17500人の大声援を走る力に! パラ駅伝 in TOKYO 2019
3月24日、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)は駒沢オリンピック公園陸上競技場及びジョギングコースにて「パラ駅伝 in TOKYO 2019」を開催した。2015年に始まった同イベントは、今回で4回目を迎え、参加都道府県は前回の14から16に増え(東京から2チームが参加)、海外チームのカンボジアも参加。著名人で構成されたオープン参加の2チームを含む過去最多の20チーム、180人が青空の下を駆け抜けた。
観客もゲストも全力で応援!
11時の開場を前に、ご当地物産祭が始まっていた中央広場は多くのパラ駅伝来場者に加え、開花したばかりの桜を見に訪れた散歩客など大勢の人でにぎわった。腹ごしらえをしたり、パートナー企業各社のブースでパラスポーツ体験や記念撮影をしたり、来場者らは思い思いに過ごして入場ゲートに向かう。場内に入ってからも、優勝チームを予想する応援チーム投票に参加したり、入場時に配布されたハリセンを大きく振って選手とともに入場できるフラッグベアラーに選ばれるようカメラに向かってアピールしたり。待ち時間も退屈せず、年に一度のパラスポーツイベントを楽しんだ。
オープニングアクトでは、パラサポスペシャルサポーターの稲垣吾郎さんと香取慎吾さん、パラ駅伝サポーターとしてイベントを盛り上げるキャイ~ンがステージ登場。稲垣さんが自分たちの歌うパラスポーツ応援チャリティーソング『雨あがりのステップ』になぞらえて「まさに雨上がりの天気ですね」とコメントすると、天野ひろゆきさんが「あれ、メンバー1人足りなくない?」とすかさずツッコミ。このとき壇上にいなかった草彅剛さんがランナーとしてパラ駅伝に出場することが発表されると客席から大きな歓声が沸いた。香取さんも、昨年パリで開催された香取さんの個展「NAKAMA des ARTS」で披露された絵がプリントされたハリセンを紹介。「ぜひハリセンを使って応援してください」と呼びかけた。
その後、フラッグベアラーとともに各チームの選手が入場。パラ駅伝はさまざな障がいのあるランナーや健常者がタスキをつなぐのだが、各地から集まった18チームに続き、今大会で3回目の出場となる「チームよしもと」、この日だけの特別コラボチーム「チーム i enjoy ! 」が草彅さんを先頭にして入場した。
開会式では、パラサポの山脇康会長、パラサポ特別顧問・小池百合子東京都知事、柴山昌彦文部科学大臣、桜田義孝オリンピック・パラリンピック競技大会担当大臣(当時)が挨拶。そして、全盲のシンガーソングライターの木下航志さんによる国歌斉唱が会場に響き、会場が一度静まった後、選手宣誓が行われ、競技はいよいよスタートの時刻を迎えた。
今年は、カウントダウンを稲垣さんが、スターターを香取さんが務め、12時45分、一区の視覚障がいランナーと伴走者が一斉にスタートした。
20チームがつないだタスキ
コースは公園内の陸上競技場と園内ジョギングコースからなる1周2.342kmで、1チーム8人(チーム構成は下記)で合計18.736kmをタスキでつなぐ。
第1区(視覚障がいランナー&伴走者)
第2区(聴覚障がいランナー)
第3区(車いすランナー・女)
第4区(健常ランナー・男)
第5区(知的障がいランナー)
第6区(肢体不自由ランナー)
第7区(健常ランナー・女)
第8区(車いすランナー・男)
オープン参加の2チームは、視野が極度に狭くなるレンズを着けたり、腕をサポーターで固定したりしてできるだけ選手と同じ状態で走った。
スタートは、初出場のウタリ・パラ・北海道(北海道)が飛び出し、3連覇を狙うベリーグッドとちぎ(栃木県)、実力者をそろえたTEAM MIYAGI(宮城県)が後を追う展開になった。しかし、競技場を出るとTEAM MIYAGIが逆転。その後、ウタリ・パラ・北海道が抜き返して、1位で競技場へ。TEAM MIYAGIは2区でも再びトップになる粘り強さを見せたが、続く3区でベリーグッドとちぎが狙いすましたかのように首位に躍り出ると、そのまま譲らず、3連覇を達成した。
ベリーグッドとちぎのアンカーを務めたのは、車いすバスケットボール男子日本代表としてロンドンパラリンピックに出場した増渕倫巳選手。
パラ駅伝を終えて、3連覇のプレッシャーがあったと明かし、「トップでタスキを受けてそのままゴールすることができてほっとしました」と微笑んだ。
出場全チームを一挙紹介!
1位 ベリーグッドとちぎ(栃木県)
記録:1時間14分54秒
明るく個性的なメンバーが集り、障がいの垣根を越えた一体感と“イチゴのようなフレッシュさ”が特色のチーム。実力派を揃え、前人未到の3連覇を達成した。
「パラ駅伝は2回目。普段は大学で駅伝を走っているが、昨年は故障していてチームにあまり貢献できなかったという思いがあった。今年は練習も積んでいたし、3連覇したいなと思って頑張って走った」
2位 ぐんまちゃんランナーズ(群馬県)
記録:1時間16分07秒
中学生2名(車いすランナー)を含む若い選手で構成。“群馬名物のからっ風”の中で鍛えてきた走力で、力強く、チーム一丸となった走りを披露した。
「パラ駅伝は初めてだったが、コースを見て作戦を練って臨んだ。その結果、前半、順調にスピードを出すことができ、その後の下りで、最後の上り坂のために、体力を温存できたのが大きかった。応援もありがたかった」
3位 TEAM MIYAGI(宮城県)
記録:1時間18分19秒
“牛タンパワー”を武器に、県内のパラアスリートと健常者アスリートが一致団結。中学生トリオ(聴覚障がい/車いす/肢体不自由)ランナーが出場。
「区間賞も獲れたし、自分の役目を果たせてほっとしている。チームで走ると、一人で走るのと比べて、責任感があるので……。タスキリレーは、タスキを落とさないように注意し、何とかやり遂げることができた。パラ駅伝が楽しかったので、今後いろんな陸上の大会に出てみたい」
4位 東京わくわくエンジョイ(東京都)
記録:1時間19分31秒
4年連続出場となる常連チーム。今大会は、初出場の若手選手が多数エントリーし、“わくわくエンジョイ”しながらパラ駅伝を楽しんだ。
「競技場に帰ってきた時に聞こえる声援がすごく大きく聞こえた。すごく苦しかったから、区間賞のアナウンスがあった瞬間は嬉しかった。コースの下りで怖がらずにスピードを出せたことが良かったかな」
5位 いばラッキーズ(茨城県)
記録:1時間23分09秒
10月の「いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会」に向けて盛り上がる茨城県のチーム。初年度から4回連続の出場。チームは特別支援学校の生徒と教員らで構成した。
6位 あいサポートとっとり(鳥取県)
記録:1時間26分19秒
「あいサポート運動」は障がい者と共に生きるサポーターになる同県独自の取組み。選手一人ひとりが輝く星のように、様々な障がいを乗り越えて栄光のゴールを目指した。
7位 福島ピーチダイヤモンド(福島県)
記録:1時間26分47秒
県内各地で競技に取り組む選手たちがパラ駅伝を機にチームを結成。「各区間で補い合い、走ることを楽しみ、精一杯ゴールする」をモットーにナイスラン。
「昨年、区間賞を獲得したので、もちろん今年も賞を狙ってレースに挑んだが、それよりもチームの順位を意識していた。だから、7位という結果は正直なところ悔しい……。でも、いつもとは違う雰囲気で緊張もある中、皆が楽しく走れたのはすごくよかった」
8位 ふじっぴー静岡(静岡県)
記録:1時間28分12秒
静岡県のマスコットキャラクター「ふじっぴー」に込められた「富士山」「ハッピー」「ピース」「ピープル」のように、気持ちをひとつにしてゴールに向かった。
9位 世田谷インクルーシブ(東京都)
記録:1時間28分13秒
ユニバーサルデザインの街づくりと心のバリアフリーに向けた取組みを実施する共生社会のホストタウンとして登録さている世田谷区。初参加で、全員完走を果たした。
10位 コバトン&さいたまっち(埼玉県)
記録:1時間30分19秒
フレッシュで未知の力を秘めたメンバーが集結。パラ駅伝の選手として出会った縁を大切にしながら、声援を走るパワーに変え、笑顔でタスキをつないだ。
11位 Golden Angkor(カンボジア)
記録:1時間30分20秒
今大会唯一の海外チーム! サンセットの時間に金色に輝く、世界遺産アンコールワットが名前の由来。様々な州や組織から集まったメンバーたちによる懸命の走りで大会を盛り上げた。
12位 チーバくん(千葉県)
記録:1時間31分18秒
「力いっぱい、明るく頑張ろう!」という意味も込められたチームカラーは燃える赤。県内の特別支援学校の生徒や教職員で編成された若さと元気があふれるチーム。
13位 岩手ハネマルスターズ(岩手県)
記録:1時間31分37秒
岩手県の方言「はねまる」(走り回る、跳ね回る)と、光り輝く星(スター)を掛け合わせたチーム名のように、輝きを放つ走りを見せた。
14位 ウタリ・パラ・北海道(北海道)
記録:1時間35分02秒
チーム名の「ウタリ」はアイヌ語で「仲間」の意味。日ごろからパラスポーツに携わっている選手とスタッフによるパラ駅伝初出場チーム。
「スタート後に飛び出し、トップで競技場を出たけれど、500m地点で宮城の選手に抜かれてしまった……。宮城の選手を抜き返した場面は、相手のペースが落ち、かつコースが狭くなる直前の絶妙なタイミングで伴走者の合図があった。駆け引きがうまくいった」(武川選手)
15位 しなのパープルズ(長野県)
1時間35分07秒
長野県産ブドウ「ナガノパープル」にちなんだチーム名のとおり、寄り添い、力を合わせて頑張ることが目標。楽しみながら笑顔のゴールに向けて走り切った。
「猫ひろしさんがいる中で区間賞を獲れるとは思わず、びっくりの一言。チームの雰囲気は和気あいあいとしていて、障がいのあるなし関わらず一丸となっていた。パラ駅伝の経験者がチームを引っ張ってくれた」
16位 太陽の家むぎの会(大分県)
記録:1時間38分42秒
日本障がい者スポーツの父こと故・中村裕が創設した「太陽の家」ゆかりの親睦団体「むぎの会」のメンバーを中心としたチーム。ベストを尽くし、大会を楽しむ目標を遂行した。
17位 いいじゃん!横浜(神奈川県)
記録:1時間42分33秒
1区の視覚障がいランナーと伴走者は65歳のペアが力走を見せたかと思うと、3区の車いすランナーは大会最年少9歳の女子選手が快走。若さとベテランが力を合わせる融合チームとなった。
18位 くまもとランナーズ(熊本県)
記録:1時間55分29秒
初参加ながらパラ駅伝を盛り上げようと意気込む、走ることが大好きなメンバーが集まったチーム。出場の基準タイムギリギリだが、精一杯頑張るという宣言を有言実行!
<オープン参加> チームよしもと
記録:1時間43分19秒
3年連続出場の同チーム。ペナルティ(元全国高校サッカー選手権出場者)やとにかく明るい安村さん(元甲子園球児)ら、スポーツが得意なタレントとアスリートが集結!
<オープン参加> チーム i enjoy !
記録:2時間01分20秒
草彅剛さん、動画クリエイター集団 Fischer‘s-フィッシャーズ、神スイングの稲村亜美さんが、この日限りのスペシャルチームを結成! 合言葉はもちろん、「 i enjoy ! 」。
大声援は明日へのパワー
草彅剛さんがダッシュして見せたり、フィッシャーズの最終走者ンダホさんが必死の形相で20チーム目のゴールを果たすなど、今年も見どころの多かったパラ駅伝。
「風が気持ちよくて、楽しかった~!」
と充実の表情を浮かべたのは、いいじゃん! 横浜の3区・石井仁菜選手。今回の出場最年少9歳の選手だ。陸上競技や車いすショートテニスに取り組んでいるといい、駒沢のコースの下見をしてこの日に臨んだ。「走るのもっと速くなりたい。今日はフィッシャーズと写真を撮れたのがいい思い出かな」とはにかんだ。
そして、多くの人を魅了したのが、リオデジャネイロオリンピックでカンボジア代表として男子マラソンを走った猫ひろし選手(Golden Angkor)の快走だ。
本人も「これだけ人が入った競技場で走ることはなかなかない。オリンピック以来? そうかもね。走り終えた後、自然と『何も言えね』という言葉が出ちゃいました」と声援に感謝しつつ、「(カンボジアの言葉でがんばれという意味の)『スースー』という応援がすごく聞こえた。これを機会に少しでもカンボジアを身近に感じてもらえたら」と話した。
同じくカンボジアチーム6区を走った上肢切断のボン・ホン選手が続ける。
「日本に来ることができてうれしいが、とくに障がい者と健常者と一緒のイベントに参加できたことがうれしい。それに、こんなに多くのみなさんが応援してくれるとは夢にも思わなかった。今日、パワーをもらったので、来年、フィリピンで開催されるアジア地区の大会を目標に掲げて練習を頑張りたい」
東京わくわくエンジョイの2区・東海林直広選手は、デフフットサル日本代表のキャプテンとしてアジア選手権などに出場した経歴を持つ。パラスポーツとデフスポーツの接点は少なく、パラスポーツの選手たちとの交流を目的に参加した。
「パラ駅伝に大勢の人が集まっていることに驚いた。これを機会にデフリンピックや聴覚障がいのスポーツについて知ってもらえたらと思う」
パラ駅伝を楽しんだのは選手だけではない。元サッカー日本代表で世田谷インクルーシブの監督として参加した北澤豪さんは「前回は東京のチームの一員として4区を走ったが、皆早くて追い抜かれたので今回は選手より監督として参加することにした。やるスポーツもあれば支える役割もある。いろんなかたちで参加できるのがスポーツのいいところだよね」と話し、ゴールテープを切った選手をねぎらっていた。
約700人のボランティアも運営を支えた。今回は初めて視覚障がいのあるボランティアも参加し、配布物を手渡しするなど、一般のボランティアとともに笑顔で応対した。
表彰式では、優勝した「ベリーグッドとちぎ」にパラサポの山脇康会長から優勝杯が授与され、延與桂都知事代行からは東京都知事賞の表彰状が贈られた。“最も印象に残ったチーム”に贈られるJTB賞はカンボジアチーム「Golden Angkor」が受賞した。
大会を総括して、八代英太パラ駅伝大会実行委員長が「来年の東京パラリンピックが成功するように、そしてパラ駅伝がますます世界に広がっていきますように」と期待を込めて語った。
最後は、稲垣さん、草彅さん、香取さんが『#SINGING』と『雨あがりのステップ』を披露。ランナー、ボランティアなどの支える人、観戦する人……皆が一体となって余韻を楽しむ。毎回恒例になったライブこそ、パラ駅伝の醍醐味なのかもしれない。
東京2020パラリンピックまで、あと1年少しとなった。第1回大会では特別だった「障がい者と健常者が一緒に参加する」パラ駅伝は、「障がい者と健常者が一緒になって楽しむ、当たり前のもの」になりつつある。パラスポーツを通じた共生社会の実現へ。17500人が来場したパラ駅伝はその可能性を秘めている。
photo & text by Parasapo