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車いすバスケットボール
藤本怜央・車いすバスケットボール‟不動のセンター” 「追い求めるのは東京パラリンピックのメダル」
男子日本代表のキャプテンとして臨んだ2016年のリオパラリンピックは、ロンドンに続き9位。日本の大黒柱・藤本怜央は、屈強な選手が集まるドイツリーグで実戦を積むなど、常に世界トップレベルを意識してバスケットボールに打ち込んできた。リオで上位に食い込めなかった現実に直面しつつも、「東京では金メダルを獲らなきゃダメ」と、その言葉に迷いはない。集大成と位置づける東京パラリンピックに向けてどのような思いでいるのか。その心境に迫った。
東京に向けて活性化する日本代表チーム
「緊張しました。久しぶりの日本代表で、自分がチームについていけるかな、と思っていましたから」
意外だった。ロンドンパラリンピックでも、リオパラリンピックでも、誰もが認める日本の大黒柱としてコート内で存在感を放ってきた。そんな藤本が不安を口にしたからだ。3月のオランダ・ベルギー遠征で5ヵ月ぶりに代表の一員として試合に出場した藤本は、その一方で、チームが強くなっているという手ごたえを感じていた。
藤本 怜央(以下、藤本) リオパラリンピック後、東京に向けてチームは急激に変化しています。はっきり言って、これまでの代表と、今の代表は別物。自分がキャプテンをしていたころの日本代表は、もう古いとさえ感じます。今のチームは、すごくアグレッシブだし、若手も含めて集中力も高い。そんななかに自分が入るのは、もちろん楽しみもあったけれど、うまくいかなかったらやべぇなという不安が大きかった。もちろんずっと代表としてやってきたし、「たった数ヵ月のブランクで?」って思うかもしれないけど、僕がポッと入ったときに、気迫のある日本代表のプレーを引っ張らないようにしなくてはと身が引き締まりましたね。
遠征も後半になると、自分のテンポがチームのレベルとかみ合うようになり、次第に不安は消えていきました。僕はベテランと呼ばれる立場になりましたが、若くチャレンジ精神あふれる選手たちにいい刺激をもらっています。チームのキーマンとなる選手たちと、うまくコミュニケーションを取りながら、たとえば試合の重要なポイントを意見交換して作り上げていく。いまの代表の中で自分がどうなるか、すごく見どころだと感じています。
東京パラリンピックへの覚悟と決断
その5ヵ月前の11月、藤本は右ひじを手術した。近年この時期はドイツに渡り、心身を苛め抜いていたが、昨シーズンはひじの状態をよくすることを選択。長きにわたり日本の得点を稼いできたひじはすでにシュート時に痛みを生じるようになっていたのだ。「大きな決断だった」と本人が振り返る手術。その裏には、2020年の東京パラリンピックという明確な目標があった。
藤本 最初は、プッシュの動作も、ひじの曲げ伸ばしもまともにできないどころか、車いすにも乗れませんでした(※右足切断の藤本は普段は義足で生活をしている)。だから、手術後すぐに競技復帰とはならなかったです。当然、筋力も落ちて、体のいろんな変化もあったりして。いざ車いすに乗り始めるときは、腕に負担のかからないようにトレーナーと相談しながら体づくりから進めました。
でも、手術はこのタイミングしかなかったと思うんですよね。ひじは2年前くらいからよくなかったんですけど、壊れてきてしまった状態を引きずったまま2020年の東京に向かいたくはなかった。なぜって、2020年のパラリンピックに出て、メダルを獲るって決めたので。東京パラリンピックの次の2024年については考えることができないくらい、追い込んで、2020年を迎えたいと思っていますから。
手術とリハビリを経て復帰し、“残る2年”でさらなるレベルアップを誓った藤本は、東京パラリンピックを迎えるとき、36歳になっている。世界の舞台ではタフなプレーが求められるなかで、肉体の衰えを感じていると打ち明ける。
藤本 手術後に、体を見直したおかげで腹筋を使って車いすを動かすようになったので、以前のように腕だけに疲労が残るのではなく、うまく負担を分散できているようになったと感じています。それでも、年齢による疲労はごまかせないですね。
20代のころと比べて“戦うための準備の時間”にこだわるようになりました。場所や試合の時間によっても変わりますが、遅くても2時間前には体を動かさないと試合に間に合わない。朝にコーヒーを飲み、筋トレをして……というルーティーンで体をオンの状態に持っていき、精神的にも試合に向かって準備をします。この準備の時間がすごくかかるようになっている。それがものすごくしんどいんですけど、日本代表の一員としてプレーで応えるために、万全の準備をしようと思えるうちは、まだまだ現役としてできるってことだと思います。
藤本が以前より「集大成」と話してきた東京パラリンピック。その前にある最後の世界一決定戦が今年8月、ドイツのハンブルグで開催される。ベスト4を目指すチームにとって藤本の果たすべき役割は大きい。
藤本 東京の目標は変わることなく、メダル獲得です。その目標を達成するためにも、世界選手権はベスト4以上の成績を残したい。ヨーロッパの強豪にも負けてはいるが、圧倒されているわけではないし、全体的にスピードアップして、自分たちの戦略を30分、40分と継続できれば、これまでにない強い日本を経験できると思います。そして、残りの2年、日本が強国からマークされて分析されるような位置まで持っていきたいです。
東京パラリンピックは、僕の集大成になることは間違いありません。「4年間どう準備してきたか?」と問われたときに、これまでの大会とは違って、なにか明確に答えられるようにしたい。残り2年走り切って、目標にしているメダルを獲り、それを家族の胸にかける……イメージはできているし、目標がブレることはありません。
また、8月に世界選手権が開催されるハンブルグには特別な思いがあります。(海外武者修行のために)過去3シーズン、プレーしたクラブチーム「ハンブルガーSV」の拠点がある場所だからです。体格が小さいと言われながらも、「ハンブルガーSV」の大黒柱としてやってきた誇りもある。ドイツの皆さんに、日本のセンターとして活躍する僕の成長を見てもらいたいですね。
アテネ、北京、ロンドン、リオ。4度のパラリンピックを経てベテランの域に達した。その藤本が追い求めるのは、パラリンピックのメダルという“結果”だ。自国開催の東京という大舞台で、長年、日本のエースの称号を背負ってきた藤本は、どんな力強さを見せるのか。変貌を遂げる日本チームの戦いぶりとともに注目し続けたい。
text by Asuka Senaga
photo by X-1