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アルペンスキー
2017ジャパンパラアルペンスキー競技大会が閉幕。2年連続W杯総合優勝の森井ら日本人トップ選手たちの2016-17シーズン
3月5~6日に行われた「IPCアルペンワールドカップ白馬大会」に続いて、3月18~21日、長野県の白馬八方尾根スキー場で行われた「2017ジャパンパラアルペンスキー競技大会」。20日には、2018年のピョンチャンパラリンピックのプレ大会として開催された「IPCアルペンワールドカップ韓国大会」に出場していた主力選手たちも合流し、世界トップの滑りで今シーズンの最後を締めくくった。
2年連続W杯総合王者の森井「ピョンチャンパラは楽しみでしかない」
日本チームのリーダー的存在である男子座位・森井大輝は、「最後は気持ち良く終えられるようにしたい」という言葉通り、最終日の大回転2戦目では1本目の3位から、2本目で2位に浮上する滑りで、きっちりと表彰台に上がってみせた。
今シーズンの前半はなかなか成績が出ずに苦しん森井だが、逆にそれが自分自身を見つめ直すきっかけとなり、さらにレベルアップを図ることができた要因になったという。
W杯白馬大会ではスーパー大回転で今季W杯初勝利を挙げると、続くピョンチャン大会でも、滑降、大回転で2冠に輝き、昨シーズンに続いてW杯総合優勝を達成。「パラが楽しみと思えるくらいに、いいシーズンを過ごすことができた」と、自身初のパラリンピック金メダル獲得に向けて自信を伺わせた。
ふたりの金メダリストに漂う王者の貫禄
ジャパンパラでは「ケガのないように、少し抑え気味だった」と語りながらも、大回転第1戦では他をおさえて優勝し、技術系種目の強さを見せたのが、男子座位・鈴木猛史だ。
W杯ピョンチャン大会の最終日には、3年前のソチパラリンピックで金メダルに輝いた回転で優勝し、世界に健在ぶりを示した。「これまでなかなか回転で表彰台に上がれていなかったので、最後くらいは見せつけないといけないと思って滑りました」
もちろん、それで安心というわけではない。同大会で2位だったオランダ選手は17歳とまさに伸び盛りの若手。「来年はさらにタイムを上げてくるはず」と鈴木も警戒心を募らせる。しかし、若手に勝る「経験値」を活かした滑りで、「王者」の座は譲らないつもりだ。
ジャパンパラの大回転第2戦で表彰台の最上段に上がったのが、男子座位・狩野亮だ。得意の高速系では、2010年バンクーバー(スーパー大回転)、2014年ソチ(滑降)でいずれもパラリンピックの金メダルを獲得しており、来年のピョンチャンでは3大会連続の偉業達成への期待が寄せられている。
初めて金メダルに輝いたバンクーバーパラリンピック以後、狩野は自らのモチベーションを維持することに苦しんだ。しかし、ソチの後は「気持ちのブレ」は一切なかったという。この3年間、常に「淡々と」自らの滑りを追求してきた狩野は、来年もパラリンピック本番まで「淡々とやるべきことをやるだけ」と語る。
「これからはパラリンピックにすべてを合わせていく1年になる。ここからが本当のスタート。これまで積み上げてきたことを、しっかりと仕上げていきたいと思っています」
落ち着いた表情からは、一喜一憂しない金メダリストの貫禄がうかがい知れた。
「考える1年」を過ごした村岡、シーズン後半に好結果
地国開催のW杯白馬大会では、スーパー大回転で今季W杯初勝利を挙げた女子座位・村岡桃佳。「イメージのいい白馬のコースで今シーズンを締めくくれるのは嬉しい」と、ジャパンパラでは笑顔を見せていた。
今シーズンは、前半は伸び悩んだものの、1月の世界選手権以降は調子を上げ、表彰台に上がり続けた。来年、パラリンピック本番を迎えるピョンチャン大会のコースも「攻略するのが面白くて、滑っていて楽しかった」という。
「板やサスペンションなど、いろいろと試行錯誤しながらやってきたことが、ようやくうまくいき始めた感じ」と語る村岡。これまで村岡は、「与えられてきた用具」を使用してきた。しかし、今シーズンは初めて「どうすればもっと速くなるのか」と、スキー板のエッジの角度など、用具についても細かく考えたという。それはサポート体制が充実していく中で「どうしたいのか」を周囲から求められるようになり、と同時に自らが「こうしたい」という要求が聞き入れられるようになったからだ。
「とにかく今シーズンは『考える』1年でした。最初は何をどうすれば全くわからなかったけれど、いろいろと試しながら、ようやくここまできました」と村岡。これまで積み上げてきた技術に思考力が加わり、さらなる飛躍が期待される。
立位の三澤「コツコツ」と積み上げてきたものが自信に
ジャパンパラではフィジカルとメンタルがかみ合った中で、しっかりと今シーズン最後を締めくくり、大回転2戦ともに2位以下に圧倒的な差をつけて優勝したのが、男子立位・三澤拓だ。ピョンチャン大会では、最高6位ながら内容には納得しており、「戦えるな」というイメージを持って帰国の途に着いた。
今シーズン、三澤にとって大きかったのは、W杯白馬大会だ。これまで国際大会での表彰台は、最も得意とする回転に限られていたが、白馬大会ではどちらかというと苦手としてきた高速系のスーパー大回転で3位に入った。その要因は、これまでの「積み上げ」と分析している。
「ひとつは、ずっと地道に続けてきたトレーニングが大きいと思います。ソチの時はまだ体が変わるきっかけでしかなかったのが、今は体に染みついてきたかなと」
「がむしゃらさ」がトレードマークだった三澤だが、今心がけているのは一つ一つへの「丁寧さ」だ。それはトレーニングのみならず、食事しかり、睡眠しかり、と日常生活にも及ぶ。その丁寧さがコースアウトすることなく完走し、常にトップ10入りするようになった結果にもつながっている。
「これまではパラが4年に一度と思うと、どうしても『やってやる』と変に意気込んでしまった。でも、今はしっかりと準備さえすれば勝てる、という自信がある」と話す三澤には、ピョンチャンでの表彰台も見え始めている。
今シーズン最後の締めくくりとなったジャパンパラでは、どの選手からも1年後に迫ったパラリンピックに向けて、それぞれ充実したシーズンを送ってきた自信が見て取れた。来年3月、ピョンチャンの地で日本人選手たちの最高の笑顔が見られるに違いない。
text by Hisako Saito
photo by Kazu Yoshihama,X-1