サッカー長友佑都選手が注目する次世代のタンパク質は、かまぼこ!? 魚肉が超優秀な理由とは
さて、みなさんは最近かまぼこをいつ食べただろうか? 蕎麦店の定番のつまみ“板わさ”。コンビニなどで購入するお弁当のおかず。正月のおせちで食べたという方もいるかもしれない。そんなかまぼこが、タンパク質を効率的に得られる優れた食べ物として今アスリートの熱い注目を浴びている。長友佑都氏をはじめとする著名アスリートとコラボして、魚肉タンパク質のメリットを発信するなど、業界をリードするかまぼこメーカーの老舗・鈴廣かまぼこ(以下、鈴廣)にお話を伺った。
高タンパクでしかも低脂質の魚肉
スポーツをするなら、筋肉を作ったり疲労の回復を促進したりするタンパク質の積極的な摂取が大事であるのは、今や常識。そしてタンパク質といえば肉。最近では脂質が少なく、カロリーも低い鶏のむね肉を食べやすくした“サラダチキン”も人気だ。しかし、さらにすぐれた“タンパク源”があることをご存じだろうか。それは魚肉。タンパク質を構成するアミノ酸の含有量が多い上、消化率が高く身体に吸収されやすい。トレーニングの前後に摂取すると、筋肉の素早いリカバリにも効果を発揮するという。
【畜肉と魚肉の栄養成分】
「グラフを見ていただくとわかるように、牛肉や豚肉、鶏肉といった畜肉は、半分ぐらいが脂質です。一方魚肉のタンパク質の割合は非常に高く、脂がのっているといわれるブリで脂質は半分ぐらい。高タンパク・低脂質というのが魚肉の大きな特徴です」
と語るのは、鈴廣が運営する魚肉たんぱく研究所の所長・植木暢彦氏。研究所ではかまぼこの品質向上はもちろんのこと、未利用魚の有効活用、魚肉タンパク質・ペプチドの健康機能性解明など様々なテーマで基礎研究を行っている。
「もともと魚が身体に良いというのはよく知られていて、血栓を固まりにくくする成分、EPAやDHAという高度不飽和脂肪酸が魚の脂質に含まれているのが理由です。ただ、脂質の含有量は必ずしも高くはなく、上のグラフにあるスケトウダラでは脂質の占める割合は1%であるのに対して、魚肉の主要成分であるタンパク質は17%も含まれています。魚肉の大部分を占めるタンパク質にも何か良い成分があるだろうと調べていくと、血栓を溶かす作用があるということが最近わかってきました。つまり魚をまるごと食べれば身体に良い影響を及ぼすということなんです」(植木氏)
さらに、かまぼこの原料となる魚のすり身は、簡単に言えば魚肉を大量の水で洗うという工程があり、そこで余分な脂質などが排除され、かまぼこは“ほぼタンパク質”という状態になるのだそう。良いことずくめだが、さらに消化の面でも大きな特徴があると言う。
「タンパク質を摂取すると体内でまずペプチドというアミノ酸が数個から数十個固まった状態になり、それが1個1個のアミノ酸に分解されて吸収されていくのですが、そこまででだいだい3~4時間かかります。この時間が速くなれば消化吸収がいいということになるし、遅くなれば腹持ちがいいということになりますね。この消化時間を計るために実験をしました。人工の胃液に板かまぼこ、揚げかまぼこ、焼き肉、サラダチキン、ゆで卵をそれぞれ立方体に切って入れると、かまぼこが消化されて小さくなっていくのが非常に速いということがわかります。つまり胃への負担が軽いので、栄養を速効で吸収したいアスリートには有効だと言えますね」(植木氏)
タンパク質を構成する栄養素であるアミノ酸に関して、従来は食品にどれだけバランス良く含まれているかを表す“アミノ酸スコア”という評価が主流だった。しかし近頃では、消化性も加味した“消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)”という数値が脚光を浴びるようになっているという。その点でも評価の高い魚肉、タンパク質の塊とも言えるかまぼこにアスリートは注目した方がよさそうだ。
消化吸収が良いので、いつでもどこでも食べられるというメリット
プロサッカー選手の長友佑都氏が「鈴廣かまぼこ大使」に就任し、「魚肉たんぱく同盟」プロジェクトを牽引するなど、鈴廣がアスリートの食を支える食材としてかまぼこをアピールするようになったのには、実は同社のスポーツとの深い関わり合いがある。
「鈴廣の経営陣の先祖に大相撲の横綱がいた関係で、長く大相撲のスポンサーを続けていたり、小田原にある“鈴廣かまぼこの里”の敷地の一部が箱根駅伝の小田原中継所になったりと、昔からスポーツ文化とは近かったんです。それにあわせて鈴廣は、美味しいかまぼこを作っていく意味合いや理由を、1本の板かまぼこには実に約7尾の魚が使われていることなどを絡めて、ずっと発信し続けてきました」
と語るのは、アスリートとコラボした新製品の開発などに携わっている企画開発部企画本部長の鈴木智博氏。
「Jリーグのサッカーチーム湘南ベルマーレとは25年ほどのお付き合いになりますが、食事のタンパク源としてかまぼこを提供したり、“サカナのチカラ”という魚肉のペプチドをタブレットにしたサプリメントの開発の際には、飲んでもらって筋肉がどのように変化するか、血液検査に協力してもらったりアドバイスを受けたりということをずっとやってきました」
アスリートの栄養面をかまぼこをはじめとする魚肉タンパク質でサポートする活動を続ける中で、前述の長友選手と縁が繋がった。
「長友選手に聞いたのですが、ヨーロッパではホーム以外のところに遠征して試合をして帰ってくると、夜中の2時ぐらいということがよくあるそうなんです。そんな時間の食事と言えば、用意できるのはうどんや、タンパク質の摂取を考えてサバ缶とか。いずれにしても、夜中ではなかなか喉を通りにくいんですが、かまぼこなら食べられると。アスリートには、食べやすさといったニーズもあることに気づかされました」(鈴木氏)
食事は就寝時間の2~3時間前には済ませておかないと、快眠できないと言われる。それは食後2~3時間は、胃や腸が消化活動をしているからだ。一方、やむを得ない事情で就寝の2~3時間前に食事が摂れず、空腹で眠れないということもある。そんなときは、前述のとおり消化速度が速い魚肉タンパク質を摂れば、胃や腸にさほど負担をかけずに済むというわけだ。
魚肉タンパク質を摂ると、筋肉の怪我が少なくなり、朝の目覚めがいい!?
そんなアスリートの声をきっかけに生まれたのが“フィッシュプロテインバー”という商品だ。鈴廣が、長友選手と専属のシェフ・加藤超也氏とともに生み出した、いつでもどこでも気軽にタンパク質を補給できるおやつ感覚のかまぼことでも言えば良いだろうか。個包装の手のひらサイズ。チーズを使ったグラタン風や、スペイン料理やイタリア料理の味付けで仕上げられたものもあり、今までのかまぼこのイメージを覆した商品だ。いつでもどこでも、パクッと口に入れやすい。
「サプリメントは、プロのアスリートなど自分の筋肉量を増やすことを第一に考えていたりする方には向いていると思いますが、そこまでではない方に向けては、どんなに身体に良いと言われても美味しくなければ続かないということに我々も気づき始めました。美味しいものを食べていたら、いつの間にか身体に良い効果があった、パフォーマンスが上がったといわれるような製品作りをしていかなければいけないなと思っています」(植木氏)
“食べる人に美味しいと言ってもらえるものを作る”というのは、鈴廣の企業理念を反映したものでもあるという。
「我々の仕事は、魚の命をあますところなくお客様の命に転換していくことだと思っています。魚以外の原料を使えばもっとタンパク質の含有量を増やせるかもしれませんが、最大限美味しい製品にしてあげないと魚にも悪いですし、魚由来の自然な作り方でどこまで美味しいものを作れるかは、我々の課題ですね」(鈴木氏)
鈴廣の魚肉由来の食品やサプリメントを摂ったアスリートからの声として、“筋肉に関係する怪我をしなくなった”とか“朝の目覚めがよくなった”という感想が多いのだそうだ。それは、魚肉タンパク質は抗酸化活性(体内に取り込まれた酸素が変化し、活性酸素が過剰に発生して細胞に悪影響をもたらすことを防ぐ力)が高いからだと植木氏は語る。臨床試験を行うと、抗疲労効果もあることがわかってきたという。
「傾向としては、30代にさしかかったアスリートの声をよく聞く印象があります。年齢的に体力・筋力の変化に敏感になる頃ですし、ちょっとした栄養の偏りが故障に繋がりかねませんから。魚肉タンパク質を摂ることによって筋肉の質が変わり、睡眠も十分にとれるようになればパフォーマンスもあがる。それによってQOL、幸福度も上がって行くと思うので、30代ぐらいのハードなポジション、ハードな競技をしている方には特に魚肉タンパク質の良さを実感していただいているようです」
筋肉を作るため、タンパク質摂取に気を遣うアスリートに是非おすすめしたい魚肉タンパク質の3つのポイントを最後におさらいしておこう。
1.ヘルシーで高タンパク
2.アミノ酸スコア100の良質なタンパク源
3.消化吸収がいい
タンパク質というと筋肉を作る作用に目が向きがちだが、消化吸収の効率の良さで考えると、魚肉由来のタンパク質は、他のタンパク源を大きく上回る。美味しくて気軽に口にできるタンパク源を探しているなら、魚肉に注目だ。
人口増や気候変動などの影響により、2050年には世界的に深刻なタンパク質源の欠乏の危機がやってくると言われる。そのために最近注目を浴びているのが、大豆ミートや昆虫食などだ。しかし、魚に目を転じれば、価値がないとされて普段私たちが口にしない“未利用魚”には、まだまだ利用の可能性があるのではないか。魚肉は優れたタンパク源だということがわかった今、活用しない手はないだろう。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真・資料提供:鈴廣かまぼこ