-
- 選手
障がいのある人への応対やコミュニケーション法を学ぼう! 大学生・社会人向けセミナー「あすチャレ! Academy」を記者発表
10月26日、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)は、NEC(日本電気株式会社)の協賛のもと、障がいのある当事者が講師となり、障がい者への応対やコミュニケーションの方法を伝える大学生・社会人向け教育・啓発プログラム「あすチャレ! Academy」をスタートさせると発表した。
「あすチャレ! School」「あすチャレ! 運動会」に続き、「あすチャレ!」シリーズ第3弾となる当セミナーは、東京と大阪からスタート。今年度中に1000人の受講を目標とする。また、2020年までに100人の当事者講師の育成と、全国で10万人の受講を目指す。
パラサポの山脇康会長は、「日常生活で障がい者と接する機会が少ないため、いざ会ってもコミュニケーションやサポート方法がわからないという声を多くいただいている。障がいのある当事者講師から話を聞き、学び、一緒に考える機会を設けることで、障がい者が求める行動を自然にできる人の輪を広げていきたい」と、企画意図を力強く語った。
パラサポ特別顧問を務める小池百合子東京都知事も登壇。「リオパラリンピックでは、ボッチャやゴールボール、ウィルチェアーラグビーを観戦し、その迫力に感動した。2020東京大会を成功させるためにも、まずは競技を広く知ってもらう必要があるため、都庁の職員にボッチャチームの結成を呼び掛けているところ。もちろん、私も選手として入るつもりで、ゆくゆくは他団体との対抗戦も披露したい」と明かした。さらに、「街中の段差解消などのハード面とともに、障がい者への理解促進というソフト面での取り組みも加速させ、パラリンピックの成功につなげていきたい。そういった意味でも、本セミナーは、パラリンピックムーブメントに大きく貢献してくれるはず」と、大きな期待を寄せた。
また、丸川珠代東京オリンピック・パラリンピック担当大臣は、「本セミナーは、2020東京大会の成功はもちろん、それ以降のレガシーを形成するうえでも重要なプログラムと認識している。パラサポとしっかり手を組み、活動を支えていきたい」と挨拶した。
障がいのある当事者が伝えたいこと
続いて、セミナーを発案・監修した垣内俊哉パラサポ顧問が、セミナーの概要を説明。「(道路や建物などの)ハードはすぐには変えられなくても、ハート(心)はすぐに変えられる。障がいのある当事者がそれぞれの視点や経験、感性を活かし、障がい者への向き合い方をお伝えし、『わからない・知らない・できない』を『わかる・知っている・できる』に変えていきたい。また、障がいのある方が輝ける瞬間や場所を増やすという意味でも、2020年までに当事者講師を100名養成したい」と目標を掲げた。
また、実際に講師を務める障がいのある4人も登壇し、それぞれの意気込みを語った。 「私自身が中途障がい者であり、知的障がい児の母親でもあることを活かし、健常者・障がい者・障がい児の親という3つの視点から、多様な方々への向き合い方、柔軟な姿勢と少しの勇気を持つ大切さをお伝えしたい」(岸田ひろ実)
「生まれつきの全盲で、ブラインドサッカーの現役選手でもある。視覚障がいの仲間たちと全力でフィールドを駆け回り、目の見える仲間の声を信じてゴールを決めたときの感動は何物にも代えがたい。障がいの有無に関わりなく、協同できる社会づくりのきっかけとなれればと思っている」(原口淳)
「30代半ばで失聴して以来、毎日不便を感じて生活している。そんな自分自身の経験も踏まえながら、障がいのある方や高齢者への接客マナーや対応についてお伝えしたい」(薄葉幸恵)
「軟骨無形成症という先天的な骨異常を患っており、身長はドラえもんと同じ130cm。この短い手足を武器に、営業職として相手の懐に飛び込む日々を送っている。その背景には挑戦し続けることの大切さを体感してきたことにある。この想いを伝えられるよう、ベストを尽くしたい」(山田大地)
パラアスリートのリアルな体験談を披露
最後に、垣内パラサポ顧問とともに、廣瀬誠(柔道)、田口亜希(射撃)、山本恵理(パラサポ、パワーリフティング)の3人のパラアスリートが登壇し、障がいのある当事者として体験してきたコミュニケーションについてのクロストークを展開した。
リオパラリンピックでは、「言葉が通じない不便さも、現地の人たちのやさしさで乗り越えられた」(田口)、「渡航前は、治安や施設のハード面の問題がクローズアップされていたが、それを補って余りある陽気で親切な対応ぶりに感動し、気持ちよく帰国できた」(廣瀬)、「スポーツの楽しみ方を知っていて、言葉が通じなくても盛り上がれる雰囲気が印象的だった」(山本)など、ハートや行動の大切さ、スポーツを楽しむ気持ちの大切さを感じたと話した。
また、日常生活の中でのエピソードも披露。
「友人と買い物に出かけた際、弱視のため、お肉のパックを目に近づけてじーっと見ていたら『腐っていないから大丈夫ですよ』と店員さんに声をかけられたことがあった。それを見た友人から、『普段は忘れてたけど、視覚障がい者なんやな』と言われた。(閉じこもっていては何も変わらないけど)自分が行動することで、周りの理解が進んだり、距離を縮められることもある」(廣瀬)。
「『お手伝いしましょうか』と声をかけられて断るのは勇気がいる。でも、自分でできることはできると伝えることも大切だし、それがバリアを取り除くきっかけになることもある」(田口)。
「地下にあり、しかも階段しか使えない病院へ行った。『もう来ないで』と言われるかと思ったが、先生から『車いすの方も来やすいように改装しようと思う』と聞き、訪れてよかったと思ったし、うれしかった」(山本)など、障がい者も、自分でできることや、求めているサポートの内容を相手に伝えるなど、行動することで、健常者に歩み寄っていく大切さを語り合った。
さらに、「あすチャレ! Academy」受講者へは、「障がいのあるなしに関係なく、人への思いやりを学ぶということだと思う。学ぶことで思いやりのある社会になっていければ」(田口)、「パラスポーツを通じて、広く障がいについて知っていただきたいと思っている。受講される方には、さらに障がい者を気軽にサポートできる雰囲気作りに協力していただければうれしい」(廣瀬)、「パラスポーツ観戦などの題材に、障がいのある方たちとの付き合い方をお伝えする。障がい者は弱者といわれるが、私の周りに弱い人はひとりもいない。そうした現実をまずは知っていただき、健常者と障がい者という壁をなくしていきたい」(山本)とメッセージを送った。
障がいのある当事者たちが経験やその想いを伝えることで、まずは障がいを知ること、そしてそこから一歩踏み出して、障がい者と健常者が、そして障がい者同士や健常者同士が、お互いにどのようにコミュニケーションを図ればよいのか。学ぶことの大切さを伝える機会となった。
text&photos by Parasapo