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全国車いす駅伝競走大会、初の天皇盃を手にしたのは「福岡A」!
福岡Aチームの小手川郁人監督が初めての天皇盃を高々と掲げた。
「天皇盃 第30回全国車いす駅伝競走大会」は10日、京都市・国立京都国際会館前から西京極陸上競技場までの5区間21.3㎞のコースで行われ、福岡Aが4年ぶり6度目の優勝を飾った。
今大会は、初めて下賜される天皇盃に加え、節目となる30回大会。地元テレビ局がラジオ中継に加えてネット中継を実施したり、近隣でパラスポーツ体験イベントや歴史を振り返るパネル展が企画されたりするなど、自治体などが策を講じて大会を盛り上げた。当日は、雨という不利なコンディションにもかかわらず、福岡Aが大会新記録を樹立し、記念すべき大会に華を添えた。
“エース区間”1区のライバル争い
今年は、仙台市や鹿児島県など都道府県や市の26チームが参加。「大分A」の3連覇なるかが注目されたほか、その大分Aと昨年接戦を展開した「福岡A」、福岡Aが最も警戒していた「大阪」が中心となり、熱戦を展開した。
5区間をつなぐこの車いす駅伝は、距離の長い1区(6.4km)と4区(5.8㎞)が花形で、各チームとも有名選手が出走。注目の1区は、東京2020パラリンピック日本代表を狙う福岡Aの渡辺勝、短距離の国内トップ選手で「東京」の西勇輝らが顔を揃えた。そんななか、スタート直後に前に飛び出したのはマラソンで東京パラリンピックを目指す大阪の西田宗城だ。「アップダウンのチャンスで(後続の選手のスピードを)上げさせてバテさせてというのを何回も繰り返し、それがうまくハマった」と西田。序盤に上り坂の手前で集団を小さくすると、得意の下り坂で後走を突き放し、先頭で2区につないだ。
その西田から遅れること19秒で1区を走り終えた、福岡Aの渡辺勝は言う。
「西田選手が仕掛けるポイントは走る前から想定していたが、彼にやりたいレースをやらせてしまった。それでも、短距離メインの西選手や佐賀の百武強士選手と走れたのは、マラソンとは違って面白かった。『油断したらやられる』と思ったし、刺激になりました」
続く2.8kmの2区。トップを行く大阪の村田成謙を中間地点でとらえたのは、福岡Aの大津圭介だ。
「昨年2位だった悔しさがあるから、絶対に優勝したいと思って準備をしてきた。走ってみたら今日は調子もよく、積極的に(ギアを)上げることができた。1位で3区につなげられてほっとしました」。初の区間賞で3区の武村浩生にリレーした。
「緊張せずに走れたのがよかったのかな」。3区の武村浩生も、昨年のタイムを大幅に縮める走りで区間賞の活躍。昨年の大会以降の成長を実感できたようで、今後自身が出場する大会でも「トップ集団についていけるようにがんばりたい」と話し、今大会からの飛躍を誓う。
そして、数々のマラソン王者であり、ベテランの山本浩之へ。「風を感じなかったし、マックス50kmが出ていた」という言葉通り、盤石の走りで区間賞を獲得。「前週の東京マラソンは寒さでうまくいかなかったけれど、調子は悪くないと確認できた。4月のロンドンマラソン(世界パラ陸上競技マラソン選手権大会)では上位を狙いますよ」と笑顔で話した。
最後は、車いすマラソン日本記録保持者でキャプテンの洞ノ上浩太。洞ノ上も、スピードを緩めることなく、一人旅でフィニッシュ地点の西京極陸上競技場へ。他を寄せ付けない力強い走りでゴールテープを切ると、何度もガッツポーズをして喜びを表した。
「優勝は確信していましたが、『隙を与えないぞ』という気持ちで、前半から飛ばしていった。今回から天皇盃になった素晴らしい大会でゴールテープを切らせてもらって本当に嬉しいです!」
福岡Aは2区の大津からアンカー洞ノ上までトップを譲らず、5人中4人が区間賞。“総合力”でつかんだ優勝だった。
雨は降りやまず、ハンドリムも滑った。それでも「初の天皇盃」という栄冠が原動力となり、チームはひとつになった。「路面状況のよくないなかで、42分53の大会新記録は、できすぎでしょう」と驚きを交えて語った小手川監督。毎年一ヵ月前に予選会を行い、10人の選手のタイムを計ってAとBの2チームに分けるといい、「エースだけでは優勝は成し遂げられない。ほかの選手たちが刺激し合ったことが好記録につながった」と選手たちを称えた。
地元・京都Aが表彰台!
30回大会は数々のドラマが生まれた。沿道からもっとも大きな声援を浴びた地元「京都A」は、4位で競技場のゲートをくぐったアンカーの中井康彦が、バックストレートで大阪の岸澤宏樹をとらえると、そのまま抜き去り、2位の大分Aに次ぐ3位でフィニッシュ。雨の中、声援を送った観客や関係者を大いに沸かせた。
5位には「岡山A」が入った。アンカーを務めたリオパラリンピック銀メダリストの佐藤友祈は「必死で走ったけれど、福岡Aの背中が見えなかった」と悔しがった。
また、能島美里監督以下、選手、コーチすべてを女性で構成した「岡山B」も話題になった。順位こそ最下位だったが、1時間40分48の記録で見事、完走。競技人口の少ない女子の存在をアピールした。大会最年少の15歳・小西麻沙妃は最終区を走り、「楽しかったです」と充実の表情を浮かべた。
3連覇を逃した大分Aも闘志を失ってはいない。「大会記録はやぶれそうもないが、大分も伸び盛りの選手がいる。来年は優勝できるようにがんばりたい」。2区を区間2位で走った、シドニー・アテネパラリンピックのメダリスト廣道純は、そう言って会場を後にした。
来年も、また多くのドラマが生まれそうだ。
1位福岡A 42分53
(1区 渡辺勝、2区 大津圭介、3区 武村浩生、4区 山本浩之、5区 洞ノ上浩太)
2位大分A 45分52
(1区 渡辺習輔、2区 廣道純、3区 佐矢野利明、4区 河室隆一、5区 吉野誠二)
3位京都A 49分56
(1区 西原宏明、2区 佐野純一郎、3区 馬場和也、4区 寒川進、5区 中井康彦)
text by Asuka Senaga
photo by X-1