2021ジャパンパラ陸上競技大会・高松を舞台に繰り広げられた“それぞれの勝負”
1991年の初開催以来、今回で第31回を迎える「World Para Athletics公認 2021ジャパンパラ陸上競技大会」が4月24日と25日の2日間、香川県高松市にある屋島レクザムフィールド(屋島競技場)で行われた。ジャパンパラ陸上競技大会は毎年実施されているが、昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止となったため、2年ぶりの開催。直前に無観客試合が発表されたものの、東京2020パラリンピック開幕のちょうど4ヵ月前とあって、有力選手たちの重要な実践の機会となった。
一方、まだ内定を手にしていない選手にとっては、東京パラリンピック出場に関わるハイパフォーマンス標準記録の突破や更新の「最後の勝負」だ。
また、日本パラ陸上競技連盟は東京パラリンピックからの新種目「4×100m ユニバーサルリレー」に注力しており、代表を手にしていない選手のうち、メンバー構成に不可欠とされる選手は日本代表に選出されることになるだろう。今回は、リレーメンバー候補の様子を中心にレポートしたい。
障がいの種類が異なる4名の選手がバトンではなくタッチで次の走者につなぐ。男女2名ずつでメンバーを構成。各カテゴリーで最も障がいの軽いクラスの選手は最大2名まで。走順ごとに該当クラスが決まっており、走第1走者は視覚障がい(T11、T12、T13)、第2走者は切断・機能障がい(T42、T43、T44、T46、T47、T61、T62、T63、T64)、第3走者は立位の脳性まひ(T35、T36、T37、T38)、第4走者は車いす(T33、T34、T51、T52、T53、T54)。男女の走順などチームによって異なる戦術も見どころ。
大島健吾~勢い止まらずシーズン2度目のアジア記録更新!~
自らのアジア記録を、わずか1ヵ月で塗り替えた。名古屋学院大3年の大島健吾は、3月27日に行われた「第119回日本体育大学陸上競技会」男子100m(T64)で11秒46をたたき出し、日本新記録とアジア新記録を樹立。それから1ヵ月も経たない今大会の初日、11秒37まで記録を伸ばし、東京パラリンピック代表入りに大きく前進した。さらに、2日目に行われた200mでも優勝し、圧倒的な存在感を見せた。
走るための体は高校時代のラグビー経験から培った。「相手をかわしたり、タックルしたりするとき、止まったところからトップスピードに乗る。それは、短距離走のスタートに生きているし、今後まだまだ生かせるポテンシャルはある」と大島。
「1位」にこだわり、負けず嫌い。今大会で3月まで日本記録・アジア記録保持者だった井谷俊介を抑えて2種目で勝利したものの、試合後は冷静だった。「勝てることはできたが、納得する走りではない。もっとT64クラスを盛り上げられる走りをしていきたい」と力強くコメントした。
日本パラ陸上競技連盟の指宿立強化委員長は、着実にタイムを縮める大島を“T64男子の次のステージを予感させてくれるスプリンター”と称賛。「大会のMVPを選ぶなら間違いなく彼。昨年から記録を伸ばし、ユニバーサルリレーの合宿でも非常に走れている印象だ」と大きな期待を寄せている。
井谷俊介~スプリントでの勝負は終わらない~
その大島に“日本最速”の称号を奪われた井谷は、100mで11秒66の好タイムを出したものの、大島に及ばず及ばず2位に。東京パラリンピックのハイパフォーマンスランキングも上げることができず。東京パラリンピック出場は厳しくなり、「ここで僕の夢は、チャレンジは終わってしまった」と打ちひしがれた。
悔しさを見せた一方、「やることはやった」という達成感ものぞかせた。大会2日目の200mは気持ちを切り替え、「足が痛かろうが肉離れしようが、最後まで走り切って楽しかったといえるレースができたらいい」と臨み、1位の大島と0.19秒差の24秒00でフィニッシュ。レースを振り返り、「スタートからの前傾や中盤までのトップスピードは、誰にも負けていなかった。すごくいいレースができた」と、順位とタイムよりもレースの内容で自身を評価した。
約3年前、すい星のごとく現れ、当初は東京パラリンピックまでと決めていた井谷の陸上競技人生。しかし現役続行宣言で、2024年のパリパラリンピック、そして2028年のロサンゼルスパラリンピックも視野に入れる。
花形T64クラス100mの国内の競争力を高めた井谷のこれからも楽しみでならない。
辻沙絵~久々の記録更新でアピール~
400m(T47)のレース後、リオパラリンピック銅メダルの辻沙絵は、とびきりの笑顔で喜んだ。58秒45のタイムは、自身の記録を約2年ぶりに更新する日本新。この笑顔は、3月の日本パラ陸上選手権で思うような結果が出せなかった反動と、東京パラリンピックでメダルを狙えるという彼女自身が感じた手ごたえの表れだったかもしれない。
「追い風で、前半の走りも風を生かしてスピードを上げていった。今日は調子が良かったので58秒50くらいを出したいと思っていたが、それよりも良いタイムで『やった!』という気持ち」と充実感をにじませる。
目を引いたのが辻の“錘”。右上肢欠損の辻はこれまで競技用義手を装着して走っていたが、今回は腕に160gの錘をはめて力走した。辻は、腕を振るときに腕から鎖骨にかけての筋肉を使うが、長い距離を走るとその部分がしびれて腕が振れないことがあった。そこで、周囲の助言を受け、義手から錘にチェンジ。「義手は空気抵抗が手の先にある感覚だったがそれがない。肘が後ろに引けている感じ」と感覚も良好のようだ。
高松佑圭~短距離走覇者のリレーへの期待膨らむ~
100m、200m、400mで日本記録を持つ高松佑圭(T38)は、今大会では200mと400mで優勝。
「200mの28秒97という記録はシーズン初戦としてはいい方。400mは、前半は追い風で気持ち良く走れたが、後半は向かい風でうまく走れなかった。課題は後半の伸びと、持久力」と、課題をしっかり分析した。
高松は、東京パラリンピックの出場権を争うランキングの当落線上にいるが、ユニバーサルリレーでは第3走者として期待されている一人。今大会もユニバーサルリレーを走り、「みんなで協力して、タッチをつないで、メダルを狙えるようなタイムを出しに行くのが、おもしろい競技だなと思う」とアピールした。
山路竣哉~今季ベストタイムで勢いに乗るか~
100mと200mの日本記録を持ち、高松と同じく、ユニバーサルリレー(第1走者・視覚障がい)の候補に挙がっているのが山路竣哉(T12)。今大会の100mでは、ハイパフォーマンスの11秒10を狙ったが、11秒43に終わり、目標タイムには届かなかった。
冬に負傷したケガの影響など不安も残るが、コンディションは悪くない。そして、何としても東京パラリンピックでのユニバーサルリレーメンバーに食い込みたい思いもある。今後を見据え、「100mに加えて、コーナーワークの練習をすれば、リレーでよりベストを尽くせる」と自信をのぞかせた。
メダル候補たちも好調アピール!
東京パラリンピック出場が内定している選手たちも出場し、大会を盛り上げた。メダル候補たちも、コロナ禍で記録を伸ばしており、本番に向けて期待を膨らませた。
text by TEAM A
photo by X-1