7月23日に東京2020オリンピック、8月24日には東京2020パラリンピックが開幕する。大会期間中、世界各国のトップアスリートたちが生活の拠点とする場所が「選手村」だ。大舞台に向かう選手たちの衣食住を支える、選手村とはいったいどんなところなのだろうか。
今回は、そんなベールに包まれた選手村をパラリンピックの選手村副村長で車いすバスケットボール元日本代表の根木慎志さんの解説とともに紹介したい。
※この記事は、6月20日に行われたメディア向け内覧会を取材して制作しています。
いざ、選手村探訪開始!
東京2020大会の選手村は、三方を海に囲まれた風通しの良い立地にある。敷地面積はなんと約44ヘクタール(東京ドーム約9個分)。主な施設は次の通りだ。
①居住ゾーン
選手団が生活するエリア(居住棟、メインダイニングホール、フィットネスセンターなど)
②ビレッジプラザ
選手の生活を支えるサービスが用意されたエリア(雑貨店、銀行、ウェア・シューズのリペアセンターなど)
③運営ゾーン
運営に関わる機能が集約されたエリア
まずは、居住ゾーンから歩いてみよう。
選手村の敷地内に一歩立ち入ると、まるでひとつの街のような光景が広がる。
オリンピック、パラリンピックの選手たちが使用する居住棟のベランダには、自分たちの国旗を掲げる文化があります。拠点の目印になるというメリットもあるみたいです。東京2020大会の選手たちが入村すると居住棟の外観はよりいっそう賑やかになりそうですね。(根木慎志副村長、以下同)
選手の胃袋を満たすダイニング
居住ゾーンの中で最初にやってきたのが「メインダイニングホール」。2階建ての施設内にオリンピック時は3,000席が用意される。居住棟1階やホール入口にあるモニター、専用アプリで混雑状況を事前に確認ができる。
選手村のメインダイニングホールで使用されているカトラリーは新潟の燕市で作られたもので、柄の部分に桜の模様があしらわれています。金属加工の町として知られる燕市の世界最高水準のカトラリーが世界中のトップアスリートたちに使われると思うと、とても誇らしいですね。
最高のコンディションをキープするためのフィットネスセンター
選手村にあるフィットネスセンターは、筋肉を鍛えるためというよりは、コンディション調整を目的としたランニングマシンやバイクといった有酸素系の機材が充実。ストレッチやヨガができるコンディショニングエリアも広く設けられている。
フィットネスセンターにはこの他にもハンドサイクルなど、車いすユーザーが使用できる機材も充実しています。また、複合施設内に設置された、サイバーボッチャは選手たちの息抜きにも一役買いそうですね。これはオリンピック選手、パラリンピック選手問わず人気がでるのではないでしょうか。
選手村を巡回する「近未来型バス」に注目
選手村を歩いているとバス停が目に留まる。バス停は村内9箇所に設置されており、巡回バスが24時間運行する。村内巡回バスには、自動運転の大型電気自動車が採用されている。オペレーターを含む20名が乗車可能。車いすユーザーの場合は4名が車いすに乗ったまま乗車可能だという。
村内巡回バスは、広い選手村内の移動に欠かせません。移動の際、選手たちが暑さをしのげる点も良いですね。私が参加した2000年のシドニー大会の選手村では乗り降りがスムーズになるよう、自動で車高が低くなるノンステップバスが採用されていました。
トップアスリートたちの居住棟に潜入!
居住ゾーンのラストは、各国選手団が使用する居住棟の内部をご紹介。
ベッドで使用されているマットレスは、両面の固さが異なる3つのパーツを組み合わせたものになっています。選手は自由に裏表や位置を入れ替えることができるので、体形や好みに合わせカスタマイズすることが可能です。居住棟は選手たちがトレーニングや競技の時間以外のほとんどを過ごす重要な場所。ここでの過ごし方が勝敗を決めるといっても過言ではありません。休養、集中、リラックス、各々が自分の時間を快適に過ごせるように、いたるところに工夫がされているんです。
生活を支える選手村ビレッジプラザ
次に、居住ゾーンと隣接するビレッジプラザを歩いてみよう。
大会期間中、選手の生活を支えるビレッジプラザでは、雑貨店やカフェ、郵便局、ATMなど、選手たちのニーズに応えてさまざまなサービスが提供される。
ビレッジプラザ内には、東京2020大会オフィシャルショップもあり、ここでお土産を購入する選手も多くいるんですよ。また、パラリンピック期間には、選手が競技で使用する義肢や装具、車いすなどあらゆる用具の修理サービスセンターも開設されます。これは選手にとって大変心強いサービスです。過去大会ではメガネを直してとリクエストした選手もいたと聞きます
平和への願い「休戦ムラ―ル」
もう一つ、選手村の中には必ず覚えておきたいスポットがある。それが「休戦ムラ―ル(壁)」だ。
スポーツの持つ力で紛争のない世界の実現を目指す「オリンピック休戦」という活動の一環で、2004年のアテネ大会時に初めて設置された。この壁にサインをすることで活動への賛同を表明することができる。
東京2020大会においても、この「休戦ムラ―ル」が選手村内に設置される予定だ。大会の日程が進むにつれて、世界中のアスリートの平和への想いが、この壁に埋め尽くされていくことだろう。
オリンピック、パラリンピックの選手村では、性別、人種、宗教、価値観から食事の好みまで、多様性に満ちた人々が生活します。コロナ禍のため、これまでの大会のように選手同士が交流することは難しいかもしれませんが、本来であれば世界中の人と友好を深めることができる場所です。そこはある意味、小さな地球であり、最も平和でインクルーシブな街といえるかもしれません。
もう間もなく幕を開ける東京2020大会。競技場で見せるアスリートの華やかな姿の裏にある選手村での生活を想像してみると、また違った楽しみ方があるかもしれない。
text by Parasapo
photo by Haruo Wanibe