってと指図され、電話がかかってきたり、トラブルに巻き込まれたりする。家に帰れば帰ったでまた、家族のことに振り回されて……と、人は一日のうちで、自分のことを自分でコントロールできているという“コントロール感”をどれだけ持つことができているでしょうか。運動を習慣として毎日行うことで、そんなコントロール感が上がることもモチベーションに繋がると思います」

運動により毎日の気持ちいいリズムができて幸福度があがることにも関係するが、古川氏の場合、運動をすると脳の想像力が爆発するような感覚が得られたのだという。つまり仕事もうまくいくようになったとき、運動の意味づけが変わり「仕事への投資」になる、運動も仕事のうちなのだということを実感したのだそうだ。

人生のコントロール感を握るために。よりよい生活、よりよい人生のための習慣化

最後に運動の習慣化をストレスの面から見てみよう。運動をきちんとしている人は、朝早起きをして、暴飲暴食もせず、睡眠もきちんと取れているというイメージがある。運動を習慣化したいという気持ちの裏には一日を自分の満足のいくように過ごす、つまり「コントロール感がほしい!」という叫びがあるのではないかと古川氏は言うのだ。

「お酒やギャンブル、ついつい夜遅くまでYouTubeを観てしまうとか、スイーツが止められないというのは、それらをストレスのはけ口にしているという側面がありますよね。だとしたら、ストレスをうまく癒やす方法を考えるべきであって、ただ闇雲にお酒をやめたい、夜更かしをやめたいと思っていても叶わないということなんです。そういう習慣をやめたいのなら、やめる方法を学ぶのではなく、ストレスを軽減する、自分のコントロール感を取り戻すことから始めるべきでしょう」

そこで話は運動に戻るというわけだ。運動は、ストレスに苛まれ、ついつい悪い習慣にそのはけ口を求めてしまう人の生活のバランスを整えることにも役立つ。運動の習慣化は、単に健康増進のためのノウハウではなく、もっと人生や、人の生き方にかかわってきそうだ。

「運動を習慣づけたい、早起きを習慣づけたいなどと言いますが、人が本当にしたいのは、何かを習慣化することというより、調子の良い1日を過ごすことなんです。人生を良いリズムで、良いシステムで生きることが根底にある。つまり私は、習慣化とはよりよい生活、よりよい人生のための手段のひとつとしてあるものだと思っています。夜、寝る前に1日を振り返ってみて、今日はよい1日だったと思うことができれば、クオリティ・オブ・ライフを向上させることは可能です。まずは1日1日積み重ねていくつもりで、習慣化を身につけていってほしいと思います」

お話を伺った日も、これから空手の道場へ行くと予定だと言う古川氏。すっきりとした笑顔から、良いリズムで日々を過ごされていることが窺えた。運動の習慣付けを考えることに始まって、人生のよいリズム、システム作りへ。習慣というものの意味、深さに気づかされた。

PROFILE 古川武士
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。
関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。5万人のビジネスパーソンの育成と1000人以上の個人コンサルティングの現場から「習慣化」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術をもとに、個人向けの習慣化講座、企業向けの行動変容・習慣化研修を行っている。著書は22冊100万部を超え、中国・韓国・台湾・ベトナム・タイでも広く翻訳されている。主な著書に、『30日で人生を変える「続ける」習慣』『新しい自分に生まれ変わる「やめる」習慣』(以上、日本実業出版社)、『性格4タイプ別習慣術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

text by Sadaie Reiko(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

“続かない”を“続く”にする方法。運動を習慣にすれば人生は変わる

『“続かない”を“続く”にする方法。運動を習慣にすれば人生は変わる』