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熱気に包まれた「全国横断パラスポーツ運動会」中部ブロック大会
全国7ブロックで日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が開催している「平成30年度スポーツ庁委託事業 全国横断パラスポーツ運動会」も残すところ2ブロック。1月26日には中部ブロック大会が愛知県の西尾市総合体育館で開催された。会場には12チーム187名の参加者が集結。優勝チームは3月17日にパラサポが主催する日本一決定戦(於:日本財団パラアリーナ)に招待されるとあって、各競技で熱戦が繰り広げられた。
<全国横断パラスポーツ運動会中部ブロック参加チーム>
アイシン精機株式会社、国立大学法人愛知教育大学、愛知県太鼓連盟、株式会社アシックス、株式会社アルペン、ANA中部空港株式会社、公益社団法人岐阜県理学療法士会、ツカサ工業株式会社、株式会社デンソー、トヨタ自動車株式会社衣浦工場、株式会社豊田自動織機、社会福祉法人西尾市社会福祉協議会、西尾レントオール株式会社
日常のコミュニケーションにも役立つアイスブレイク
準備運動のラジオ体操に続いては、この運動会ではお馴染みとなっている「アイスブレイク」が行われた。これは、視覚や聴覚など五感を制限した状態で血液型や生まれた季節など、与えられたテーマに合わせて参加者同士でコミュニケーションを取り、グループ分けを行なうというもの。チーム内でもこの日初めて顔を合わせるメンバーもいるなか、参加者同士のコミュニケーションを促進するのが目的だ。
この日、前半グループはアイマスクを装着した状態で血液型に基づいてグループに別れ、後半グループは声を出すこととジェスチャーを禁止された状態で、生まれた季節(春・夏・秋・冬)に分かれるというプログラムが行われた。とくに興味深かったのは声も出せず、ジェスチャーも使えない後半グループだ。参加者は皆、口を大きく動かして自分の季節をアピールしていたが、思いのほかスムーズにグループに分かれていた。
シッティングバレーボールはだれを対象とした競技?
1つ目の競技は、コートに座った状態で行なうシッティングバレーボール。ソフトボールを使用することで、誰もが楽しめるようにアレンジされたこの競技は、ジャンプ力による差が出にくいため、多くの人が同じレベルで競い合うことができる。実際に、この日は力任せにボールを打ってしまいがちな男性よりも、丁寧にボールをつなぐ女性の活躍が目立った。コートにお尻を着いた状態でプレーするため、両手でボールを打つだけでなく移動のためにも使わなければならないのがポイントで、ボールの動きを読んで予め落下点に入っておくことがスムーズな対処につながるようだった。
この競技を全勝で終えたのが「ANA中部空港株式会社チーム」だ。空港で飛行機を誘導したりする地上勤務のメンバーを中心に、ANAグループの社員で構成されたチームは、全員がシッティングバレーボール初体験とのこと。「スポーツの経験者が多いので、それが良かったのかもしれません。ただ、ボールを追いかけることに夢中になると、ついついお尻が浮いてしまって反則を取られました」と語るのは同チームの竹味さん。「純粋にスポーツとして面白い競技だと思いましたが、どんな人を対象としている競技なのかを考えることも大切ですね。下肢に障がいのある人を対象だということを理解すると、より理解が深まると感じました」と、パラスポーツの本質に触れていた。
ゴールボールで新しい応援スタイルが誕生!
続いて行われたゴールボールは、お互いに目隠しをした状態でボールを転がし合い、相手のゴールラインを割れば得点が入るという競技。参加者は視覚が制限されているため、ボールに入った鈴の音と、コートに貼られたタコ糸の感触を頼りにボールと自分の位置を把握してオフェンス・ディフェンスをする必要がある。そのため、応援する側も声や音を出すのは厳禁で、静寂の中で競技は行われる。静まり返った会場には、審判の笛とボールの鈴の音だけが響く。
声を出せない環境の中で、ユニークな応援スタイルを生み出したのが「国立大学法人愛知教育大学チーム」。「味方のゴールが決まっても拍手ができないので、誰からということもなく無意識に手話の拍手のジェスチャーをやっていました」と語るのは同チームの畑田さん。特別支援学校の教員免許を取得する学科の学生が集まっているという、このチームだからこそ生まれた応援スタイルだろう。顔の横で両手を振る手話は、味方チームを讃えようという気持ちを表現するのにちょうどいいようで、またたく間に他のチームにも広がっていた。
昼休みには知的障がい者グループによるパフォーマンスも
昼休みの時間には、恒例となっているパラスポーツの体験会に加えて、知的障がい者だけで構成されるダンスユニット「mixjam」によるダンスパフォーマンスも行われた。このユニットは2015年にオーストラリアで行われた知的障がい者のダンス世界大会「ワールド・スプレマシー・バトルグラウンド」にも出場経験があるだけに、パフォーマンスのレベルは非常に高く、会場は大きな拍手で包まれていた。
このグループの代表理事である福地叶真さんは、20年以上に渡って西尾市を中心に愛知県内での指導を続けているとのこと。「世界大会に参加した際、『このグループは大会だけでなく、もっと多くの人たちの前でパフォーマンスするべきだ』と言ってもらえたので、それ以後はいろんな場所に出る機会を大切にしています。多くの人に見てもらえると、本人たちの自信にもなりますから」と語る。「知的障がいのある人たちは、本人も周りの人たちもいろんなことが『できなくて当たり前』と思いがち。そこで新しいことにチャレンジする気持ちを持つことが一番難しいのですが、やってみて『できた』という体験をすることは、自分にも周りの人にも大きな影響力があります」と福地さんは、熱っぽく言葉を続けた。
ハイレベルな攻防が繰り広げられたボッチャ
午後の1種目目は、そのゲーム性の高さから毎回大きな盛り上がりを見せるボッチャ。3人ずつのチームで赤と青のボールを投げ、基準となる白色のジャックボールの近くに寄せられたほうが勝ちというルールだが、最後の1球まで勝負の行方がわからないゲーム展開はプレーヤーだけでなく、応援する側も盛り上がる。一度プレーすると、その魅力にハマってしまう人も多く、ボールセットだけあれば場所を選ばずに楽しめることから、取り組む企業も多い。
とくにトヨタが力を入れていることでも知られ、今大会はトヨタの衣浦工場に加えて豊田自動織機やアイシン精機、デンソーなど多くのトヨタ系企業が参加していたこともあって、レベルの高いゲームが繰り広げられた。
そんな中、強さを見せたのはやはり「トヨタ自動車株式会社衣浦工場チーム」だ。出場した4ゲーム全てを勝利で終えるという好成績で競技を終えた。「会社にボールのセットがあるので、経験しているメンバーが多いのがやはり有利でしたね」と語るのは、自身も何度もすばらしい投球を見せていた三矢さん。いい位置にボールを投げるためのポイントを聞いてみたところ、「ジャックボールの手前にボールを落とすようにすることですね。予想以上に転がったとしてもジャックボールの近くに行く可能性が高いですし、手前で止まってしまっても、次に投げる相手チームの邪魔になりますから」と教えてくれた。
レベルの高い動きにチーム全体が活性化
続いて行われたのは、毎回会場が大きく盛り上がる車いすポートボール。車いす競技の中では知名度のある車いすバスケットボールのルールを、ゴールマンがボールを受け取るポートボールにアレンジしたものだ。車いすバスケットボールのゴールはNBAなどで使われているのと同じ高さで、上半身の力だけでボールを投げる必要があるため、初心者ではゴールに届かせることすら難しい。それをポートボールの形にしているほか、トラベリングなどの難しいルールを廃して初めてプレーする人でも楽しめるようにしていることがポイントだ。
今大会は車いすバスケットボールチーム「岐阜SHINE」で活躍する2名に加えて、北京パラリンピック女子日本代表の小鈴木智美さんが参加していたため、かなりハイレベルなゲームが展開されていた。現役のプレーヤーやパラリンピアンの車いす操作スキルは、やはり別次元のレベルで、チームの垣根を越えて多くの人たちが目を奪われるほど。また、レベルの高いプレーヤーが1人いるだけでチーム全体の雰囲気だけでなく、動きも一気にハイレベルになり好ゲームが多い展開となった。車いすの操作を彼らのレベルまで高めることは一筋縄ではないが、ボールをつなぐことを見越したポジショニングなどは参考になることが多く、それがチームに波及したことの結果だろう。
「公益社団法人岐阜県理学療法士会チーム」のメンバーとして参加したのは「岐阜SHINE」の那須智彦さんと池戸義隆さん。プレーする上でのポイントを「まずは、とにかく楽しむこと。その上で、健常者は『危ない』と思ったときに、とっさに車いすから足が出てしまうことがありますが、それはよけいに危ないので注意してほしい」と那須さんが語れば、池戸さんは「昨年から健常者も国内の公式戦に参戦できるようになったので、興味を持った方はぜひ一度体験してみてほしい」と話す。地域の福祉協議会などに相談すれば、体験会などの情報は教えてもらえるほか、新たに体験イベントなどを開催してくれる場合もあるので、一度問い合わせてほしいとのことだ。
小鈴木さんは「株式会社デンソーチーム」の一員として参加。2009年に競技を引退して以来、プレーはしていなかったとのことだが「久しぶりにやると楽しいですね!」と声を弾ませていた。「小さい頃から車いす生活でしたが、それでも活躍できる車いすバスケットボールという競技に出会えて、生活が一変しました。今日も健常者と一緒に競技を楽しんで、一緒に悔しい思いもして、本当にすばらしい体験でした」と話す。プレーする上でのポイントについては「コミュニケーションが大切な競技なので、パスをもらうほうも出すほうも声を出すことが大切。プレーヤーだけでなく、応援する人たちもいっぱい声を出すと会場が一体となって盛り上がれます」とコメントしてくれた。
熱戦の車いすリレーで優勝チームが確定!
最終競技は車いすをバトン代わりにつないでいく車いすリレー。車いすを乗り換える際には、ほかのメンバーが支えたりすることも認められているため、走るスピードだけでなく、乗り換える際のチームワークが順位を大きく左右する。予選はコートを往復する形で行われ、各組1位の合計4チームが決勝に進出。決勝レースはオーバルコースを走るため、コーナーの対処なども求められるようになる。予選と決勝のそれぞれで得点が加算されるため、総合順位にも大きく影響する競技だ。
決勝は「株式会社デンソー」、「株式会社豊田自動織機」「公益社団法人岐阜県理学療法士会」「西尾レントオール株式会社」の4チームで争われ、激しいレースが展開されたが、優勝したのは「公益社団法人岐阜県理学療法士会チーム」。ここでも「岐阜SHINE」の選手2人のスピードが光った。また、小鈴木さんがアンカーを務める「株式会社デンソーチーム」が2位に。この結果、総合優勝の座は「株式会社デンソーチーム」に確定。3月17日の日本一決定戦への切符を手にした。
総合優勝は「株式会社デンソーチーム」
同社の中でボランティア活動などを積極的に行っている「結仁」というサークルが中心となったチームは、パラスポーツに興味を持つ人も多く参加していたことで、多くの競技でバランスの良い好成績を収め、優勝の座を手にした。「会社としてパラスポーツの支援も30年近く続けてきているので、社内にパラスポーツを知っている人が多かったのが良かったのかもしれません」と語るのは同チームの鈴木治男さん。「普段はなかなか見られない小鈴木さんのプレーとか、仕事仲間の普段とは違う一面を見られたのも楽しかったです。日本一決定戦まで練習を積んで、ほかの参加チームの分までがんばりたい」と語る。
好成績を収めた「株式会社アルペンチーム」
大会当日は参加できないチーム員がいたため、オープン参加となったが、なんとそれを知ったMICROさんが急遽助っ人として参戦。少人数ながら活気のあるチームワークで好成績を収め、会場を盛り上げてくれた。「MICROさんがチームに入ってくれると聞いたときは、すごくワクワクしました。自分と同じ年ということもあって、すごく話しやすい人で、今日1日楽しく過ごすことができました。パラスポーツは全員未経験ですが、とくに女性のチーム員が力を発揮してくれたことがいい成績につながったのだと思います」とチームリーダーの小澤さんが熱く語ってくれた。
ボランティアとして大会を支えたPDS Group
実は今大会、ボランティアとして運営を支えてくれたのがPDS Groupのみなさん。先日行われた近畿ブロック大会に参戦していたチームだが、今回は運営側として朝一番で会場に駆けつけてくれた。「近畿大会がめっちゃ楽しかったので、この盛り上がりを他の地域にも伝えたいと思って今大会にはボランティアとして参加しました。地域によって盛り上がり方は違いますが、会場全体で楽しんでいる雰囲気は同じ。この勢いで日本一決定戦も盛り上がってほしいですね」(中田さん)と熱いコメントを残してくれた。
text by TEAM A
photo by Hisashi Okamoto