パリパラリンピック代表選考会が終了。日本パラ水泳の新たな顔になるのは?
パラ水泳のパリ2024パラリンピック日本代表選手選考会を兼ねた春季チャレンジレースが3月9日と10日、静岡県富士水泳場で行われた。
8月に開幕するパリパラリンピック水泳日本代表の枠は「男子12・女子10」。昨年の世界選手権で優勝して代表権を手にした山口尚秀のほか、東京2020パラリンピック金メダルの木村敬一、鈴木孝幸ら6人が派遣基準記録Aを突破して即時内定を決めた(編集注:派遣基準記録Bをクリアした選手は、Aに対する到達率の高い選手からランク付けされ、その順位の高いほうから選出される)。
金メダルが手に届く位置にいる初出場の木下あいら、自己ベストを更新して内定を射止めた宇津木美都、石浦智美、南井瑛翔、川渕大耀(*)らの勝負強さも光った。
*参加条件を満たしたうえで正式に決定
パリでパラ水泳日本代表「トビウオパラジャパン」の新たな顔になるのはだれか。今回は、東京パラリンピックに続き2度目のパラリンピックでメダルを狙う2人の活躍を追う。
2大会目のパラリンピックで目指す場所
男子100m背泳ぎ(S8)一本に種目を絞る窪田幸太は、派遣基準記録Aを突破し、60人を超える所属企業の応援団に右手を挙げて応えた。
タイムは1分07秒41。昨年、同レースでマークした1分05秒56の日本記録には届かず、「1分6秒台が出ればいいなと思っていたので少し悔しい」と胸の内を明かすも、第一の目標としていた派遣基準記録Aは突破し、「ほっとしています」と笑顔で話した。
水中でキックするバサロが武器。今年1月から後半の持久力強化に集中して取り組み、「後半は足が持ったけど、前半のタイムがあまり出ていなかった」と悔しそうに話す。
昨年の世界選手権ではトップで折り返したものの、ゴール直前でスペイン選手に差されて銀メダル。今年1月の取材では「その悔しさを晴らしたいし、パリはメダルを獲れるかどうかではなく、金メダルを獲れるかどうかだと思っている。しっかりと金メダルを狙っていきたい」と話していた。
自己ベストをさらに更新し、本番では1分04秒台を狙う。
「今のタイムでは、メダル争いに入るのも難しくなってくるかなと思う。8月までにタイムを上げてメダル争いにしっかり食い込んでいければと思っています」
まだパリまでの時間はある。以前「上がったことがないので、まだイメージできない」と話していた表彰台の真ん中へ。パリパラリンピックに標準を合わせた窪田の戦いがまたすぐ始まる。
光と影を経験した女子のリーダー格
アジアパラでは水泳日本代表チームのキャプテンを務めた大学生の宇津木は、女子100m平泳ぎ(SB8)で1分25秒23のアジア記録を樹立。派遣基準記録Aも突破し、パリ代表に内定した。
中学3年生以来7年ぶりの自己ベスト。満面の笑みをたたえて「高校時代はスランプで苦しんだけど、それも自分の中ですごく大切な時間だった」と晴れやかな表情で振り返った。
なかでも苦しかったのは4歳年下の福田果音に日本記録を奪われた時だろう。宇津木が報道エリアを足早に去り、涙をこらえている姿が印象深かった。
「福田選手に取られていたアジア記録を塗り替えることができて本当に嬉しく思います」
今回のレース後は、隣のレーンの福田が派遣基準記録Aを突破できず、泣き崩れる中で「とりあえず派遣は切れているから大丈夫よ」と声をかけたという。
「泣きそうだったけれど、果音を見て自分が泣いていられないなと思いました」
「負けたくない」一方で、切磋琢磨してきたライバルも大切にする。国際大会の応援席で必ず仲間にエールを送る宇津木らしい一幕だった。
パリで目指すのは表彰台だ。
「記録としても、結果としても満足のいくような形で泳ぐことができればいいなと思います」
パラ水泳日本代表はパリでどんな活躍を見せるのか。ベテランと若手をつなぐ宇津木と窪田がカギ握る存在になることは間違いない。
text by Asuka Senaga
photo by X-1