価値観が変わる、世界が広がる!「ソーシャルサーカス」のワークショップがすごい!
ソーシャルサーカスって何?耳慣れない言葉に頭の中でハテナが行進する人も多いだろう。今回リポートするのは、サーカス体験を通して心の壁を取り払い、コミュニケーション力や創造性を育むワークショップだ。ただ楽しいだけではない、その先にはいろいろな気づきが…。実際に筆者が参加してみたので、ワークショップの内容や感じたことなどをリアルにお届けしたいと思う。
初対面の参加者同士、まずは体を使って自己紹介
今回参加したのは、NPO法人スローレーベルが提供するソーシャルサーカスのワークショップで、障がいのある人もない人も参加できる(事前申し込みが必要)。参加者は約20名。まずはみんなで輪になって、自己紹介からスタートするが、実は、そのスタイルがとてもユニークなのだ。ただ名前を伝えるだけじゃなく、ジャンプしたり手をたたいてみたりと、体を使って自由に表現する。そして、その動きをほかの参加者たちがマネするのだ。
初対面の人同士が集まると、どうしても緊張してしまうもの。この自己紹介をきっかけに少し空気が和み、コミュニケーションをとりやすい雰囲気が生まれた。
続けて、ウォーミングアップを兼ねてストレッチを行い、さらには自由に歩き回って、出会った人とハイタッチ! ふだんは出会ってすぐの人とスキンシップをはかることはあまりないが、ここでは遊び感覚だから、構えることなく自然にそれができるのだ。
みんなで歩調を合わせて歩く
次のワークは、5人ずつグループで横一列に並び、ゴールに向かって歩くというものだが、早さを競うのが目的ではない。なるべく歩調を合わせて同時にゴールするのがミッションだ。歩幅の広い人もいれば、動きがゆっくりな人もいる。お互いの動きやスピードを確認しながらゴールを目指す。声をかけ合わなくても、自然とコミュニケーションがとれ、協調性が引き出される。
カラフルなサーカス道具を使って、自由に表現
ジャグリングや皿回し用の皿、輪っか、リボンなど、カラフルなサーカス用の道具が用意されており、参加者は自分の好きなものを選んで自由に遊びながら、表現することを学ぶ。1人で没頭する人もいれば、同じ道具を選んだ人同士が集まって遊び方のアイデアを出し合う様子も。筆者は皿回しに挑戦するも、不器用で落としてばかりだったが、先にコツをつかんだ隣の参加者からのアドバイスのおかげで、見事成功!
自然とグループが生まれたり、相手の様子を気にかけて手を差し伸べたりできるのは、前半のワークで心の壁が取り払われ、参加者同士の距離が近くなっているからだろう。
ワークショップには知的障がいや発達障がいがある人も参加しており、スムーズに参加できる人もいれば、そうでない人も。最初は消極的だった人がだんだん場の空気に慣れ、スタッフの声かけもあって、後半はワークに参加する様子も見られた。それぞれが自分のペースで成長できる、そういうサポート体制があるのも、このワークショップの特筆すべき点だ。
最後は、全員のチームワークが試される!「ソレイユ」に挑戦
「ソレイユ」は、小さなボールを細いポールの上にのせることが最終目標で、全員のチームワークが試される。ボールは複数のひもで支えられており、そのひもを参加者全員が手に持ち、バランスを保ちながら移動させるのだ。ポールの上まで来てからは、こまかい調整がむずかしい。「もう少し左かも」「○○さんのほうへ少し移動させよう」など、自然と声があがる。どうやったらみんなで目標に到達できるか、それぞれが考え、提案しながら行動に移す。
このワークは想像以上に深い!学校のクラスや職場、いろいろな場面でチームワークが求められるが、そのときに必要となるのはコミュニケーションだ。みんな違う人間だから、バラバラで当たり前。そこを互いに理解し、相手に合わせたり、逆に歩み寄ってもらったり…。そういったコミュニケーションの基本を、これまでのいくつかのワークを通して体験できているから、みんなで力を合わせることができるのだ。
「ソレイユ」が終わったあとは、みんなすっかり打ち解けた様子。最初の自己紹介のときの緊張した空気とは違い、達成感もあいまって、にこやかな表情が多いのが印象的だった。
マイノリティの視点から社会課題の解決を目指す
そもそも、ソーシャルサーカスとは何か?その狙いは?このワークショップを主催する団体、NPO法人スローレーベルのパフォーミング・ディレクターでサーカスアーティストである金井ケイスケ氏に話を伺った。
「ソーシャルサーカスはヨーロッパで25年以上の歴史があり、サーカスメソッドで貧困や障がいなどの社会課題の解決を目ざす取り組みです。
サーカスはもともと、多様性のある人たちが集まる場所なんです。空中ブランコ、綱渡り、一輪車芸、アクロバットなど、演目は多岐に渡り、パフォーマーはやりたいことの選択の幅が広く、表現方法も自由。個人の芸だけでなく、みんなで協力し合って作り上げるパフォーマンスもあります。裏方の仕事もみんなでやるので、非常にソーシャルなところがあるんです。そういったサーカス文化を抽出したプログラムをベースに、多様性を認め合い、協調性、創造性を育むことを目的としているのが私たちが行う『SLOW CIRCUS SCHOOL』なのです」(金井氏)
「今はネットやSNSでいつでもコミュニケーションをとることができますが、人間のコミュニケーションはある意味、非常に原始的なもの。言葉だけでなく、体や感覚を使ってコミュニケーションをはかることは、ワークショップで大事にしていることの1つです。
また、障がいのある参加者の中には、直接触られることを嫌がる人も。サーカスの道具を介してのパフォーマンスは、そういう人にとって参加しやすく、真剣に遊びながらコミュニケーションがとれるのが利点です。
サーカスと同じで、集まる人の個性がバラバラだからこそ、ワークショップは面白く、そして実りあるものになります。みんなで同じことをやりますが、表現の仕方は違ってもいい。正解はないから自由でいいんです。多様な人々がワークショップで自己を自由に表現し、それを周りのメンバーに受け入れてもらう感覚を体験することは自信に繋がり、日々の生活でもプラスに働くと思います。百聞は一見にしかず。まずはワークショップを体験してみてもらいたいですね」(金井氏)
心の壁がなくなれば、違いは個性に見えてくる。いろいろな気づきがあるワークショップ
筆者が参加してみて感じたことは、とにかく体を使って表現することが多く、それが他者に心を開くことに繋がるということ。そして、頭では理解していたつもりの「多様性」という言葉が、よりシンプルに心の中に入ってきて少し世界が広がった。
障がいのある人もない人も、体を動かして同じワークを行う点ではスタートラインは同じ。その動きには少し違いはあったりするが、金井氏が語るように、それは表現の差。普段の生活でも、自分と他者の違う点を否定的にとらえるよりも、視点を変えて表現の差や個性と考えることができれば、相手とより良い関係が築けるだろう。
心の壁をとり払い、新しい価値観に出会えるワークショップ、あなたも一度体験してみてはいかがだろうか。
NPO法人スローレーベル
「SLOW CIRCUS SCHOOL」 https://www.slowlabel.info/
*ワークショップの案内や申し込みはHPから
16~35歳までの何らかの理由で社会に出ることが難しい人が対象だが、健常者も参加可能(応募者多数の場合は選考あり)
Text by Makiko Yasui(Parasapo Lab)
Photo by Miyuki Teraoka