ゴールボール女子日本代表、鉄壁のディフェンス復活への狼煙・ジャパンパラ

ゴールボール女子日本代表、鉄壁のディフェンス復活への狼煙・ジャパンパラ
2019.02.09.SAT 公開

視覚障がいのある選手がプレーするゴールボールの女子日本代表が、東京2020パラリンピックに向けて着実に力をつけている。

海外から強豪国を迎えた4ヵ国対抗戦「天皇陛下御在位三十年記念 2019 ジャパンパラゴールボール競技大会」が2 月 1 日から 3 日までの 3 日間、千葉ポートアリーナで行われた。

日本が立ち向かうのは、世界ランキング1位のブラジル、リオパラリンピック金メダルのトルコ、リオパラリンピック銅メダルのアメリカ。日本が決勝に進出するには、鉄壁の守備でパワーのある世界トップレベルのボールを止めなければならない。

それでも、昨年の世界選手権後に再構築した守備力を存分に発揮した日本は、2回の総当たり戦の結果、2勝2敗2分けの2位となり、予選全勝のトルコとの決勝に駒を進めた。

日本の長所である守備の連係も光った

決勝の相手はリオ金のトルコ

大会最終日の決勝戦。日本は守備の中心である浦田理恵、両ウィングにベテランの小宮正江と成長著しい欠端瑛子という布陣で臨んだ。

笑顔を見せる小宮正江(左)、浦田理恵(中央)、欠端瑛子(右)

トルコには、国際大会で過去11度得点王に輝いたセブダ・アルトノロクという絶対的なエースがいる。そのトルコに対し、初日の対戦で7点を失った日本は、コート上3人でつくる三角形のラインを上げ、さらに選手間の距離が近くなるように修正し、2日目の対戦では5失点に抑えている。

浦田(前)を中心とした三角形の守備陣形で戦った

身長174㎝のアルトノロクが長い手足から繰り出す弾むボールをいかに処理するか。チームの焦点は決勝でも変わらずアルトノロク対策だったに違いない。

事実、浦田は決勝前日、守備における個人の課題について「ディフェンスのときに足を上げすぎてしまう課題があるので、バウンドに合わせて高さを調整し、ボールが抜けないようにディフェンス姿勢を徹底したい」と話し、「感覚的に見えてきたものがある」とバウンドボールへの手ごたえを語っていた。

多彩な攻撃で今大会33得点を挙げたセブダ・アルトノロク

だが、蓋を開けてみれば、アルトノロクが投じたのは、予選で多用したバウンドボールではなく、高速で転がるグラウンダーだった。「想定外でした」と市川喬一ヘッドコーチ。スピードに対応できない日本は、試合開始後の3分半で2点を失った。さらに前半6分、レフトのアルトノロクが静かにライトウィングに移動し、守備位置がライト寄りになっていた日本のレフト方向に試合を決める3点目を突き刺した。

日本もレフトの欠端がクロスボールでゴールを狙い、アルトノロクの外側にあたるゴールポストに隙間ができるよう、トルコのシフトを内側に引っ張ろうと畳みかけるが、ゴールには至らない。トルコはセンターのドゥズグン・ギューシャを軸とした守備の連係も冴えわたり、失点を許さなかった。

そんななか、日本には光明もあった。今大会で国際大会デビューを果たした17歳の萩原紀佳が終盤、約2分間出場。あわや失点という守備の場面を自らボールを拾う執念で乗り切ったのだ。
「高いバウンドの処理を意識しすぎて、お腹を乗り越えられてしまったけれど『失点したくない』と思いました」

最後まで諦めずにゴールを守った高校生の萩原紀佳

日本は追加点を防いだものの、スコアは前半と変わらず0-3で試合終了。トルコが全勝優勝を手にした。

「チームの仕上がりは50パーセント」。試合後、そう話したトルコの面々。その強さの秘密はどこにあるのだろう。

エレン・ユルドゥルムアシスタントコーチによると、女子の競技人口は200人弱。柔道やサッカーなど他のブラインド競技同様に、選手たちが通う盲学校にはゴールボールに特化したコーチがおり、スカウト網が張り巡らされているという。なかでもゴールボールは「世界で勝つことで人気を得てきた競技」。国内にはピラミッド型に4部に分かれた8チームずつのリーグがあり、毎年ディビジョン間のチームの入れ替えを行うことで競争力も活発化。アルトノロクらディビジョン1に属する選手には所属チームから給与が支払われており、アルトノロクも「ナショナルチームだけではなく、クラブチームでハードワークしているから」と自身の練習量に自信を持つ。

戦術の分析に最も力を入れているというイェルディウム・ユルトゥルムHCは「金メダル以外まったく考えていない」と東京を見据えた。

世界髄一の得点力を誇るアルトノロクは24歳

金奪還のカギは、守備のブラッシュアップ

今大会11得点でチームに貢献した欠端

昨年の世界選手権で5位に沈んだが、その後、守備を再構築し、10月のインドネシア2018アジアパラ競技大会で見事優勝した日本は、今大会でも守備面で収穫を手にした。その一方で、精度の高いスローイングを持ち味とする主力の若杉遥をケガで欠き、攻撃のバリエーションが乏しく、決勝では得点を挙げられなかった。
「準優勝は悔しいけれど、学んだことも多かった」と、チームの得点頭として気を吐いた欠端は前を向く。

市川HCは「今回来てくれた国とロシアで東京パラリンピックのメダルを争うことになるだろう」と話し、選手たちが海外の強豪の球を受けた今大会に大きな意義があったと主催者らに感謝する。

そして、浦田の言葉にはブレがない。
「日本は武器であるディフィンスの力を上げれば、2020年の高い表彰台が見えてくる」

トルコに敗れたが、日本は準優勝を飾った

今年は9月に東京2020パラリンピックの本番会場で再びジャパンパラが開催される。日本のディフェンスの仕上がりがパラリンピック金メダル奪還のカギを握ることは間違いない。驚異の守備範囲でゴールを守り、攻撃につなぐジャパンスタイルの確立へ。金メダル奪還のための挑戦は続く。

【天皇陛下御在位三十年記念 2019 ジャパンパラゴールボール競技大会 リザルト】
優勝:トルコ
準優勝:日本(安室早姫浦田理恵、欠端瑛子、小宮正江、萩原紀佳、若杉遥)
3位:ブラジル
4位:アメリカ
3位決定戦はブラジルが6-5でアメリカを破った

text by Asuka Senaga
photo by X-1

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