水泳・荻原虎太郎、世界の強豪と再会し、予選敗退も興奮隠せず

水泳・荻原虎太郎、世界の強豪と再会し、予選敗退も興奮隠せず
2021.08.26.THU 公開

レースに負けたが、楽しさが勝ちすぎて笑っていた。

東京2020パラリンピックは25日に競技を開始し、水泳荻原虎太郎は男子100m自由形(S8/運動機能障がい)の予選に出場。第3組の第6レーンで泳いで1分1秒59の同組5位。全体13位で決勝進出は逃した。

感性豊かな18歳

自己ベストに0.5秒及ばなかったが、次の種目につながる良い泳ぎだった。本人の手ごたえも、まずまず良いという感触と、自己ベストを切りたかった悔しさが混ざっていた。

男子100m自由形に出場した荻原虎太郎

「1分1秒59は、僕のベストプラス0.5秒というタイム。初めてのパラリンピック、初めてのレース、1日目のレースにしては、良い流れではあったのかなと思います。ベストを出したかったというのが本音ですけどね。(プラス)0.5秒で収まってしまったところが、ハハ、僕の弱いところになってしまうんですけど」

少し早口で話しながら、もう笑っていた。18歳の若者らしく感受性が高く、レースで味わった興奮が止まらない様子が、ビシビシと伝わってくる。何しろ、同じクラスの選手と思い切りレースをできる機会がそもそも少ない。荻原にとっては、初めて日本代表として出場したインドネシア2018アジアパラ競技大会以来の国際レースだが、今度は初めて臨む世界最高峰の舞台。レースで息が切れているのに、早口で喋り、ハァハァと呼吸を整えながら、その嬉しさを口にすると、しかし「迫力に飲まれたというのは、ありますね」と話した。

一体、どんなところに迫力を感じたのか。世界トップの選手たちのすごみを肌身で感じることができたレースだった。

「隣の選手が、アジアパラのバタフライできん差で負けた相手で、そのときに、東京大会で会おうと言ってくれたんです。だから、(プールに)入ってくるときもグータッチして(互いに)頑張ろう、みたいな感じで来たんですけど、やっぱり飲まれましたね。経験の差になるんですかね。すごく世界選手権とかにも出ている選手なので」

隣の第5レーンを泳いでいたのは、楊光龍(中国)。リオパラリンピックで100mバタフライの銅メダリストになっている世界の強豪だ。今回の100m自由形でも、荻原と同じ予選3組で2位となる1分00秒40をマークし、全体7位で決勝に進出し、実力を見せつけた。前半50mのターンでは、29秒94で5位。荻原は29秒95の6位でほとんど並んでいた。ところが、楊は後半にペースアップ。荻原は、あっという間に置き去りにされた。

「ターンのときに並んでいて、押し勝ちたい! という気持ちはたくさんあったんですけど、向こうの技術力が僕よりも上回っていたので、すごい差を感じました。この差は、とんでもないです。アハハ。普通の努力じゃ、もう詰められないです、これは。強い!」

男子100m自由形に出場した荻原虎太郎

世界の強豪と泳いだ初パラリンピック

驚きと興奮が隠せない。荻原にとって、この大会がどれだけ刺激的なのかが、よく分かる。無観客だということが気にならないくらい、同クラスの世界の強豪と泳げることが楽しくて仕方がない。しかし、刺激を受ければ、闘志も湧いてくる。

「テレビで見てくれている人も、僕の周りにはたくさんいて。(知り合いの)僕が出るから、普段は見ないパラリンピックを見ようと思いますという声が多く寄せられて、すごくうれしかったんですけど、やっぱり見ている人に『決勝、残らねぇかー』という思いを与えてしまったのがすごく残念。決勝に残るか残らないかで、見ている人に何を与えるかは大きく差があると思う。自己ベストならリザーブには残れた。弱さが出ているというのは、感じている」

このコメントの後半部分だけは、笑いが消えて悔しさが沸き立っているようだった。荻原は、100mバタフライ、200m個人メドレーにも出場予定。初日の刺激と経験が、彼のポテンシャルを存分に引き出してくれるに違いない。

edited by TEAM A
text by Takaya Hirano
photo by Takashi Okui

水泳・荻原虎太郎、世界の強豪と再会し、予選敗退も興奮隠せず

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