-
- 競技
-
陸上競技
[第2回日本IDハーフマラソン選手権大会]男子の金子が日本新の快走で連覇達成。一般選手のなかで知的障がい選手の健闘光る
「第2回日本IDハーフマラソン選手権大会」が1月29日、冬晴れのもと、東京・明治神宮野球場周辺の特設コースで開催された。日本知的障がい者陸上競技連盟(JIDAF)の主催大会で、男子は金子遼が自身の持つID日本最高記録を5秒更新する1時間9分31秒をマークし、大会連覇を飾った。大会は昨年につづき、新宿シティハーフマラソン・区民健康マラソンと同時に開催され、金子は総合優勝も果たした。
ID男子ハーフマラソンで2位の五味翔太は1時間10分17秒で総合3位に、同3位の余村直彦は1時間12分37秒で総合6位に入賞。また女子は阿利美咲がID日本最高記録を25分8秒も上回る1時間25分40秒の新記録で優勝し、総合でも2位に入る快走を見せた。
また、10kmの部でも、ID男子優勝の安西伸浩が32分32秒で総合4位、同準優勝の櫻井光が33分00秒で同6位に入賞。女子優勝の黛涼子も42分3秒で同6位に食い込んだ。
男女合わせて70人以上が参加した知的障がいの選手たちがそれぞれの力を発揮し、約10,000人以上の一般参加選手のなかで確かな存在感を示した。
悔しさをバネに、勝負強さを見せた王者・金子
金子の走りは、他を圧倒した。ID部門、総合とも2位の選手にそれぞれ1分46秒、32秒の差をつけた。表彰台の頂点で会心の笑顔を見せた金子は勝因として、所属する滑川走友会(埼玉)の監督から授けられた、「16kmまでは出たくても我慢」という指示通りに走れたことを挙げた。実際、16kmまでは五味と並走していたが、「16kmで一気に離して、18kmからは本気の勝負をしました。苦しかったですが、あとはスピードだ、負けないぞと思って頑張りました」と振り返った。一人旅となってから再度ギアチェンジできる気持ちの強さも金子の魅力だ。
さらに、「悔しさもバネにした」と話した金子。実は、総合2位に入った前回大会では、優勝した一般選手とゴール直前まで競り合い、5秒差で敗れた。また、昨年11月にポルトガルで行われた「INAS第7回世界ハーフマラソン選手権大会」でも準優勝を果たし、余村(7位)、音信之介(8位)、水野友登(13位)とともに、上位3人の合計タイムによる団体戦の準優勝に大きく貢献したものの、現地に出発する1週間前に体調を崩し、本調子でないなか6秒差で地元ポルトガルの選手に敗れた。
そうした悔しさが今大会へのバネになったという。優勝してリベンジを果たしたが、「自己ベストが出たことは嬉しいですが、もっと強くなりたい」と満足はしていない。最後まで競り合える選手の存在など条件が揃えば、さらなる記録向上も期待できるだろう。
20歳の成長株! 五味が2位に
今大会が初めてのハーフマラソン挑戦ながら、2位に入った五味は20歳のホープだ。陸上は小学校から始め、中学・高校と一般校で活躍。2016年からJIDAFの強化指定選手に入った。出身の山梨県で仕事をしながら、コーチ役の父親と二人三脚で競技を続け、今年1月に行われたJIDAFの沖縄合宿では、「2020年東京大会でメダルを獲りたい」と宣言したという。
今大会は初参加のため何度も試走をして臨んだという五味。「試走ではきついと思いませんでしたが、今日はきつかったです。ただ、最後まで心が折れなかった。金子くんに負けてしまったけど、そこはしっかり受け止めて、来年は今年のリベンジをしたいと思います」と力強い。
高校までは10000mが最長距離だったという五味にとって未知の世界だった今回のハーフマラソン。それでも16kmまでは1位の金子と並走し、レースをつくった。金子も、「五味さんが引っ張ってくれた。いいライバルです」と健闘を讃えていた。互いに切磋琢磨し、さらなる成長を期待したい。
2020年東京へと舵を切った、日本の知的障がい者陸上
JIDAFは2020年東京パラリンピックでのメダル獲得を目指し、新たな取り組みを進めている。昨年夏には強化指定選手制度を見直し、選考条件となる標準記録を引き上げ、少数精鋭で目標を絞った強化を図るという。また、若手選手の発掘も特別支援校から一般校まで幅広くアプローチし、一般の競技大会にも出向くなど即戦力のある選手をスカウトしていく意向だ。
また、パラリンピックの陸上競技で知的障がい者クラスの実施種目は少ない。JIDAFは、現在採用されていない長距離種目の追加も、国際パラリンピック委員会に要望していくという。
強化選手たちにとって、今年最高の目標大会は5月にタイで開催予定の「2017INAS陸上競技世界選手権大会」だ。知的障がいのある選手を対象とした最高峰の国際大会で、すでに全27人(男子16、女子11)の日本代表選手が決定しており、今大会で活躍した金子や五味、阿利なども名を連ねる。次は、世界のライバルたちのなかで存在を大いにアピールしてほしい。
text by Kyoko Hoshino
photo by X-1