東京パラ閉会式で表彰された学校をアスリートがオンライン訪問! I’mPOSSIBLE アワード交流プログラム

東京パラ閉会式で表彰された学校をアスリートがオンライン訪問! I’mPOSSIBLE アワード交流プログラム
2021.12.03.FRI 公開

東京2020パラリンピック競技大会の閉会式。こんなシーンがあったのをご存じだろうか。I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル)アワードを受賞した学校の代表者らがステージに上がり、選手・関係者やテレビ画面の向こう側へ手を振った。

パラリンピックムーブメントを通して、インクルーシブな世界の実現に多大な功績を収めた学校とパラリンピアンに贈られるI’mPOSSIBLE アワード。日本では、2017年から2020年にかけて国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版が全国の学校に無償配布され、多くの学校が共生社会に向けた学びに取り組んできた。日本の学校2校が表彰された閉会式は、これまでの日本のパラリンピック教育が結実した記念碑的瞬間だったといえる。

10月から11月に、受賞校2校(開催国最優秀賞の木更津市立清見台小学校、開催国特別賞の千葉県立東金特別支援学校)でオンライン学校訪問プログラムが行われ、同賞を受賞したパラリンピアンと交流した。その様子をレポートする。

開催国最優秀賞
木更津市立清見台小学校

『I’mPOSSIBLE』を活用して共生社会の実現に向け最も優れた取り組みを行った日本の学校
開催国特別賞
千葉県立東金特別支援学校

『I’mPOSSIBLE』から学んだことを地域コミュニティ固有の課題解決に活かし、優れた取り組みを行った日本の学校

ポーランドのロゴヴィエツさんとオンラインで交流!

清見台小学校の6年生と交流したカタジナ・ロゴヴィエツさん

「両腕がなくて大変だったことはありますか?」「文字を書くことは大変でしたが、器具を使って固定したらきれいに書けるようになりました」

木更津市立清見台小学校。体育館に集まった6年生は、プロジェクター越しにパラリンピアンに質問をぶつける。学校訪問プログラムを通じて交流した子どもたちとパラリンピアンは、パラリンピックや競技について学ぶクイズなどで盛り上がった。

熱心に話を聞き、メモを取る清見台小学校の6年生

子どもたちが交流したのはポーランドのカタジナ・ロゴヴィエツさん。クロスカントリースキーで冬季パラリンピックの金メダルを2つ獲得している。

ロゴヴィエツさんは3歳のときに両腕を切断。自身は当時のことを覚えておらず、両親に草刈り機に両手を巻き込まれた事故だったと聞いた。

「みんなが想像するほど、大変ではありませんでした。私が生まれ育ったのは小さな街です。顔見知りばかりだったので、両手がなくとも友だちが助けてくれました。ただ、高校生になり、少し離れた高校に通うようになると、『他の人と違う』ということで悲しい思いをしたこともあります。世の中には、眼鏡をかけている人もいれば背が低い人もいるし、いろんな人がいる。それがわかるまで、少し時間がかかりました」

クイズをしながら選手やパラスポーツについて楽しく学んだ

クロスカントリースキーに取り組むようになったのは、ウィンタースポーツ経験のある父親の影響だという。ロゴヴィエツさんはストックを使わず、足に履いたスキー板だけで滑り、世界で活躍する選手になった。そんなロゴヴィエツさんの自己紹介を、驚きに満ちたまなざしで聞き入る児童もいた。画面越しの交流ではあったが、素直な関心を寄せる子どもたちに、パラリンピアンの持つ強い意志は確かに届いたことだろう。

清見台小学校に掲げられた開催国最優秀賞のバナー

「スポーツは大きな可能性とたくさんのチャンス、そして感動を与えてくれるものだと感じている」とロゴヴィエツさん。この日は、一緒にストレッチをする時間も設けられ、徐々に緊張がほぐれていったのか、子どもたちの笑顔が増えていった。「オリパラ推進隊」の児童が出題する○×クイズのコーナーでは、東京パラリンピックやロゴヴィエツさんの住むポーランドに関する質問のほか、北京2022冬季パラリンピックについての出題も。にぎやかに楽しみながら、約1時間に渡るプログラムを終えた。

数年に渡ってパラリンピック教育に取り組んできた同校も、この授業でひとつの節目を迎えた。菅野元治教諭は「コロナ禍でパラスポーツ体験が難しかったからこそ、授業をどう展開しようか僕自身考え、工夫した」と感慨深げに振り返る。「パラリンピック教育は、社会を変える可能性を秘めている。誰もが活躍できる社会をつくる基盤になると思う」と力強く語った。

ザンビアのカトンゴさんと一緒にダンス!

千葉県立東金特別支援学校のゲストは、陸上競技(視覚障がいクラス)で2度パラリンピックに出場したラッサム・カトンゴさんが務めた。

カトンゴさんが暮らすザンビアはアフリカの南部に位置する国。「学校訪問」が行われた日本時間の13時は現地の朝6時ということもあり、「グッドモーニング!」というカトンゴさんの元気な声でプログラムは始まった。

ザンビアからオンラインで登壇したラッサム・カトンゴさん

小学部から高等部までの約140人が各教室からオンラインで参加。はじめに、生徒会長の市東隼人さんが英語で歓迎の言葉を述べたあと、パラスポーツ推進隊として活動する司会の高橋里美さん進行のもと、クイズコーナーがスタート。陸上選手として練習をしながら、地元の中学校で教鞭を執るカトンゴさんについて知ろうという企画で、設問は生徒たちから募集したという。「小さい頃の夢は?」などの質問に、各クラスの代表者が意見をまとめ、カメラ越しに答えの札を挙げていく。カトンゴさんが話す英語とその後に訳される日本語訳を懸命に聞く生徒たちの姿も印象的だった。

生徒たちはカメラ越しでプログラムに参加。各クラスで「ラッサムクイズ」の回答を決める
「大人になったらザンビアに行ってみたい」と話した高等部の市東さん

学校の先生になる夢をかなえたカトンゴさんは、「子どもたちと過ごす時間が好き。自分の知識や経験を伝えていきたいと同時に、地域には学校に通っておらず、恐怖や困難の中で過ごしている子どもたちもいるが、そんな子どもたちと交流する時間を大切にしたいと思った」と熱っぽく語った。

クイズの後は、カトンゴさんがザンビアの伝統的なダンスを披露。生徒たちも立ち上がってカメラ越しに振付けを真似て踊り、思い思いに体を動かした。

音楽に合わせて一緒にダンス! オンラインでつながり、盛り上がった

この日のダンスは、何かを達成するための“心のドア”を開けるカギを表した踊りだと紹介するカトンゴ選手。
「一人ひとりがいろんな可能性を秘めています。スポーツだったら目標を決めて努力を続ければパラリンピックに出られるかもしれません。もちろんスポーツでなくても皆さんが好きなことを目標にしてがんばって続ければきっと目標は叶いますよ。大事なのは、やりたいことを決めて努力を続けることです」
そんなカトンゴさんのメッセージで学校訪問プログラムは締めくくられた。

東金特別支援学校は、I’mPOSSIBLE アワード受賞を記念して横断幕を作成。校舎に掲げられている

古川文彦教諭は、「パラアスリートの出前授業などを通じて、これからもパラリンピック教育を続けていきたい」と今後を見据えていた。

パラサポWEB編集部が訪れた2校はそれぞれ構内の掲示板にパラリンピックやパラアスリートの写真が掲示され、パラスポーツが身近にあることが感じられた。国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版を通じて全国の多くの子どもたちが東京パラリンピックに関心を持ち、テレビで応援してくれたに違いない。数年後、社会に巣立っていく子どもたちがこの経験をどのように語り継いでくれるのか。東京パラリンピックが子どもたちに残した学びは、無形のレガシーとして未来で花開いてくれることだろう。

edited by TEAM A
key visual by Takashi Okui

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