ゴルフ場が自然環境を守る存在に?里山化から小学生への環境教育支援まで

ゴルフ場が自然環境を守る存在に?里山化から小学生への環境教育支援まで
2025.04.07.MON 公開

日本中のゴルフ場の総敷地面積は21万8000ヘクタール(平成17年 経済産業省)で、大阪府の面積を超えるという。そして、この広大な緑地には多様な動植物が生息し、なくなりつつある日本の里山の役割を果たしているのだそうだ。
かつては一部の富裕層の道楽のために自然環境を破壊していると、ゴルフ場が批判された時代もある。そんなイメージを払拭するために誕生した公益社団法人ゴルフ緑化促進会。ゴルファーはもちろん、ゴルフをしない人たちからも感謝されている、意外な活動内容について取材した。

ゴルファーの寄付金で緑化促進

photo by Shutterstock

公益社団法人ゴルフ緑化促進会(以下、ゴルフ緑化促進会)の前身である社団法人ゴルファーの緑化促進協力会が誕生した1976年、ゴルフは人気スポーツである一方、ゴルフ場開発における森林伐採や農薬の使用が自然破壊に繋がるという批判の声もあった。しかし、実際に当時農薬を使っていたのはゴルフ業界に限らず、現在ではゴルフ場は貴重な緑地として、また多様な植物の生息地として認識されるようになってきたが、当時はそうではなかったのだ。

「ゴルフ場が環境を破壊しているという誤解に加え、当時は豪華なクラブハウスや高額なプレー費から、一部の富裕層のための娯楽という間違った認識が広まっていたんですね。そこで、自然環境のため、ゴルフの本当の魅力を正しく伝えるため、何かゴルファーにできることはないか、ということで当時ゴルフをしていた財界人たちが集まって作ったのが当団体の始まりです」

と話すのはゴルフ緑化促進会の専務理事・遠藤美香さん。同会の仕組みは加盟しているゴルフ場でプレーしたゴルファーが、1プレーにつき50円の寄付金を払い、その寄付金が緑化協力金としてゴルファーの数や寄付金の総額にあわせて各地方自治体に分配され、自治体が緑化促進を行うというものだ。寄付金はこの他に、企業・団体からの賛助会費や、ホールインワン・アルバトロスを達成し、ホールインワン保険が支払われた際の保険金の一部(10%以下)などがある。

会の名前から寄付金がゴルフ場の整備に使われていると思われがちだが、実際は公共の学校や福祉施設、公園や河川などをはじめとした緑化事業の促進に使われている。

全国のゴルファーが被災地に作る桜の森

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ゴルフ緑化促進会が行っているのは、協力金集めだけではない。全国の自治体と連携し、緑化に繋がるさまざまな取り組みをしている。そのひとつが被災地復興支援の植樹だ。もともとゴルフ界では、ホールインワンを達成すると、そのゴルフ場内に記念の木を植えるといった文化があった。しかし、それも最近では、植樹した木が増えすぎてメンテナンスに手がかかる、あるいはゴルフ場のリデザインの際に植樹された木の移植許可を取りたいのに、植えた人と連絡が取れないなどといった問題も発生している。

「本来、植物にとっていい環境を整えるには、適切な除抜伐採が大事なのですが、それが滞ってしまっているという現状があります。そこで、ゴルフ緑化促進会では植樹をゴルフ場ではなく、東日本大震災で緑が失われた被災地で行えるというご案内をしています。中でも日本人のシンボルである桜の木を植えましょうという取り組みは、被災した皆さんが集って顔を合わせることができる憩いの場を作るということで、とても喜ばれています」(遠藤さん、以下同)

ゴルファーが桜の木を植樹することで出来た、宮城県七ヶ浜町の桜の森

また単に桜の木を植えるだけでなく、植樹を行う地元の子どもたちに向けた森林教室も行われている。たとえば、2024年11月に行われた「『ゴルファー桜の森 七ヶ浜』森林教室」では、地元の小学生56人が集まり、植えた桜の木が元気に育つように肥料を施すなどの活動を行った。この他、震災復興活動の一環として、津波で防災林が流されてしまった太平洋沿岸に松の苗木を植えるという活動もしているが、その際も同様に森林教室を行っているそうだ。

宮城県仙台市の防災林。ゴルファーらの寄付金によって作られている

「植樹して終わりではなく、その後、育てていくということが大切になりますので、植樹の際は地元の方々にも参加いただいて森林教室を開催しています。森林教室は、家族や学校単位で参加してくださる場合もありますが、災害があった時の対応方法や、井戸の掘り方などといった防災教室もかねているので、大変ご好評いただいています」

特に最近の子どもたちは都心育ちでなくても、土や自然に触れる機会が少ないそうで、初めて海を見た・土いじりをしたという子もいて、自然との触れ合いの機会づくりにもなっているのだという。

日本の文化を守る、育てる、繋げる漆の植樹

岩手県二戸市で行われている漆の植樹祭。毎年大勢の小学生やボランティアが訪れる

ゴルフ緑化促進会が令和元年から始めた新しい活動が、岩手県二戸市で行っている「漆うるわしの森づくり」という植樹祭だ。2015年に文化庁が国宝や重要文化財の修復には国産100%の漆を使うことが望ましいという通達を出したのだが、日本国内で使われている漆の97%が中国などの外国産。残りの3%のうちの7割以上が二戸市で生産されているのだという。

「しかも、漆の木から漆がとれるようになるには、植えてから約15年かかると言われています。さらに1本の漆の木からとれる漆の量は、牛乳瓶1本分、わずか200ミリグラム程度です。国産で賄うには、現状では到底追いつかない。そこでまず漆の木を植樹することから始めようということで、二戸市がプロジェクトを立ち上げ、ゴルフ緑化促進会も協力させていただくことになりました」

プロジェクトでは植樹の他、うるしを採取する「漆掻き」の職人を育てるといったことも行っている。ゴルフ緑化促進会は、その中で植樹に協力。2024年に行われた5回目となる植樹祭には、地元の小学生やボランティア総勢296人が参加し、漆の苗木950本を植樹した。これまでに8180本の苗木を植えたそうだが、最初に植樹した木から漆がとれるようになるまでに、あと10年近くかかる。

「時間がかかるとても地味な取り組みですが、環境保全や緑化促進にもなるし、何より日本の文化を守る、育てる、繋いでいくという3つもいいことがあるんです。次の世代に繋いでいくというのは、とても重要なことですから、地道に続けていきたいと思っています」

森林教室で植栽をする子どもたち

遠藤さんは植樹祭に何年も通っているうちに、最初は小さかった子どもが中学生になってからも参加してくれているような場面に出くわすこともあるという。

「現地のボランティアの方々も一緒になって木だけでなく、子どもたちの成長を見守りながら交流を続けている姿を見るとほっこりしますし、中には将来自分もこうした仕事をしたいと言ってくれる子どもがいたりして、それを聞くと本当に嬉しくなりますね」


ゴルフ緑化促進会は2011年に日本ゴルフサミット会議の構成17団体とともに「生物多様性を保全するゴルフ場宣言」を提言。もしも日本中のゴルフ場が生物多様性の保全に本気で取り組んだら、冒頭で紹介した通り、大阪府ほどの面積の里山に匹敵する自然が確保されることになる。

遠藤さんは同会のこうした活動の意義について「木や水や光といった自然は全部が繋がっていると思うんです。その循環する恵みをみんなが肌で感じて、その価値に気づいて次に繋いでいくというのは、とても重要なことですよね」と語る。一部のゴルファーたちが始めた活動だが、今はゴルフ場の緑だけでなく、日本の文化、里山をも守る活動に発展しているのはこうした想いが根底にあるからではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:公益社団法人ゴルフ緑化進促会
https://www.ggg.or.jp/

ゴルフ場が自然環境を守る存在に?里山化から小学生への環境教育支援まで

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