若手の活躍光った2022ジャパンパラ水泳競技大会、花の都を見据えて競争激化

若手の活躍光った2022ジャパンパラ水泳競技大会、花の都を見据えて競争激化
2022.09.30.FRI 公開

パリ2024パラリンピックまであと2年。6月のマデイラ2022WPS世界選手権大会(ポルトガル)でメダルを獲得した鈴木孝幸木村敬一富田宇宙らベテラン勢の存在とともに、活躍を見せる選手たちがいる。1年前、初出場したパラリンピックの悔しさをバネに練習に励む20代選手やパリで表彰台を目指す10代選手たちだ。9月17日から3日間の日程で行われた2022ジャパンパラ水泳競技大会で新記録を打ち立てた伸び盛りの選手に注目した。

パリを見据えて着実に進化する大学生スイマー

練習量に絶対的な自信を持つ南井。世界を見据えたタイム設定で練習を重ねる

「世界選手権では個人で決勝に一つも進めず、本命の100mバタフライではベストを出せずに終わってしまった。ジャパンパラでは1分を切ることが目標。そのための練習は長らくやっているんです」

そう話すのは、水泳ではもっとも障がいが軽く、レベルも高いS10クラスで世界と戦う大学2年生の南井瑛翔だ。関西の名門・近畿大学体育会水上競技部で練習に励む。高校時代に頭角を現した南井だが、進学後の伸びしろは天井知らずで、昨年は東京パラリンピックに出場。今年は世界選手権に初出場を果たしている。

生まれつき左足に障がいがあり、水を蹴り進むパワーが弱い。さらに腕の動きを意識するあまり、「キックが止まってしまっていることがある」といい、今大会の100m自由形では後半、75m以降のキックを意識することでラストスパートにかけた。その100m自由形では日本新記録。50m自由形でも日本記録を更新する活躍を見せた。

そして、大会最終日。迎えた“本命”の100mバタフライでアジア新記録を樹立した。だが、南井の喜びは控えめだ。記録は1分00秒22。国際大会でメダルを狙うには57秒台に到達しなければならない。「次の大会では必ず59秒台を出したい」と少し悔しそうな表情でプールを後にした。

200m個人メドレーをメイン種目にする大学生スイマーの由井

世界選手権の200m個人メドレー(SM5)で自身初メダルの銅メダルを獲得した大学2年生、由井真緒里も波に乗っている。専門の200m個人メドレー決勝で、自身の持つ日本記録に迫る3分46秒07をマーク。100m平泳ぎでも自己ベストを大きく縮め、日本新を記録した。

平泳ぎの強化をしてきた。キツくなる後半は水を掴む動作をより意識しているという。「結果が出てうれしい」と話す由井は、次に勝負をかける大会の200m個人メドレーで自己ベスト更新を誓った。

新たな環境でパリを目指す

東京大会でパラリンピックに初出場した選手の中では、今年最大の大会だった世界選手権出場を逃した26歳の西田杏、22歳の窪田幸太が奮起、新たな記録を樹立した。

好記録を連発した西田はスプリント2種目を強化

東京大会後、所属や練習環境を変えて強化する西田からは、パリにかける強い気持ちがうかがえる。「いい準備ができ、自信をもって臨むことができた」という今大会では、初日に50mバタフライ(S7)で自身の日本記録まであと0秒03迫る37秒04をマーク。

最終日の50m自由形は予選、決勝ともに日本新を記録した。スタートに課題があるといい、泳ぎ方も2ヵ月前に変えたばかり。「すべてがハマったわけではない」という西田の進化はまだまだ止まらない。

100m背泳ぎ(S8)は、22歳の新社会人・窪田が制した

東京大会100m背泳ぎ(S8)で5位と健闘した窪田はこの春、日体大を卒業。パリの活躍も期待される若手のひとりだが、社会人になった責任感からか、表情が引き締まったように見える。

その窪田は、日本記録を保持する2位の荻原虎太郎とともに100m背泳ぎで大会新記録を樹立。1分07秒57の好タイムで、昨年の1分09秒台から記録を大幅に短縮させた。

「最後、タッチが合わなかった。1分06~05秒台を狙っていた」と話す窪田は、少し納得のいかないといった表情でこう明かす。

「6月の大会で荻原がバタフライのキックでバックを泳いでいた。そのときは普通に泳いでいたが、それも(泳法上)いいんだと知って、今回、僕も真似をしました」

もともと前半に強い窪田だが、1回のキックやひとかきで進む距離も長くなったことで後半の粘り強さも磨かれつつある。

100m自由形で優勝した荻原も「彼にあまり、負けたことがなかったから、(100m背泳ぎで2位になり)すごく悔しい。次こそ勝ちたい。今後、大きな大会の100m背泳ぎで彼と表彰台に上がれたら嬉しい」と言い、国内で切磋琢磨できるライバルの躍進を歓迎した。

東京大会はバタフライなどで出場した荻原。今は練習で泳いでみて速かったという背泳ぎに注力

ふたりのハイレベルな対決は、日本代表の上垣匠監督も「国内のライバル争いが激化した。見ごたえがあった」と話すほどで、今大会のレースの中で会場が最も沸いたと言っていい。

上垣監督によれば、水面でのバサロキックは、潜水しなければ泳法違反にならないという。今後、国内でも同様の泳ぎでタイムを縮める選手が現れるかもしれない。

大会を盛り上げたヒロインたち

アジア新記録を打ち立てた16歳の福田

女子も新たなライバル対決が話題を集めた。福田果音と宇津木美都。高校生と大学生による100m平泳ぎ(SB8)の対決は、昨年頭角を現した16歳の福田が勝利した。福田は、予選で1分25秒68のアジア新記録を樹立。

200m個人メドレー(SM9)でも2分51秒50で優勝するなど好調だ。

好調の要因は「キックの強化に取り組めたこと」。また、プール以外でもフィジカルトレーニングに取り組み、体幹や下半身の筋力を強化してきた。

ポジティブさと強い気持ちが持ち味で、ほとんどの選手がパリに向けての明言を避ける中、「世界選手権1位の選手の泳ぎを研究したい。パリの舞台でメダルを獲ることが目標」ときっぱり。パラ水泳の新たなヒロインとして注目を集めている。

一方の宇津木は、下半身だけでなく、全身をくまなく使えるよう、平泳ぎの泳法改善に取り組んでいるという。このまま第一人者の座を福田に譲るつもりはない。

表彰で笑顔を見せる宇津木(左)と福田(右)

3年ぶりに有観客で行われたジャパンパラ。前途のライバル対決のほかにも、リオ2016パラリンピック50m自由形(S9)銅メダルの山田拓朗が、大学生の岡島貫太とのデッドヒートを制するなどの見どころは多かったが、今大会は4つの日本記録を打ち立てた高校1年生、木下あいら(S14など)抜きには語れない。だが、国際クラス分けは未受検。10月に初めての世界大会を経験する予定となっている。「マルチに活躍できる。大切に育てていけばメダルの可能性もある選手」と日本知的障害者水泳連盟の谷口裕美子コーチも目を細めて語る存在だ。

新鋭の木下は、自由形や個人メドレーを得意とする

11月には「日本パラ水泳選手権大会」(長野アクアウィング)、来年3月には「2023パラ春季水泳記録会」(富士水泳場)が開催予定。目の離せない大会が続きそうだ。

「そろそろ世代交代。でも50m自由形は意地でも勝ちたい」と山田(中央)。2位の岡島(左)、3位の川渕大耀(かわぶち・たいよう)も成長著しい

text by Asuka Senaga
photo by X-1

若手の活躍光った2022ジャパンパラ水泳競技大会、花の都を見据えて競争激化

『若手の活躍光った2022ジャパンパラ水泳競技大会、花の都を見据えて競争激化』