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ゴールボール
ゴールボール女子日本代表が力試し! 東京2020本番会場で開催されたジャパンパラ
プレー中は静寂に包まれる会場が、得点が入ると一転して歓声に沸く。東京2020パラリンピック本番会場の幕張メッセ・イベントホールで、ゴールボール女子のトップ選手たちが躍動した。
9月28日と29日の両日、幕張メッセにて開催された「天皇陛下御即位記念 2019ジャパンパラゴールボール競技大会」。海外からは世界ランキング3位のブラジルと5位のアメリカが参加。迎え撃つ日本はA・Bの2チームでの参戦となった。
コントロール強化の成果はいかに?
ブラジルとアメリカはともに攻撃力のあるチーム。対する日本は守備力に定評があるが、今大会に向けては8月に9日間の強化合宿を行い、スローのコントロールを中心に攻撃力を磨いてきた。
予選では、日本代表とほぼ同じ構成であるAチームがブラジルを4-2、アメリカを4-1で破り、日本チーム同士の対戦は引き分けに終わったものの1位で通過し、早くもその成果を見せる。とくに、ブラジルと日本Bの2試合を無失点で完封してきたアメリカチームに対し、先制点を奪われながら、4点を取り返して逆転勝利を収めた試合は、優勝への期待を大いに抱かせるものだった。
<日本A>トリッキーな攻撃は功を奏すも失点に課題
決勝戦はそのアメリカチームと日本Aチームの顔合わせ。ともに堅い守備力を見せる両チームの戦いは、緊張感に包まれた接戦となる。両サイドのウイングが頻繁に位置を入れ替えながらストレートとクロスをスローするのに加えて、守備の要であるセンターもボールを投げるアメリカの多彩な攻撃に対して、日本Aの3人は密に声をかけ合いながら守備を堅める。ボールの音や相手チームの足音に耳を澄ませ、相手の出どころを探るサーチは、日本チームの堅守の要。「右ね」「(ボールを)渡してる」と相手の動きを確認し合うのに加えて、9m幅のゴールを0〜9に分割した番号で「3」や「5.5」など、ボールを投げてくる位置を探ってチーム内で共有する。
さらに、相手のボールを止めるだけでなく、しっかりとキャッチして素早く反撃に転じることも有効で、日本はとくにこの返しが速く、ボールを放った相手選手が守備位置に戻る前にゴールを割ることを狙う。しかし、アメリカの動きもスピードがあり、なかなか得点を奪うことができない。とくに、守備の要でありながらも、サイドに速いショットも打つアマンダ・デニスの動きの速さと運動量が光る。
それでも、日本Aはアメリカ陣営が「世界で一番トリッキー」と評した攻撃で何度も惜しい場面を作る。手や床を軽く叩いて、移動している足音を相手に悟らせないようにしながらの移動攻撃や、ボールを持っていない選手が助走の足音を立てるフェイントを入れてからのショットなど、体格やパワーで劣る中で得点を挙げるために工夫を凝らす。加えて、高速で転がるグラウンダーと、バウンドボールの使い分け、相手の守備の間を抜くボールを何度も投げてそこを意識させておき、ポスト際ギリギリのコースを狙うなど、頭脳戦の展開が互いに続く。
均衡が破られたのは後半の2分過ぎ。アメリカのウイング、チェコスキー・リサの放った力強いショットが日本Aのセンター高橋利恵子に当たってコースが変わり、ゴールに転がり込んでしまう。しかし、その約3分後、日本Aも後半から入った若杉遥がクロスボールでセンターの横を抜き、試合を振り出しに。だが、直後に再びリサがバウンドボールを放ち、そのボールは高橋の足に当たったものの、勢いを殺しきれず日本のゴールを揺らした。
なおも、高橋と小宮の間を狙ってパワフルなショットを集めてくるアメリカだったが、日本Aは粘って追加点を許さない。そして残り時間が少なくなってきたタイミングで、今大会3得点を挙げている欠端瑛子を投入。なんとか得点を狙うものの、動きの落ちないデニスを中心に守りを堅めるアメリカチームを崩すことができなかった。
<日本B>センターの浦田が復活アピール
また、3位決定戦は日本Bチームがブラジルと対戦。こちらのカードも予選では2-2の引き分けとなっているだけに、勝利の期待が高まったが後半早々にペナルティスローで失点。その後も、センターの浦田理恵がスピードある反応で何度も好守を見せるものの、後ろを向いて足の間から両手で投げるというブラジルチーム独特のパワフルなショットを抑えきることができず、追加点を許してしまう。結果は0-3で日本Bが敗れ、日本チームは2位と4位で日程を終えた。
大会後、日本代表の市川喬一ヘッドコーチは「最後、勝てなかったのは残念だが、本番と同じ会場で強豪チームと対戦でき、同じ素材のコートでボールの動きや音の響き方なども確認できた」とコメント。また、Aチームの高橋が失点を許したことから、日本代表センターの再考を示唆した。
選手たちは注力しているショットのコントロールにも手応えを掴んでいるようで、ペナルティスローを含まずに3得点を挙げた欠端は「合宿でも取り組んでいた成果が出ている」と話す。また、昨年以降、日本代表はより細かな情報分析を行っているが、ベテランの小宮正恵も「ほぼ分析の通りだった。本大会に向けて心強い」と来年に向けた手応えを語った。
本番に向けて床や聞こえ方もテスト
東京パラリンピックのテストイベントを兼ねた今大会は、本番と同じ会場、同じコートでテストできる“最初で最後の機会”。今回、コートにはホールのコンクリートにマッチするゴム製の緩衝材を敷き、その上にゴム製のタラフレックスが張られたが、「選手が動く際の滑りがいい」と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の近藤和夫ゴールボール競技スポーツマネージャーは説明する。
ロンドン、リオのパラリンピック2大会に出場した欠端もコートについて「グラウンダーも速いスピードで転がるし、バウンドもすごく弾む。自分たちもいいボールを投げられるけれど、相手からもいい球が来る」と話す。リオ大会でもタラフレックスが使用されたが、敷き方によってプレーのしやすさも変わるようで選手たちにはおおむね好評だった。
また、競技の特性上、会場の静寂さが求められるため、そのテストにも重点が置かれ、計20名以上のボランティアが「Quiet Please(お静かに)」のボードを掲げた。日本は海外と比べて静かな環境でプレーできると言われるが、今大会も決勝戦では観客が集まり、「応援していただいている状態の音を体験することができた」と小宮は感謝の意を表した。
そのほか、会場までの輸送、トイレやエレベーターの数が足りない問題も確認された。本大会では、選手はもちろんのこと、障がいのある観客の目線に立った運営が求められる。
優勝:アメリカ
準優勝:日本A
3位:ブラジル
4位: 日本B
text by TEAM A
photo by X-1