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車いすテニス
国枝慎吾が初代チャンピオン! テニスファンを魅了した楽天オープン・車いすの部
東京2020大会に向けて生まれ変わった有明のテニス会場で、9月29日から10月6日にかけて男子プロテニスツアー(ATPツアー)である「楽天・ジャパン・オープン・テニス・チャンピオンシップス2019(楽天オープン)」が行われた。テニス界のスーパースター、ジョコビッチの来日で盛り上がる中、初めて車いすテニスが共催され、国枝慎吾(世界ランキング2位)が、シングルスとダブルスで初代チャンピオンとなった。
貫禄を見せつけた世界トップ10の2人
楽天オープン初日の金曜日、国枝のシングルス1回戦が、東京オリンピックとパラリンピックのために新しく建設された「楽天カードアリーナ」で行われた。
1回戦は世界ランキング34位のイム・ホーウォン(韓国)との対戦となった国枝は、風の影響もあり、第1セットの序盤、ややストロークのミスが目立った。だが、第7ゲーム以降は国枝本来のプレーが戻り、イムを圧倒。6−2、6−1のストレートで勝利した。
初戦を終えた国枝はこう打ち明ける。
「風の影響やパラリンピックの会場、久しぶりの日本での大会というのを意識してしまい、硬くなってしまいましたね。逆に、パラリンピックの初戦と思って自分にプレッシャーをかけて臨もうという気持ちもありました」
そして、大会二日目、中国のドン・シュンジャンを6−0、6−1で下して決勝に進出。また、第2シード、世界ランキング6位のステファン・オルソン(スウェーデン)も1、2回戦を順当に勝ち上がり、決勝は予想通り国枝とオルソンとの対戦となった。
ダブルスでは、国枝/オルソン組が準決勝、決勝ともに6−0、6−0の圧倒的スコアで優勝を果たした。
有明で手にした格別な優勝
決勝は、11時開始予定が雨のため2時間遅れの13時スタートとなった。それでも、国枝のプレーを観に多くの観客が集まった。
国枝対オルソンの対戦成績は、33勝3敗で、圧倒的に国枝の勝率が高い。だが、2019年には全豪オープンでオルソンが国枝を下しており、決して侮れない相手だった。
初戦では硬くなったという国枝だったが、決勝は序盤から国枝らしい伸びやかなプレーが見られた。オルソンは最初のサービスゲームで3本のダブルフォールトを犯すなど、サーブから試合を組み立てていくことができずにいた。加えて、第1セット第5ゲームで、車いすのリムが破損しスポークが根元から数本外れるというアクシデントもあり、オルソンの持ち味である鋭い攻撃がなかなか見られなかった。
一方、国枝は、積極的にネットへ詰め、ボレーでポイントを奪っていくプレーを随所に見せ観客を沸かせた。第2セット中盤からは、オルソンもネットプレーが増え、国枝を追い込む場面もあったが、終始優勢に試合を進めた国枝を崩すことはできなかった。6―0、6−2のストレートで国枝が勝利した。
決勝を振り返って国枝はこう語る。
「(有明テニスの森での優勝は)本当に格別ですね。これだけの観衆(の中で試合をする)というのは何年振りかな、というくらいだったので本当にプレーしていて気持ちがよかったです。今日はすごくいいプレーができたので、それについても満足できるレベルだったと思います」
シングルス、ダブルスともに楽天オープンの初代チャンピオンとなった国枝、この優勝が東京パラリンピックの金メダルへつながることを期待したい。
車いすテニス共催は関係者の“悲願”だった
「楽天オープン」はノバク・ジョコビッチなど、男子プロテニスのトップ選手が出場するグレードの高い大会だ。その大会と車いすテニスのトーナメントを共催するというのは、車いすテニス関係者にとって悲願だった。
車いすテニス日本代表の中澤吉裕監督は「車いすテニスの共催は、東京パラリンピックを前にようやく実現しました。ATPの大会と共催するということで、車いすテニスの認知度もさらに上がってほしいと思います」と期待する。
国枝も「10年くらい前から楽天オープンで車いすテニスもやってほしいと思っていたので、ようやく実現したという感じです」と初日の記者会見で語っていた。
また、「楽天オープン」での車いすテニス共催は、日本の選手たちの世界への道につながる。
「現在、国内の車いすテニスの大会は、福岡県で行われているSS(スーパーシリーズ)の『ジャパンオープン』のほかは、ITF3、チャレンジャーというグレードの低い大会だけです。日本の選手が世界ランキングを上げるためにポイントを稼ぐには、海外遠征をするしかありません。でも、ITF2というグレードの『楽天オープン』ができたことで、国内でもポイントが稼げて、世界のトップ選手と対戦する機会ができたのです。これは非常に意義のあることです」(中澤監督)
日本も、かつてはトップ選手が出場するITF1に相当する国際大会が開催され、海外の選手と国内で対戦できるチャンスも多かった。パラリンピックのシングルス2連覇の国枝も、国内で海外選手と対戦を重ね、世界へと羽ばたいていったひとりだ。だが、それらの大会は諸々の事情で徐々に規模は小さくなり、現在ではグレードの低い大会ばかりになってしまった。「楽天オープン」が恒久的に開催されることで、日本の選手たちにとって世界への道がより身近になっていくはずだ。
激しいラリーの応酬にどよめく観客
これまでの国枝の活躍で車いすテニスの存在そのものは知られるようになってきたが、車いすテニスを生で見るのは初めてだという観客も多かった。
東京在住の50代の女性は、「5〜6年前に国枝選手を知り、今日は国枝選手の試合を見たくてきました。やはりテレビで見るよりも迫力がありますね」と話した。
オルソンの試合を見たあとで車いすテニスの体験をしていた愛知県から来た30代女性は、「車いすであれだけ動けるのはすごいと思いました。車いすはサイドステップができないし、後ろを向く場面があるので難しいと思います」と分析する。
一般のテニスではポイントが決まってしまう場面でも、ツーバウンドまで返球が可能な車いすテニスではさらにラリーが続く。そのたびに観衆はどよめいた。国枝は「歓声を聞いて『まだまだラリーは終わらないよ』と思いながらプレーしていました」と笑顔で話した。
三重県から車いすテニスを観戦しにきた親子は、男子の決勝の後に興奮気味に語ってくれた。テニス歴5年の15歳の息子は「テレビで見たことはあったけど、もっとボールが緩いと思っていたので、実際のボールのスピードに驚きました。車いす操作をしてテニスをするのは一般のテニスよりも迫力がありました」と話す。40代の母親は「あの低い打点からあの軌道でサーブが入るのがすごいと思いました。想像以上にすごかったです。来年も絶対に観に来ます!」と言い、車いすテニスに魅了されたようだった。
粘って返し、想像以上にラリーが続いていくところも、車いすテニスの醍醐味だろう。東京2020パラリンピックでは、センターコートの有明コロシアムで観客のどよめきが聞こえてくるに違いない。
※世界ランキングは10月3日付
男子シングルス:
優勝 国枝慎吾(日本)
2位 ステファン・オルソン(スウェーデン)
ベスト4 斎田悟司(日本)、ドン・シュンジャン(中国)
男子ダブルス:
優勝 国枝慎吾(日本)/ステファン・オルソン(スウェーデン)
準優勝 イム・ホーウォン(韓国)/ドン・シュンジャン(中国)
text by Tomoko Sakai
photo by Yoshio Kato