アジアパラで銅のボッチャ 〜チーム戦(BC1-2)新たな境地へ〜

アジアパラで銅のボッチャ  〜チーム戦(BC1-2)新たな境地へ〜
2018.10.30.TUE 公開

「ずっとタイ以外には負けていなかった。その怖さがあったので、負けてちょっとホッとしています」
戦いを終えた村上光輝監督は、意外な胸の内を明かした。

ボッチャのチーム戦(BC1-2クラス)。2016年のリオパラリンピックと今年8月の世界選手権で銀メダルだった日本は、銅メダルという成績に終わった。

まさかの敗退から一丸になった日本

準決勝では毎回、日本の前に立ちはだかる絶対王者タイに1-6で敗れたが、その前日の予選で中国に喫した黒星。これが、インドネシア2018アジアパラ競技大会における彼らの大きな分岐点になった。

思うようなショットができずに苦い表情の杉村

3-5で敗れたその中国戦はとにかく日本のミスショットが続いた。パワーのある中国は、韓国、香港と並び決して侮れない相手だ。もともとアジアは強豪が揃うが、そんな中で日本は頂点を目指していただけに、タイとの決戦に意識を向けすぎていたのかもしれない。他国への少しの油断が、予選の黒星につながった。

村上監督は言う。
「予選の負けには『タイ以外には勝てるだろう』という、ちょっとしたおごりがあったのかなと思います。実際、試合後に聞いてみたら『タイ戦だけがんばればいい』とみんな思っていた。それは選手だけではなく、スタッフも、私も、同じです」

この敗戦をきっかけに選手たちは気持ちをリセットし、チームは翌日のタイ戦に向けて一丸となった。結果は前出の通り敗れたが、あと一歩の惜しいショットもあり「タイとの差は縮まっていると感じた」と、エースの廣瀬隆喜。その直後に行われた3位決定戦では中国に予選の借りを返す快勝で、チームはしっかりと銅メダルを日本に持ち帰った。

百戦錬磨のエース廣瀬

「最後の試合は、負けたクラスの選手やスタッフなどみんなが見守ってくれて、盛り上げてくれた。銅メダルは、目指していた色ではないけれど、“火ノ玉ジャパン”みんなで勝ち取ったものです」
そう語るキャプテンの杉村英孝には、安堵感がにじんでいた。

2人のエースと若手の成長

この結果のなかで、どんな収穫があったのか。まずひとつがリオ後に頭角を現した20歳の中村拓海の成長だ。

20歳の中村が気を吐いた

「タイといい試合ができたのは、中村の働きのおかげです。相手の嫌なところにボールを置いたり、ミスショットにせよ味方の選手が押しやすい位置にボールを残すことができている。大舞台で試合を重ねるにつれて、大事な試合でいい投球ができるようになりました」

そう村上監督が評価する一方、本人は「準決勝は確かにいいプレーができたけれど、今大会はエンジンがかかるのが遅かった。それに、タイとの試合はより正確なショットが求められる。絶対にミスをしないショット、そして次の展開を何パターンも考えるという戦術の面が苦手なので、パラリンピックでメダルを獲るためにはそこを克服しなくてはいけないです」と課題を挙げた。そんな中村の成長が今後、チームのカギを握ると言っても過言ではないだろう。

杉村、中村、廣瀬の3人がオールマイティーに役割をこなす

さらに、村上監督が東京パラリンピックへの金メダル戦略として、常々語っていたのが「オールマイティな選手を育てること」。強い相手から弱点を攻められた際、それぞれの対応力で凌げるようになるには、だれかがマークされ、3人の役割が変わっても、高いレベルで戦い続けることが求められる。「BC1クラスの中村が(比較的障がいの軽い)二人のエースの役割を果たし、(各エンドの)最後の投球を決める場面もあった。どの場所からも投げることができ、どの戦術にも対応できる、そんな選手が育ってきたと感じますね」と村上監督は手ごたえを語った。

再確認したコンディションづくりの重要性

今大会で見えたもうひとつの課題が暑さ対策だ。連日、30度超の暑さが続くジャカルタの各会場の中でも、ボッチャの会場は蒸し暑く、日を重ねるごとに選手は疲労していった。

例を挙げると、ミックスゾーンやアップのためのコートに冷房は設置されておらず、「できるだけ涼しいところにいて体力を温存しました」と廣瀬。試合中もこまめな水分補給やアイシングを欠かさなかった。

個人戦で振るわなかった杉村は「負けたのは技術不足」と前置きをしてから、こう話す。
「正直なところ、ここまで暑いとは思わなかったし、万全なコンディションだったとは言えません。会場に来て初めてわかることも多く、そんな中でどのように準備を整えていくか。寒暖差で体がだるくなると自分のフォームが緩むけれど、コンディショニングスタッフと相談して整えた結果、順応することもできました。自分としてはいろんなことがわかったし、次に向けてはいい経験になりました」

試合中に氷で杉村の体を冷やす村上監督(左)

加えて村上監督は「強い選手は自分の体の変化にも敏感。自分の疲労の状態と戦術が釣り合わないというときに、早めにそれに気づいて相談できるようにするのも重要ですね」と課題を述べた。

また、今大会では、現地の湿気によりボールの皮が膨張し、転がりにくくなる事態が生じた。そのため、チームは除湿剤を入れるなどの対策を講じたが、試合球は確実に除湿しなければならず、本番と同じボールを使って思うような練習することができない選手もいたと聞く。

そんな事態に、各国が頭を悩ませていた中で、期待通り優勝をものにしたタイはメカニック力でも群を抜いていたようだ。「ボールを調整する速さと対応力がすごい」。村上監督も舌を巻いていた。

杉村はアジアパラの経験を糧に飛躍することを誓った

「今回の経験を次につなげていかないと、この大会の意味がなくなってしまう。しっかりと振り返ってから、これからの競技人生に取り組みたい」
ジャカルタの地で、キャプテンの杉村は言葉に力を込めた。

――目指すのは世界の頂点だけ。多くの課題と収穫を手にしたボッチャ日本代表の挑戦が、再びここから始まった。

text by Asuka Senaga
photo by X-1


※クラス分けについて
BC1~BC4の4クラスがパラリンピック等の国際大会対象クラス。
障害の程度によりBC1~BC4の4クラスに分かれている。
参考リンク:一般社団法人日本ボッチャ協会・ボッチャについて

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