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ブラインドフットボール
強豪アルゼンチンに1-3…ブラインドサッカー日本代表の成長と3つの課題
「決して受け身にならず、自分たち主導で試合を運ぶ”攻撃的なサッカー”ができている。そんな自信はついてきました。あとは決定力なんですよね」
今年3月、品川で行われた6ヵ国対抗戦「IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2018」を終えて、日本の攻撃の中心である川村怜は当時こう話した。このときの優勝はアルゼンチン。日本は決勝進出を逃して5位となり、アルゼンチンとの“力試し”の機会は与えられなかったが、3年前から高田敏志監督が推し進める攻撃的なサッカーに手ごたえを感じたようだった。
それから半年――宿敵イランから初勝利を挙げた5月のベルギー遠征、アルゼンチンと0-0で引き分けた南米遠征を経て、それぞれが戦術理解や連携プレーの精度を高めていった日本代表。そんな彼らは11月4日、町田市立総合体育館で行われた「ブラインドサッカー チャレンジカップ2018」で世界ランキング2位のアルゼンチンを迎えて、親善試合を行った。試合は、1-3で敗れたものの、キャプテンの川村が先制点を挙げて成長を示した。
待望の1点にガッツポーズするも……
値千金のゴールは前半3分に生まれた。ゴール前の混戦からこぼれ球を蹴り込んだ川村は、1858人の来場者をどよめかせ、力強いガッツポーズをして見せた。
「タイミングが良かったから決まったのかな。相手(のディフェンス)も体を寄せてきたんですけど、それをうまくブロックでき、その後、ボールを持ち直してしまったら押されてしまうと思ったし、ボールの音もよく聞こえたので、そのまま右足を振り切りました」
高田監督が「シュートが入らない以外、彼は完璧」と表現するほど、大事な場面でなかなか決められない川村の先制点。そんなゴールにベンチは沸き、チームは勢いづいたかに見えた。しかし、高い得点力と堅守の両方を持ち合わせるアルゼンチンも黙ってはいない。前半終了間近に1点を挙げて試合を振り出しに戻すと、エースのマキシミリアーノ・エスピニージョが後半に2得点し、終始アルゼンチンペースで日本を沈黙させた。
試合後、チームを引っ張るキャプテン川村は「相手の陣地に侵入し、何度もチャレンジできた。強い相手に1点をこじ開けられたことは次につながる」と前を向いた。
ゴール前の強度、選手層、芝への対応……歴然だったアルゼンチンとの差
小刻みなドリブルで日本の壁を突破したかと思えば、距離のある位置からもゴールを狙う。さらには、体の強さを使ってゴール前に切り込み、威力のあるシュートでネットを揺らす。
役者がそろうアルゼンチンのなかでも、MVPを受賞したマキシミリアーノの迫力は格別だった。
13歳のときサッカーを始め、4年前から世界の舞台で活躍する24歳は、こう話す。
「(ゴール前で3人に囲まれ、)日本の組織的なDFを崩すのは難しいけれど、日本が得点した後、(守備陣形を)下げてきてチャンスだと思った。もう一点は神様のおかげ。たくさん練習し、ガイドの声をしっかり聞いてプレーすることが大事だと思っているよ」
そんな個性を持つアルゼンチン選手に対し、日本は個人技ではなかなか太刀打ちできない。
「確かにプレーを選択できるような選手の特徴が、日本にはない。もちろん個人技は高めなければいけないが、最後はグループ。特徴がないのが日本の特徴といえるようにしたい」と話す高田監督。4人全員で相手陣地にボールを運んでゴールをうかがったり、プレスしたりする、グループとしての強化に力を入れており、守備についても「(体の)寄せが甘いとかではなく、相手にボールを持たれたときのフォーメーションの問題」と、選手間の意識のズレを修正すればよくなると考えているのだ。
アルゼンチンのベテラン、フロイラン・パティジャも、日本の成長を口にする。
「日本は戦術が整い、しっかり守れるようになった。攻撃も人数をかけてできるようになったし、ゴールを決めることもできたよね」
一方で、マルティン・デモンテ監督は、こう話す。
「(日本は以前と比べて)アグレッシブになったけど、選手を変えてもインテンシティ(プレーの強度)の高さが続けばもっとよくなるのでは」
今回の試合では、日本の層の薄さも浮き彫りになった。選手育成のために4人の若手を連れてきたアルゼンチンに対し、日本はスタミナ切れが顕著だった黒田智成を後半も出場させ続けるほかなく、フレッシュな選手に交代できない。21歳の丹羽海斗が初めて代表に招集される明るいニュースもあったものの、その出番はなく、高田監督も「アルゼンチンは途中交代でどんどんいい選手が出ているのに、我々は強度の強い相手になかなか交代できないのが現状」とため息をつく。2020年以降を見据え、選手育成がブラインドサッカー界全体の課題であるという認識を新たにした。
また、今回は体育館に人工芝を敷くという新たな試みのなかで実施される試合だった。もっとも後ろから選手たちを見ていたGKの佐藤大介は、「芝の違和感でボールを見失いやすかったけれど、相手の方が先にボールを見つけていた」と指摘する。
ボールの位置を把握する能力や空間認知力に長けている、世界トップ選手のひとりであるパティジャは、「新しい芝でドリブルをするのは難しかった。よりボールの音がするように浮かしたり、味方の中盤の選手が見つけやすいようなプレーを選択した」と話しており、環境に適応する技術の高さも、アルゼンチンの方が何枚も上手だった。
川村は決意を述べる。
「普段から世界トップレベルをイメージして練習しなくてはいけないし、日常のスタンダードを変えていきたい」
日本は2017年のアジア選手権で5位に陥落し、パラリンピック前最後の世界一決定戦だった世界選手権に出場できなかった。現在は、世界に取り残されまいと、試合機会を増やして実戦を積んでいる最中だが、「こういった勝負にこだわる対外試合が増えているのは、本当にありがたい。年に3~4回あるとますますレベルアップできると思います」とベテランの黒田は話す。今回から新設された「ブラインドサッカー チャレンジカップ2018」は、東京2020パラリンピックに向けて道半ばにいる、日本代表の課題を再確認する絶好の機会になったに違いない。
text by Asuka Senaga
photo by Yoshio Kato