世界の超人スイマー来日! 日本選手と交流&コツ伝授

世界の超人スイマー来日! 日本選手と交流&コツ伝授
2018.12.03.MON 公開

この11月、2人のトップスイマーが日本にやってきた。3度のパラリンピックで計24個のメダルを獲得したブラジルの英雄ダニエル・ディアスと、水泳大国オーストラリアのエースで、リオパラリンピックの金メダリストのエリー・コールだ。国際パラリンピック委員会(IPC)とWOWOWの共同プロジェクトによるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』のプロモーションのために来日した2人は、タイトなスケジュールのなか、日本の強化指定選手が練習する立教大学のプールにも訪れた。

“明るさ”が強さをもたらす

ディアスは世界の舞台でともに戦うパラリンピアンの鈴木孝幸を見つけると、肩を抱き、再会を喜んだ。さらにコールも、知った顔を見つけてハグを交わす。2人の存在でプールサイドは一気に華やいだ。

実は、この日の昼間は、埼玉にある立教大のキャンパスで学生向けに講義を行ったディアスとコール。同大の学生でもあるパラスイマー鎌田美希とともに、水泳を始めたきっかけを話したり、東京2020パラリンピックの応援を呼びかけたりした。
その後、デモンストレーションで実際に泳ぎを披露した後は、水泳部の学生とリレー対決(ディアスチームとコールチームで行った勝負の結果は、応援を盛り上げたコールチームが僅差で勝利!)。続いて取材や撮影を精力的にこなし、都内のプールに移動してきたのである。

同じ四肢欠損スイマーであると鈴木(左)とディアス(右)

疲れを見せず、若手選手にも気さくに話しかける2人の振る舞いは、まさにスター。そんなディアスとコールの強さとは何なのだろうか。

まずは、旧知のディアスの強さについて、北京パラリンピックの平泳ぎ(SB3)金メダリストである鈴木に尋ねるとこう話をしてくれた。
「圧倒的に速い種目もあるけれど、彼にもタイレース(僅差のレース)のときがある。それでも勝ち切る勝負強さ。その点がすごいと思います。あとは、ブラジル人特有の陽気さでしょうか……」

鈴木はアジアパラで水泳5冠を達成した日本のトップスイマーだ

この日、2人に会いに来た、パラリンピックで21個のメダルを獲得している日本身体障がい者水泳連盟 河合純一会長も、「明るさ」について指摘し、ポジティブな発想が勝負強さを生むと話した。

「勝負に勝ったらどんないいことがあるんだろうという発想ができるか、だと僕は思うんです。ここで負けたらオレの人生、どうなっちゃうんだろうと思うタイプとでは、結果が全然違うはず。目標があって、うまくいく確率を上げるために努力し、自分が一番レースの主役になってやろうと思ってやっているんですから」

つまり、ミスを犯すことや負けることの恐れより「ここで勝ったらヒーローだ」という自分への期待が勝っている状態が勝負強さを生むということだ。河合氏はダニエルとコールと会った後、確認するように「やっぱり明るさが重要だなあ」と繰り返していた。

全盲のスイマーとしてパラリンピックで活躍した河合氏

バランスのいい動きを可能にする“体幹の強さ”

とはいえ、2人のキャラクターが明るさだけで構成されているのかというと、「もちろん違う」と明言するのは、先の「インドネシア2018アジアパラ競技大会」で水泳日本代表監督を務めた峰村史世氏だ。

「結果を出しているけど、気さくでおごりのない人間力のある人たちです。そんな2人は、根性とかを見せていないだけで絶対に努力をしてきている。実際、メダルを獲ることは簡単な話ではないですし、苦労も聞いていますよ」

そんな努力や苦労によって培われたものが、彼らのフィジカルの強さや技術の高さだ。日本の選手たちが、2人の強さについて共通して述べていたのは「体幹」の強さだった。

鈴木はディアスについて「キックを軸にした体幹の使い方がしっかりしている」と言い、峰村氏は「彼の泳ぎは、こういう体の使い方をするのかとたくさんの発見があるんです。両腕がなく、1本足で泳ぐディアスは、自分で最適のバランスを探すしかなく、どう体を使えば速く泳げるか、探求心を感じます」と分析する。

また、コールと同じ片大腿切断の15歳・浦田愛美は、片足でしなやかに泳ぐコールへのリスペクトを隠さず、こう語った。

「エリーさんの体幹の強さを一番すごいと思います。絶対にブレない泳ぎ方をされていて憧れる。厳しいトレーニングをされてきたことを感じます。エリーさんを真似して、いいところをとって強くなりたいです」

そんな浦田はコールから「背泳ぎは肩のローリングを大きくするために、とくに右腕を回すときに、切断側の左の体幹部をしっかり抑えるように」というアドバイスをもらったという。コールはそのための練習法も、まだ若い浦田に教えてくれたそうだ。

憧れのコールと交流し、感激していた浦田

リオパラリンピックや9月のジャパンパラ競技大会でコールとともに泳いだ経験のある森下友紀は、コールの片足キックの強さに触れている。

「以前、エリーの足を水中映像見たら、まるで一つの足が左右の足をやっているようでした。片足でもここまでできるんだと思いました。なめらかで、とてもきれいでした」

まるで障がいを感じさせない金メダリストの美しい泳ぎは、間違いなく日本の選手たちの刺激となっている。

左前腕欠損の森下も、コールに刺激されたようだ
コールを囲んで記念撮影した森下(左)と浦田(右)

トップアスリートと言葉を交わし、貴重なアドバイスを受けることは、テクニック面だけではなく、モチベーションのアップにもつながる。東京パラリンピックを契機に、こういった素晴らしい機会がますます増えることを期待したい。

text by TEAM A
photo by Kazuyuki Ogawa

(取材協力:立教大学)

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