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見えなくたって写真は撮れる!? 走る“弱視の写真家”が魅せる世界
生まれたときから病気の影響で目が見えづらい陸上競技の堀越信司選手。専門のマラソンでは、給水所でボトルを見つけられなかったり、集団の動きがわかりづらかったりすると言います。そんな堀越選手の趣味は写真。カメラのレンズの先に何を見ているのでしょうか? ホームタウンの大阪府柏原市を訪ねて、根掘り葉掘り聞いてみました!
堀越 信司|(ほりこし・ただし)
東京2020パラリンピックのマラソン(T12)で銅メダル獲得。自己ベストは2時間21分21。現在はパラリンピック5大会目のパリ大会を目指して練習に励む。右眼は義眼、左眼の視力は0.03程度。闊達なトークは、北海道テレビ制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』を観て磨いた。好きな映画は『トップガン』。
――堀越選手のSNSに記されている「弱視の写真家」というプロフィールがずっと気になっていました! 写真、好きなんですか?
堀越信司選手(以下、堀越):撮り始めて、もう12年になりますかね。東京の大学を卒業して、社会人になったのを機に関西に越して来て知り合いがいなかったので、なにか趣味になるものないかなと思って写真を始めてみたら見事にハマりました。競技を続ける中でも、いいリフレッシュになるんですよ。いまは年に一度、合同写真展で作品を展示したりしています。
――どんなものを撮影するんですか?
堀越:純粋にいいなと思ったものにレンズを向けます。被写体は、風景が多いです。京都に住んでいたころは、嵐山の夕日を撮ったりしましたね。あと、飛行機です。一時は伊丹空港に通ったほど飛行機の撮影にハマっていました。航空写真家として有名なルーク・オザワさんに憧れて、レンズにはルークさんと同じブルーのシールを貼っているんですよ。
――堀越選手は弱視ですが、一体どうやって撮影しているんですか?
堀越:見えている世界を知らないので比較できないからよくわかりませんが……。シャッターチャンスを狙うというよりは、自分なりに見えているイメージで撮影してみて、それをモニターで拡大して確認するという感じです。(この日も、河川敷にレンズを向けて……)あ、水鳥が写っていますね。ラッキーです。
――見えづらいと、画角が傾きそうなものですが……。
堀越:そうですね、建物がある場合は、その端のまっすぐな線に合わせて画角が傾いていないかどうか確認することもあります。
――取材当日も昨年、自宅で撮影したという皆既月食の写真を見せてもらいました。堀越選手が撮影された風景写真は、色彩も美しくて惹きつけられるものがありますね。
堀越:ありがとうございます! 撮影したデータを加工することはありません。撮影する枚数は1000枚とか、すごいデータ量なんですけど、PCに取り込んでから写真をセレクトする時間も楽しんでいます。
――ちなみに、カメラを持って行ってみたい場所はありますか?
堀越:北海道美瑛町の「白金青い池」(編集注:水面がブルーに見える人気の観光スポット)かな。それから、湖面に映る景観が絶景として有名なボリビアの「ウユニ塩湖」。南米は地球の裏側なので、競技をしている間は行けそうにありませんが……。
――ズバリ写真の魅力って何でしょう?
堀越:見える世界の疑似体験ができることですね。よく『相手の立場に立つ』って言いますが、それってすごく難しいこと。たとえば、目が見える人が『目が見えない』という状況を想像はできても、本当に理解するにはおのずと限界があるのではないでしょうか。でも、アイマスクを着ければ疑似体験はできますよね。同じように、僕は目がはっきり見えたことがないので、『見える』ということを本当には理解していないのかもしれません。でも、写真を通してなら疑似体験ができます。今日も撮影した写真をたまたま画面で見たら鳥が写っていましたが、見える人たちはこれを日常生活の中でごく当たり前の景色として見ているんだろうなと思えるんです。これが僕にとっての写真の魅力です。
――最後に、今回取材で撮影される側になった感想を聞かせてください!
堀越:もちろん、走っている場面で報道陣にカメラを向けられることはありますが……こんな風にポートレートを撮られるのは新鮮です。勉強になりました(笑)
text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda
“東京2020パラリンピック、大会最終日の9月5日――初めてのパラリンピック出場から13年。自分の走りを貫いてつかんだメダルだった”
貫き通したマイペース。マラソン・堀越信司は「最後までしっかり」粘って逆転銅メダル
https://www.parasapo.tokyo/topics/63431