「幸せをありがとう」蜷川実花が見た、辻井伸行の音世界|GO Journal 3号撮影レポート

「幸せをありがとう」蜷川実花が見た、辻井伸行の音世界|GO Journal 3号撮影レポート
2019.03.25.MON 公開

GO Journal ISSUE 03 メイキング・レポート
~辻井伸行×蜷川実花~

やわらかな陽ざしが降り注ぐ1月のある日、都内の音楽ホールでグラフィックマガジン「GO Journal 」3号の撮影が行われた。

GO Journalクリエイティヴ・ディレクター蜷川実花さんが今回撮影するのは、ピアニストの辻井伸行さん。2009年に第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人として初めて優勝し、以来、世界中を飛び回り演奏活動を続ける国際的なピアニストだ。(「辻」は一点しんにょう、以下同)

照明やカメラ機材など入念なチェックを終えた蜷川さんのもとに、タキシードをパリッと着こなした辻井さんが現れた。

ふたりは10年ぶりの再会。「30歳になりました」という辻井さんの言葉に「もうそんな大人になっていたなんて!かっこよくなったね!」と驚く蜷川さん。はにかんで笑う謙虚な姿に、「出会った時と全然変わらない」と再会を喜んだ。

フルコンサートモデルのスタインウェイの前に座り、鍵盤にゆっくり手を乗せ、辻井さんは、ドビュッシーの「2つのアラベスク 第1番」を奏で始めた。

次々と紡ぎ出される音階は、張り詰めていたホール内の空気を溶かしていった。流線を描くメロディーに呼応するかのように、シャッター音がリズムを刻んでいく。

“挨拶”を終え、短く息を吸って一気に弾き始めたのは、ショパン「革命のエチュード(Op.10-12)」。

ダイレクトに鳴り響く右手の和音と、絶え間なく動く左手の音階が、それまでの温かい雰囲気を一転させた。険しい表情で、曲の世界観に入り込んでいく。

ひとつのタッチも逃すまいと、蜷川さんは、時折レンズを替えながらその指を食い入るように撮り続ける。

堂々とした四分音符の和音で締めると、辻井さんはいったん心を静めた。

すると、次の瞬間、先ほどの激しさからは想像すらできなかった世界へとみなを連れて行ったのだった。

オリジナル楽曲「美の巨人たち エンディング・テーマ」。
一点を見つめていた数分前のショパンとは打って変わり、顔を上げ限りなく広がる空を見渡すように、美しい旋律に身を委ね、体を揺らしながら演奏する。笑みを浮かべるその表情は柔らかい。色とりどりの音は歓びに満ち溢れ、どこまでも優しかった。

鍵盤のすぐ横でカメラを構えた蜷川さんは、のびのびと空間に広がっていく音符ひとつひとつを写真に込めているようだった。

その撮影の様子はまるで、言葉のない、2人だけの会話を楽しんでいるようにも見えた。

最後に、ピアノにお礼を言うかのように、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲 月の光」を弾き、演奏を終えた。

誰からともなく、自然と拍手が沸き起こった。
「もっと聴きたかった。本当に幸せをありがとう」
蜷川さんのこの言葉が、その場に居合わせた全てのスタッフの気持ちを代弁してくれた。

GO Journalクリエイティヴ・ディレクター蜷川実花さんが見た、ピアニスト・辻井伸行さんの音の世界。
撮影中に演奏された楽曲を聴きながら、GO Journalを手に取る日が楽しみだ。

本誌最新号は「GO Journal公式サイト」でご覧いただけます。

蜷川実花さんが撮り下ろした辻井さんの写真とインタビューはコチラから(GO Journal公式サイト)


*「GO Journal 3号」メイキング・レポート第1弾~藤本聰×蜷川実花~はこちらから

text by Rihe Chang
photo by Hiro Nagoya

「幸せをありがとう」蜷川実花が見た、辻井伸行の音世界|GO Journal 3号撮影レポート

『「幸せをありがとう」蜷川実花が見た、辻井伸行の音世界|GO Journal 3号撮影レポート』