東京パラリンピック本番会場でシミュレーション! 男女車いすバスケットボール・有明特別強化試合

東京パラリンピック本番会場でシミュレーション! 男女車いすバスケットボール・有明特別強化試合
2021.05.14.FRI 公開

5月9日、東京2020パラリンピックの車いすバスケットボール会場の一つである有明アリーナ(江東区)に、車いすバスケットボールの男女日本代表候補が一堂に会し、「有明特別強化試合」が行われた。コロナ禍で公式戦の機会から遠ざかっている中、合宿などを通じて深めてきたそれぞれの戦術の理解度や遂行度を確認する貴重な機会となった。

【女子代表】高さ、スピード、フィジカルで勝る相手に課題を確認

女子日本代表候補は、男子クラブチームの千葉ホークスと男子強化指定3選手による混成チームと対戦した。コロナ禍の影響を受け、男子チームとの練習試合は3回目。身長の高さやスピード、フィジカルで差がある男子チームは、いわば“仮想・海外チーム”。コロナ禍で海外チームとの実戦が積めない中、この貴重な機会にこれまで積み重ねてきた成果を発揮しようというモチベーションの高さが、試合前の練習からも伝わってきた。

試合前の練習から声をかけ合い、ほどよい緊張感で試合に臨んだ女子日本代表候補

試合に入ると、身長差のある男子選手相手にまったくひるまず、果敢に車いすを寄せてシュートブロックをしたり、スクリーンとなって相手の動きを封じたりと、文字通り、体を張ったプレーが目を引いた。とくに5月の合宿から藤井郁美(4.0 ※この日は家庭の事情により欠場)とともに共同キャプテンに就任した網本麻里(4.5)は、持ち味のスピードを武器に、ドリブルで男子選手2人に競り勝つ場面もあるなど、チームをけん引。手ごたえも感じたようで、「とくに前半は流れが良かった。ディフェンスからのトランジションで走ってシュートに行けたのは収穫」と充実した表情で語った。

一方で、シュートチャンスがありながらも、なかなか得点に結びつかなかったり、パスミスやリバウンドを取り切れないシーンも散見された。それでも第2ピリオドまでは1~3点差で食らいついていたのだが、第3ピリオド以降は明らかにトランジションが遅れ、簡単にシュートを許して点差が拡大。試合終了のブザーが鳴ったときには、45対64と19点の差がついていた。

「普段の合宿から強度を上げてやっていかないといけない」と振り返る北田

チームで最も身長が高い“ビッグマン”の北田千尋(4.5)は、「あそこまでコンタクトされたり、大きい相手にディフェンスされる機会がなかった」ことが敗戦の一因と分析する。「(選手同士の)目は合っているが、パスが短くなったり、相手の手が出てくるところにパスをしたりしてしまった。私のところで(相手の)ビッグマンに簡単にやられてしまうとディフェンスが崩壊してしまうので、責任をもって40分間安定してディフェンスし続けなければいけないのだが、今日はそれができなかった」と反省の弁。

岩佐義明ヘッドコーチも、「フィニッシュの精度は以前からの課題。今日も試合の入りが悪く、最初に一つ、二つ、シュートが決まっていれば、その後の展開も違っていたかもしれない。練習ではシュートの精度は上がっているが、本番さながらのゲームではその確率が落ちてしまう。成功率をあと10%は上げていかないと、勝ちゲームにはならない」と課題を挙げる。

「10点差以内に収めたかったが、修正点は見つかったので、もう一度しっかりとチームを作っていきたい」と前を向く岩佐ヘッドコーチ

改めて課題を確認する機会となったわけだが、収穫もあった。

「ベンチスタートの選手たちがコートでしっかり自分のバスケをしていたのはよかった。また、ボールを奪取後、相手をカットしながら休まずに攻めるアーリーオフェンスがチームに浸透し、ゲームでも実践してくれたことに手ごたえを感じている。本番へ向けて、男子の胸を借りてゲーム勘を養いながら、チームを作っていきたい」(岩佐ヘッドコーチ)と、力強く語った。

【男子代表】若手とベテランが相乗効果で成長

男子は、日本代表候補20名をチームホワイトとチームブラックの2つに分け、紅白戦を行った。
チームホワイトには鳥海連志(2.5)や古澤拓也(3.0)が、チームブラックには藤本怜央(4.5)、豊島英(2.0)、村上直広(4.0)がそれぞれ配されるなど、戦力を均等に分けていただけに、緊張感あふれる展開が予想された。実際、ゲーム開始1分で両チームが得点。以後もお互いにスピーディなパスや、コートをクロスする正確なロングパスなどからシュートチャンスを作り出していた。とはいえ、双方とも素早いトランジションからの堅いディフェンスに阻まれ、なかなか点数は伸びず、第1ピリオドは14対13、第2ピリオドは7対6と、それぞれ1点差で前半を折り返す。

「本番でハイレベルな試合や選手に対応できるよう、紅白戦でしっかりと(目の前にいる)選手に対応していくことを心がけたい」と、本番を見据える鳥海

ゲームが動いたのは、第3ピリオドだ。チームブラックの藤本が、「タッチは良かったがリングの固さに慣れておらず、シュートが嫌われていた」という前半の反省を踏まえ、3ポイントシュートを打ち始めた。

「自分のシュートフォームとリングが合うところが、今日はたまたま3ポイントシュートだった。行けるところまで押していこうと、3ポイントシュートを軸にゲームを組み立てた」という通り、第3ピリオド全体を通して3ポイントシュートが面白いように入った結果、13対22と、チームブラックが9点リードする展開となった。

しかし、点差をつけられたチームホワイトもそのままでは終わらない。前半、なかなかシュートが決まらず京谷和幸ヘッドコーチから「修正するように」と言われたという古澤が、鳥海と連携しながら相手のブロックを崩したり、攻撃の起点となる動きをすることで猛追。チームブラックも途中、司令塔の豊島を投入したものの、メンバー同士のプレーの相性もあるのか、ちぐはぐ感が否めず、挽回には至らない。結果、第4ピリオドは19対13でチームホワイトに軍配が上がり、トータルでは53対54でチームブラックの勝利となった。

「本番でのフリースローの確率を本番までにきっちり上げていきたい」と、京谷ヘッドコーチは課題を挙げた

京谷ヘッドコーチは今回の試合の出来を「100点満点中80点ぐらい」と評価。「常に世界基準のプレーを選手たちに求めている。ボールを持ってからフィニッシュに行くまでのオフェンスでの創造力が格段に上がってきている。走力、スピードとスタミナがついてきている若い選手たちに引っ張られるように、ベテラン選手たちも走るようになっていて、相乗効果が生まれている。チームとして非常にいい方向に向いている」と、充実した表情で語った。

「苦しいときも踏ん張れるようなリーダーシップをとっていく」と誓う大黒柱の藤本はスリーポイントを量産した

また、藤本も「速いトランジションのインパクトあるバスケットを遂行していくためのチーム作りができている」と、海外でプレーできないからこそ、チームの完成度を上げることに集中できていると語る。

「課題は得点力」と語るのは豊島だ。

「ディフェンスの強化という点では、いいプレッシャーをかけられていた。ただ、プレッシャーがある中で得点を決めるというところが課題。第2ピリオドではその課題が明確に出た」(豊島)

今後も紅白戦が続く中、本番までにいかに課題を修正していくかが問われることとなる。

最終的には12名+バックアップメンバー5名の計17名でメダル獲得を目指す

男女ともに東京パラリンピック・予選リーグの組み合わせが12日に発表され、男子はリオ大会銀メダルのスペイン、カナダ、韓国、トルコ、コロンビアと、女子は、リオ大会銀メダルのドイツ、カナダ、オーストラリア、イギリスと、それぞれ同組となった。これを受け、男子日本代表の京谷ヘッドコーチは「日本のスピードとクイックネスという部分が上手くかみ合う相手」とコメント。メダル獲得という目標に向け、好スタートが期待できそうだ。

東京パラリンピックが行われる会場で試合ができたことは、男女ともによい経験となったと口をそろえており、気合も十分。あとはぶっつけ本番になりそうな海外勢との対戦にどう挑むか。残された日々でさらなる成長を遂げた姿を、再び有明アリーナで見られるのを楽しみに待ちたい。

東京パラリンピック会場の有明アリーナ。床やゴールリングの感触、照明の明るさ、建物全体の構造などを確認できたことは、本番に向けてプラスになる

■女子・網本麻里キャプテン コメント
「メインコートで照明やリングや床の感触などが体験でき、貴重な経験となった。チームとして、ウォーミングアップが始まる前の準備段階からシミュレーションができたのもよかった。(東京パラリンピックに向けて)流れが悪くなった時間をどれだけ短くできるか、いい時間帯をどれだけ長くできるかを、チームでより意識していきたい。 (藤井郁美との共同キャプテンとなったが)役割が大きく変わることはないし、自分を含めてチームがよりよくなるために必要なことだと思っているので、しっかりチームを作っていきたい」

■男子・豊島英キャプテン コメント
「日本代表候補として久しぶりに車いすバスケットボールを発信できたこと、僕たちのトランジションバスケを見ていただけたことがうれしい。コロナ禍の中でも少しずつ成長し、チームを作ってきたということを、皆さまにお届けできたと思う。チームのスタイルはずいぶん前から確立されていて、僕たち選手がそれをどう遂行するかが求められている。まだまだ課題はあるが、成長している。海外の相手を想定したうえで、引き続きトレーニングを積んでいきたい」

男子代表を率いるキャプテンの豊島(右から3人目)

※カッコ内の英数字は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。

【有明特別強化試合 リザルト】

女子日本代表候補 ●45―64〇 千葉ホークス(混成チーム)

女子日本代表候補
北間優衣、財満いずみ、萩野真世、安尾笑、柳本あまね、小田島理恵、平井美喜、清水千浪、藤井郁美(家庭の事情により欠場)、土田真由美、北田千尋、網本麻里
千葉ホークス
徳丸熈、田中恒一、池田紘平、大舘秀雄/2021年度男子強化指定選手、添田智恵、村上慶太、斉藤貴大/2021年度男子強化指定選手、宮本涼平/2021年度男子強化指定選手

男子紅白戦:チームホワイト ●53―54〇 チームブラック

チームホワイト
緋田高大、宮本涼平、斉藤貴大、藤澤潔鳥海連志古澤拓也、秋田啓、宮島徹也、土子大輔、大舘秀雄
チームブラック
岩井孝義、川原凜、豊島英、赤石竜我、竹内厚志、香西宏昭、篠田匡世、村上直広、髙柗義伸、藤本怜央

text by TEAM A
photo by JWBF/X-1

東京パラリンピック本番会場でシミュレーション! 男女車いすバスケットボール・有明特別強化試合

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