【パラ水泳・日本代表選考会】ライバルと共にビッグイベントへの内定を勝ち取ったスイマーたち

【パラ水泳・日本代表選考会】ライバルと共にビッグイベントへの内定を勝ち取ったスイマーたち
2023.03.08.WED 公開

3⽉4日と5⽇、静岡県富士水泳場で行われた「2023日本パラ水泳春季チャレンジレース」。
7月にイギリスで開催予定の「マンチェスター2023WPS世界選⼿権⼤会」(以下、マンチェスター2023)、10月に中国で開催予定の「杭州アジアパラ競技大会」の選考会を兼ねており、日本代表の座をかけて熱戦が繰り広げられた。

舞台は2年ぶりの富士! 昨年まで「春季記録会」だった大会名は、世界にチャレンジする重要な大会として、装い新たに開催された

パリ2024パラリンピックの前哨戦となるマンチェスター2023に出場するには、代表選考に関わる派遣基準を突破することが第一条件だ。今大会では、男子13人、女子11人がその関門を突破した(アジアパラの派遣基準突破選手は、男子27人、女子24人)。

ここでは、国内のライバルとしのぎを削りながら、マンチェスター2023日本代表の座を勝ち取った選手の戦いを振り返りたい。

平泳ぎの福⽥果⾳がアジア新!

健常者のトップクラスを指導するコーチから指導を受け、自己ベストを更新し続けている福田

大会初日。満面の笑みでインタビューエリアに現れたのはSB8クラスの高校生・福⽥果⾳だ。女子100m平泳ぎでは、昨年ジャパンパラで樹立した自身のアジア記録を上回る1分25秒55。2度目の世界選手権代表を決めた。

生まれつき左腕の肘から先がない福田は、健常者の大会に出場するなどして今大会にピークを合わせた。自己ベストには「満足している」が、前半のタイムは「目標より遅かった」と語っており、マンチェスター2023ではさらなる記録更新が期待される。

隣のレーンを泳ぎ、福田のアジア記録を祝福した、元日本記録保持者・宇津⽊美都も、1分27秒60をマークし、派遣基準(1分28秒79)をクリア。新旧日本記録保持者が揃って世界選手権切符を掴んだ。

大学生スイマーの宇津木も世界選手権への切符を掴んだ

窪⽥幸太、⽥中映伍らが初の世界選手権代表に

高校生の日向は、世界のトップ選手の泳ぎを研究し、若手のエースとして世界で戦う

男子S5クラスの50mバタフライは、昨年の世界選手権で初メダルに輝いた⽇向楓が35秒54で派遣基準突破。同じ両腕欠損で、隣のレーンを泳いだ⽥中映伍が36秒07で迫り、高校生の2人が共に世界への切符を獲得した。

今年1月の大会で「今年中にいま、日本で一番の日向くんに勝ち、パリに向けて自信をつけたい」と話していた田中。一方の日向も、今大会を終え「ライバルも一緒に派遣を切れてよかったけれど、タイムが近づいてきているので危機感がある」と話し、対抗心をのぞかせた。

東京パラリンピックでは中国勢が表彰台を独占した同種目。マンチェスター2023では、国内でしのぎを削り合ってきた日本勢のスピードを見せつけたい。

今春大学生になる田中。テレビで観た東京パラリンピックは、ひとつ年下の日向が活躍する姿に刺激を受けた

続いてライバル対決の激しさを増しているのが、マンチェスター2023で日本の複数選手表彰台が期待される男子S8クラスの100m背泳ぎ。昨年9月に行われたジャパンパラのレポートでも触れた通り、左上肢機能障がいの窪⽥幸太と右肩関節機能障がいの荻原⻁太郎による競い合いが見どころとなっている。

今大会では、昨年6月に神戸市民選手権で1分07秒26の日本記録を保持する荻原に対し、「背泳ぎのエースは俺だ」と言わんばかりに、窪田が大きく突き放す格好で日本記録を奪い返した。

0歳からベビースイミングを始め、この3月に23歳になった窪田。パリパラリンピックでメダル獲得を目指す

窪田は大会前に2ヵ月にわたる合宿で、課題としていた後半の持久力を強化。昨夏に始めたバサロキックでの泳ぎも体に染み込ませた。

高い記録で競い合う荻原(左)と窪田(右)のレース

東京パラリンピック時で2位相当になる1分05秒56をたたき出した窪田は、フィニッシュ後、隣で苦い表情を浮かべる荻原とは対照的に充実の笑顔を浮かべた。

そして、自己ベストから3秒近く遅れてフィニッシュした荻原も派遣基準は突破し、「世界選手権では、今回置いていかれた窪田選手に追いつきたい」と強い決意を語った。

大差をつけられたことがショックだったという荻原。それでも翌日の200m個人メドレーで日本新を更新し、意地を見せた

大会初日は、パラ水泳におけるライバル対決の“本家”⽊村敬⼀富⽥宇宙の100mバタフライ(S11/視覚障がい)にも注目が集まった。昨年11月の日本パラ水泳選手権では東京2020パラリンピック銀メダルの富田が、同金メダルの木村に勝利したが、今大会では木村が先着。両者ともにマンチェスター2023の派遣基準をしっかりクリアした。

「木村選手と切磋琢磨しながら頂点を目指していければ、エキサイトできるパリになるんじゃないかな」と富田(左)

世界選手権前回王者の山口尚秀が圧巻の世界新

知的障がいでは、東京パラリンピックの100m平泳ぎ(SB14)金メダリスト・山口尚秀が昨年11月に出した自らの世界記録を0秒99更新し、1分02秒75で世界新記録。世界選手権連覇に明るい兆しを見せた。

「合宿でビデオを見て細かいフォームや動作などを分析して改善した」と山口

一方、「選手層に課題がある」とは、知的障害者水泳の谷口裕美子コーチ。今大会100m背泳ぎで日本新記録(1分02秒11)を樹立した高校生、齋藤正樹ら「若手の成長が底上げになる」と期待を込める。

齋藤は、初めての世界選手権に向けて「外国の選手と泳ぐのが楽しみ。いい記録が出るとすごくうれしいので、優勝を目指してこれからさらに上げていきたい」と意気込んでいる。

今年に入り、背泳ぎの日本記録を立て続けに塗り替えている齋藤は「負けず嫌いなところもアスリート向き」(谷口コーチ)

なお、女子のダブルエース、木下あいら、芹澤美希香もそれぞれ派遣基準をクリアした。

世界記録を上回る! 石原愛依がパラ水泳で衝撃デビュー!

今大会は、健常者の世界で活躍する大型スイマー、⽯原愛依(S13)の鮮烈デビューが話題をさらった。100m平泳ぎ、200m個⼈メドレーに出場した石原は、2種目の派遣基準をクリアした。とくに200m個⼈メドレーはS13の世界記録(2分21秒44)を約6秒上回る2分15秒00をマーク。今後、国際クラス分けを受検して認められれば、パリパラリンピックの金メダル候補になる。

「健常者の日本選手権決勝よりも緊張して心臓が飛び出そうだった」と石原

text by Asuka Senaga
photo by X-1

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