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ボート・市川友美がアジア・オセアニア大陸予選制し、東京パラリンピックへ
ボートの東京オリンピック・パラリンピック出場枠獲得がかかるアジア・オセアニア大陸予選が5月6日から7日にかけて本番と同じ海の森水上競技場で開催された。7日に行われたパラリンピック種目はPR1女子シングルスカル決勝で市川友美(湖猿RT)が一騎打ちの末、スリランカ選手に勝って1位になり、ボートの代表内定を一番乗りで決めた。
海外の4選手が出艇したPR1男子シングルスカルは、スリランカ選手が圧勝し、フィニッシュの瞬間、右こぶしを天に突き上げた。
自力でつかんだ初のパラリンピック切符
今年42歳になる市川はスタート直後からスリランカ選手を引き離し、リードしたまま2000mを必死に漕ぎ切った。タイムは、スリランカ選手に3分以上の差をつける12分51秒40。前日、行われた予備予選と比べても1分30秒近く速い。
この圧勝劇は、昨年から体幹を強化し続けたことで、漕ぎの幅が広がったことが大きい。以前は背中を反った状態のまま、体を後ろに飛ばして漕いでいたが、体幹が強くなったいまは、背中を丸めた状態で体を後ろに持っていけるようになり、水に力をより伝えられるようになった。
2019年の世界選手権では最下位の14位で、以来、「自分に足りないところを補うにはどうしたらいいか」という試行錯誤も重ねていた。
努力を続け、東京パラリンピック内定を勝ち取った市川は「2000mを漕がせてもらえるなら、今日は、昨日できなかったことをやろうと思っていました。昨日はけっこう曲がりましたが、今日はまっすぐに走れました」と笑顔で振り返った。
レース開催は危ぶまれていた
実は「漕がせてもらえるなら」という言葉に、ここまで市川が抱えてきた複雑な心境が示されている。レースが開催され、優勝すれば東京パラリンピック内定が決まる。しかし、対戦相手が来日できなければ、レースは成立せず、代表内定は持ち越しに。まず、対戦選手が来日できるかが、レース前の懸念事項だった。
ただ、この問題に関しては、その後、スリランカ選手の出場が決定することで無事に解決にいたる。しかし、スタートラインは整ったように思えたが、市川の苦境は続いた。
対戦する選手は、チーム関係者に新型コロナウイルスの陽性反応が出たため、予備予選を棄権し、レース直前まで、出艇できるか、危ぶまれる事態になった。だが、PCR検査でスリランカ選手の陰性が確認され、なんとか決勝は成立したという、心休まらない経緯があったのだ。
車いすで水辺へ!? ボートとの出会い
市川にとって、パラリンピック出場は初となる。2012年、ワーキングホリデー中に楽しんでいたスノーボード中の事故で、腰椎1番を破裂骨折。破裂した骨が脊髄を傷つけ、両下肢に障がいが残った。
ボート競技には、リオパラリンピックの直前に出会う。2016年、「東京でパラリンピックがあるなら」と東京都の選手発掘プログラムに応募し、様々なスポーツを体験。ボートに興味を持ったのは、「車いすでもできる」アウトドアスポーツだったからだ。
「車いすの人は、プールには行けても、(アウトドアの)水辺は無理だと思っていたので、おもしろさを感じました」
選手発掘プログラムで聞いた「練習が終わったあとのビールはうまいぞ!」という協会関係者の言葉にも惹かれたという。実際、練習会場に足を運ぶと、174㎝ある自身の恵まれた体格を生かせる可能性も感じ、ボート競技を始めることを決意した。
パラリンピックで「私は元気です」と伝えたい
2019年アジア選手権以来の今回のレースを終えると、あらためて課題も見つかった。スリランカ選手には圧勝だったが、12分30秒という目標タイムから約20秒遅れだった。
「同じペースで漕ぐという課題はクリアできなかった。一番速い人は10分台なので、直せるところはたくさんある。1秒でも速くなれるよう練習していく」
なお、3年前のインタビューで市川は、「パラリンピックの目標は金メダル」と強い思いをはっきりと口にしている。
「あまり人には言ったことがないのですが、こういう体になって、金メダルくらい獲らないとやってられないな、という気持ちがあります。人生プラス・マイナスを考えたとき、マイナスが多い気がするので……」
この言葉には、金メダルを獲れば「入院中や術後の私しか知らない人に、私はこんなに元気になったよ、と知らせることができるから」という思いがある。
そして、家族や友人を思いやる気持ちはいまも変わらない。レース後、東京パラリンピックに出場できる喜びをこう語った。
「今(コロナ禍の)こんな状況で、どうなるかわからないですけど、応援してくれる家族や友達に、頑張っている姿を見せられるのはやっぱりうれしいです」
30歳までは、夏は海辺、冬はスノーボード場で働き、サーフィン、スノーボードを通じて得た友人たちがいる。
大舞台に立てることが決まった市川は、支えてきたくれた人への感謝を胸に、残り約3ヵ月、トレーニングに励む。
【アジア・オセアニア大陸予選 リザルト】
PR1女子シングルスカル:
1位市川友美、2位 GOWINNAGE DONA Samitha Samanmalee(スリランカ)
PR1男子シングルスカル:
1位 JAYAKODI Mahesh(スリランカ)、2位 KHOLMUROD Egamberdiev(ウズベキスタン)、3位 KOMNUAN Pooyin(タイ)
text by TEAM A
photo by X-1