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パワーリフティング
東京パラリンピック会場・東京国際フォーラムで初開催! パワーリフティングのテスト大会で見えた手ごたえと課題
9月26日から27日の2日間、東京2020大会のテストイベント「READY STEADY TOKYO パワーリフティング」が東京国際フォーラムで開催された。男子は10階級、女子は9階級に分かれて試技が行われ、4階級で日本新記録が生まれた。
男子72kg級・樋口健太郎は悔しい日本新
気持ちを高めるドラマチックな音楽と、選手の魅力を伝える派手なアナウンス、試技場だけをぽっかりとライトで浮かび上がらせた舞台装置は1年後の熱狂を予感させた――。
そんななか、初日に東京2020パラリンピック出場までの距離を縮めたのは、男子72kg級の樋口健太郎。1回目に自身が7月の世界選手権で出した日本記録に3kg上積みする175kgを挙げ、優勝を果たした。
しかし、2、3回目は180kgに挑戦するも失敗に。「結果は悔しい。もし2回目に挙がっていれば、185kgまで行きたかった」と悔やむ表情が目立った。最低目標だった180㎏を挙げれば、東京パラリンピック出場が可能になる世界ランキング8位以内に到達する可能性は高かった。
今回、目標を達成できなかった原因は見えている。高い精度を可能にする技術だ。樋口は「経験が足りないんです」ともどかしそうに語る。じつは今年、47歳になる樋口がパラ・パワーリフティングを始めたのは交通事故に遭った2017年。競技を始めてから2年しか経っていない。
だが、ここ2年で39kgも重量を伸ばしたことを考えれば、伸び率は驚異的だ。今後の目標は来年4月に世界トップと戦える190kgをマークすることだが、すでに非現実的な数字ではなくなっている。日本のエースとしての雰囲気も醸し始めていた。
リオ代表の大堂は優勝。西崎は3位入賞
ベテラン勢で存在感を示したのは、パラリンピック4大会出場を目指す男子88kg級の大堂秀樹と、2大会連続出場を目指す西崎哲男だ。
大堂は今年4月に出した自身が持つ日本新197kgの試技は失敗したが、2回目にマークした190kgの記録で金メダルを獲得した。「体調が悪いなか、精神力で押し上げた。我ながらよくやったと思う」と納得の表情だった。
現在、東京2020パラリンピックランキングは12位。8位以内の出場ラインに届いていないが、手応えは持っているという。「来年4月までに207㎏から208kgを上げなければ、東京には出られないでしょう。あと10kg上がるの? とは思うけど、練習で205kg挙げたことがあり、できる感覚はあります」とその思いを口にしていた。
リオパラリンピックに出場した西崎は、階級をこれまでの54kg級から49㎏級に下げてエントリーし、130kgで3位入賞を果たした。
「結果は想定内におさまった。階級を変えたのは、東京出場の可能性を広げるため。残り2大会は49kg級で行く予定」と、2月のマンチェスター大会と4月のドバイ大会で、世界ランキングを上げにかかることを打ち明けていた。
女子73kg級の坂元が東京パラ参加標準を突破
女子は73kg級の坂元智香が2回の失敗のあと、3回目で東京パラリンピックの参加標準記録72kgを突破し、「ホッとしました」と泣き出しそうな声を出した。
1、2回目は強い緊張に包まれた一方、意外と軽く上げられたバーに驚き、挙上するスピードをコントロールできず、失敗に終わったという。それだけに3回目の成功はひとしおで、「来年、必ずこの場に戻ってこられるように頑張りたい」と決意を新たにしていた。
女子55kg級の山本恵理は60kgでスタートしたあと、3回目で63kgを成功させ、自身が保持する日本記録を更新した。今回、65kgの標準記録突破はならなかったが、「重さではなく、テクニックの問題で挙げられなかっただけ。すでに65kgから先を見据えている。今年度中に70kgまでいきたい」と先を見据えた。
選手のテンションもアップ。ドラマチックな会場構成
テスト大会という側面から見て、今回は収穫が多かった。ベテラン大堂が「舞台の雰囲気、すごいですね。来年、この会場に人が埋まるなかでできたら、たまらんな、と思いました」と話したように、選手は気持ちを高める演出や、観客との距離の近さを喜んでいた。
海外選手からも演出は好評で、女子73kg級を制したガゾーニ・スーアッド(フランス)は、「素晴らしい運営だった」と賞賛している。
演出の一つとして今大会では、日本初の試みとして選手の試技が成功したか否かを観客へ伝えるアニメーション動画も導入されている。試技中の選手の表情を大映しにするカメラも天井に設置され、瞬間に挑む選手の緊迫の表情を伝える工夫もされていた。
ただ、アニメーションも天井のカメラも大会中に実施される試技とされない試技があり、日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進理事長は、「まさにテストイベントになってしまった。準備不足でした」と苦笑する場面も。
それでも「選手の表情やバーの微妙な動きが観客に伝わらないとおもしろくない。予算に限りはあるが、本番では工夫して分かりやすく伝えるようにしたい」と充実の運営にすることを誓っていた。広い会場を必要としないパワーリフティングは、演劇などの舞台で大会を実施することが可能で、様々な演出ができるのも強み。1年後はいっそう華やかな舞台が期待できそうだ。
一方、設備面では、バリアフリートイレの少なさを懸念する声が選手から数多くあがった。男子49kg級の西崎は、「会場の近くにあるトイレは一つだけ。本番では足りないと思う」と不安を口にする。観客席には、車いすエリアが広くとられているという利点はあるが、車いすの観客用トイレも一つで「足りないだろう」という見方が多かった。
また、選手からは、「バリアフリーは問題ないが、会場の導線が複雑で、練習会場から本番の会場まで遠い」という意見も出ていた。
吉田理事長は、「様々な問題があると思うが、我々も満足はしていないし、選手の声を集約したうえで、改善につなげていきたい」と結んだ。
【READY STEADY TOKYOパワーリフティング リザルト】
▼男子(階級/優勝者・記録)
49kg級/チェ・クンジン(韓国)147kg
54kg級/アクセル・ブルロン(フランス)161kg
59kg級/戸田雄也 128kg
65kg級/クリスチャン・ラルゴ(アメリカ)140kg
72kg級/樋口健太郎 175kg(日本新)
80kg級/アーマド・ラズアザール(ジョージア)183kg
88kg級/大堂秀樹 190kg
97kg級/馬島誠 154kg
107kg級/ヤコブ・スコーム(アメリカ)202kg
107kg超級/チュン・クンベ(韓国)221kg
▼女子(階級/優勝者・記録)
41kg級/サキーナ・カトゥーン(インド)86kg
45kg級/小林浩美 57kg
50kg級/ルイーダ・ザバラ・オレーロ(スペイン)93kg
55kg級/山本恵理 63kg(日本新)
61kg級/龍川崇子 58kg(日本新)
67kg級/キム・ヒョンフイ(韓国)105kg
73kg級/ガゾーニ・スーアッド(フランス)113kg
86kg級/ルイーズ・サジェン(イギリス)122kg
86kg超級/イ・ヒュンジュン(韓国)113kg
text by Yoshimi Suzuki
photo by Kato Yoshio