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「一緒にやればもっと大きいことができる」アスリートによる社会貢献活動をサポート「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」発足!
10月30日、日本財団はアスリートの社会貢献活動をうながす新プロジェクト「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下、「HEROs」)の創設を発表した。
日本財団ビルで行われた記者会見には、旗振り役を務める「HEROsアンバサダー」19人のうち、上原大祐(パラアイスホッケー)、根木慎志氏(車いすバスケットボール)らパラアスリートを含む14人が出席した。
中田英寿氏の長年の思いが「HEROs」を生んだ
「HEROs」の発足は、元サッカー日本代表の中田英寿氏が長年温めてきた思いが契機になった。現役時代より世界選抜の一員として多くのチャリティーマッチに出場してきた中田氏は、こう打ち明ける。
「世界中の多くの選手が自分の財団を持ち、チャリティーマッチを行っているが一人でやることが多く、同じ業界にいても情報を得るのが難しい。一緒にやればもっと大きいことができるのにもったいない。日本でも情報を得る場所、みんながつながる場所があったらいいのに、と思っていた」
その思いが、偶然、中田氏の事務所と同じフロアにある日本財団の関連団体・笹川スポーツ財団の事務局に通じ、雑談からプロジェクトに発展したという。
中田氏の言葉を裏付けるデータも公開された。
日本財団は全国10代以上の男女1000名を対象にしたインターネット調査を実施。「スポーツの社会貢献活動は、社会課題の手助けになるか?」という質問に対し、58.3%の人が「かなり思う」「まあ思う」と肯定的に答えた。
しかし、「あなたが知っているスポーツの社会貢献活動は?」という質問には、野球が25%、サッカーが22.4%の認知度は示したものの、その他の競技の認知はほぼないことが明らかになった。
この結果について、「HEROs」推進チームの高木萌子氏は「スポーツの力を生かした社会貢献が必要だと思われていながら、世間には知られていないのが日本の現状だと分かります」と分析。「そこで日本財団が行ってきた社会問題の解決のノウハウを生かし、スポーツの力をプラスして、社会貢献活動を推進していくことになった」と説明した。
欧米では常識。日本での浸透を目指す
「HEROs」の発足は、欧米ではすでにスポーツ選手による社会貢献活動が日常的に行われていることにも影響を受けている。
たとえば、アメリカにはプロボクシングの故モハメド・アリ氏らが創設したアスリートの社会貢献をサポートする専門団体「athlete for HOPE」がある。この団体は社会貢献を望む所属アスリート1500人にNPO団体を紹介したり、個々に合わせた社会貢献プランの作成などを行っている。
アンバサダーたちには、すでに海外でスポーツを通じた社会貢献をしてきたメンバーも多い。そんな一人が、日本人で初めてアメリカプロバスケットボールリーグ(NBA)を戦った田臥勇太だ。
「アメリカでは、NBAの選手が社会貢献を義務ではなく、子どもたちのため、社会のため、自分たちのために、率先してやる様子を見てきました。彼らは社会貢献をお互いを成長させるいい機会だと思っている」
さらに現在、シアトル・レインFCに所属するサッカーの川澄奈穂美は、「(アメリカのアスリートは)社会貢献活動に対する意識が高いというより、意識が浸透している。アスリートとして当たり前になっている意識や取り組みを、日本に持って帰ってきて生かしたい」と抱負を語った。
教育・実践・評価の3つの場の提供
「HEROs」は、①教育、②実践、③評価という3つの柱を立て、アスリートの活動の情報を集約して支援し、表彰し、若いアスリートへの教育を進めていくことを発表している。
①「教育」部門
若手アスリートやチームを対象に、社会とつながるスポーツマンシップのあり方、社会貢献活動に関するノウハウを伝え、次世代の人材を育成することを目指す。
②「実践」部門
社会貢献活動を実施したい現役、引退アスリートを対象に、社会のためのスポーツマンシップを発揮する場を提供する。
③「評価」部門
社会のためにスポーツマンシップを発揮した選手やチーム、NPO法人を表彰し、アスリートの社会貢献活動を推進する。
第1回の取り組みとして12月11日に「HEROs AWARD」を開催し、長年にわたり「社会 とつながるスポーツマンシップ」を発揮したアスリートやチーム、NPO法人を選び、表彰することが決定している。審査委員にはタレントの香取慎吾さん、アナウンサーの中井美穂さんら7人が名を連ねる。「社会に与えるスポーツの力とは何か」という議論を経て、受賞者を決定する予定だ。
多くの人を動かすスポーツのチカラ
このような「HEROs」の活動が広がっていくことによって、社会や人がどう変わっていけばいいか、「HEROsアンバサダー」たちはそれぞれの思いを描いている。
これまで「水ケーション」と題し、子どもたちと水の大切さについて考える活動をしてきた水泳の萩原智子氏は、教育面にいい影響があるはずだと話している。
「子どもたちがスポーツで体を動かすことによって、たとえば水といった問題を身近に考え、解決しようとする力をつけていくのを見てきた。HEROsの活動は子どもたちの夢をつないでいくことになるはずです」
さらに「現役時代、他のスポーツの選手に会う機会はなかった」という中田氏は、異なる競技のアスリート同士がつながる仕組みができあがることで、スポーツ界の活況が進むとみている。
「もっとつながる場や仕組みがあれば、互いにいい影響を受け、社会貢献だけでなく、日本のスポーツ界が飛躍するきっかけになるはず」
中田氏の言葉を借りれば、「スポーツの最大の魅力は、多くの人を動かすチカラ」であり、「HEROs」の活動は、その大きなパワーを結集することによって、社会がよりよい方向へ変革していくことを目指す。
■日本財団HEROsアンバサダー(※10月30日時点)
東俊介(ハンドボール)、池田信太郎(バドミントン)、井上康生(柔道)、上原大祐(パラアイスホッケー)、大林素子(バレーボール)、萩原智子(水泳)、奥野史子(シンクロナイズドスイミング)、河合純一(パラ水泳)、川澄奈穂美(サッカー)、佐藤琢磨(モータースポーツ)、白石康次郎(ヨット)、田臥勇太(バスケットボール)、中田英寿(サッカー)、長嶋万記(ボートレース)、根木慎志(車いすバスケットボール)、松井秀喜(野球)、松下浩二(卓球)、村田諒太(ボクシング)、山本隆弘(バレーボール)
text&photo by Parasapo
photo by HEROs