車いすバスケットボール天皇杯で見た選手たちの現在地
5月19日から20日にかけて、武蔵野の森総合スポーツプラザで「天皇杯第46回日本車いすバスケットボール選手権大会」が開催された。この武蔵野の森総合スポーツプラザは、2020年東京パラリンピックの車いすバスケットボール本番会場予定地。クラブチーム日本一を決める日本選手権も、今大会から出場チーム数を絞り、よりハイレベルなチームによる対戦を実現。障がい者スポーツ界初の天皇杯をかけた決勝は、延長戦になる好ゲームで6,000人の観客が固唾をのんで見守った。大会は宮城MAX(東北)が88-78でNO EXCUSE(東京)を下し、前人未到の10連覇を飾った。
ナンバーワンの座は譲らない~宮城MAX・藤本
10連覇という偉業達成の瞬間も涙はなかった。宮城MAXのエースで日本代表の大黒柱でもある藤本怜央(4.5)は、大会初日から「(試合後、報道陣が待つ)ミックスゾーンで負けたときのコメントをイメージした」というほど不安だったという。昨年11月に右ひじを手術し、この選手権を「東京パラリンピックのスタート地点」と位置づけていた。
そんななか、チームは順調に駒を進め、決勝では新しく加入した土子大輔(4.0)とともに、2人のビッグマンを活かした戦術を展開。藤本もインサイドなどからシュートを放つが、得点にならない場面も多く、時折、不調の理由を自らに問うかのように首をかしげていた。試合後、本人は「実力がないということ」と振り返り、言い訳はしなかった。
前回大会MVPでもあり、圧倒的な得点力を誇る藤本。そのシュート力は爆発しなかったが、年々進化する宮城MAXはいまや”藤本だけのチーム”ではない。言い換えれば、それが現在の宮城MAXの強さだ。ボールを持てば猛スピードで駆け上がってレイアップを決める豊島英(2.0)がいて、前回得点王の土子大輔(4.0)が得点し、決勝の延長では、女子の藤井郁美(4.0)が立て続けにシュートを決めた。「チームとして勝つとはまさにこういうこと」と喜びつつも、藤本はエースらしくこう話している。
「僕がスターではないということはうれしいような悔しいような……シューターが揃うなかでも、自分がスターでいたいんです」
チームの進化とともに、絶対的エースの藤本は、進化し続ける。
飽くなき向上心でMVP獲得~宮城MAX・土子
一方、国内トップクラスのシュート力を持つリオパラリンピック日本代表の土子は、現在37歳。前回大会までは古豪・千葉ホークスに所属していたが、複数のシューターを擁する常勝軍団の宮城MAXに加入した。東京パラリンピックを睨み「この年齢からどう成長するか自分なりに考えた」というのが移籍の理由だった。「千葉では自分がエースだったけれど、宮城には藤本、藤井、豊島がいる。状況に応じて自分がシュートする以外のいろいろな選択肢があり、自分が(相手を)引き付けて展開するプレーも磨ける」といい、佐藤聡・新ヘッドコーチの「相手のリアクションを見ながら、考えるバスケット」をするなかで大会中も成長してきた。
「毎年、新しい選手に課せられる『ここで優勝できなかったら、お前のせいだ』というプレッシャーがチームのいい雰囲気、選手の強い気持ちを作っている」とキャプテンの豊島が話すように、決勝の延長戦も決して崩れることなく戦い抜いた土子は、宮城MAX10連覇の立役者になった。
大会MVPも手にしたが、「自分はまだへたくそ。年下の藤本や豊島から吸収してやろうと思っている」と貪欲に話し、さらなるレベルアップを誓った。
さらなるハードワークで日本代表入り目指す~NO EXCUSE・森谷
準優勝のNO EXCUSEは、昨年の決勝で宮城MAXに後半までリードしていたものの、追い返されて敗れていた。それだけに今年にかける思いは強く、「一年間、宮城MAXを倒すためにやってきた」と語ったのは、チーム最年少の26歳・森谷幸生(4.0)。一年を通してプロ選手としてドイツでも活躍するエース香西宏昭(3.5)が不在になりがちなチームを引っ張り、この決勝でも3ポイントシュートや攻守にわたるアグレッシブなプレーで存在感を放った。
だが、最終ピリオドでは宮城MAXの激しいプレッシャーを前にシュートを外し、同点で競り合う場面では走力のある相手に対してファールで阻止するしかなかった。大会を終えて「宮城MAXはやっぱり強かった」と話した森谷は「疲労による体力の違いもあるかもしれないが、自分のフィジカルトレーニングが足りなかったと受け止め、今日からまた練習して来年リベンジしたい」と前を向いた。
日本代表については「メダルという日本代表の目標に貢献できるメンバーとして、選ばれるように頑張ります」と力を込めた。
今大会、華麗なショットを次々とゴールに沈めたNO EXCUSEの絶対的エース香西も、その活躍を高く評価した。
「決勝では森谷のいい意味でのエゴが出た。こんな風に若い選手が目立っていかないと、東京パラリンピックでのメダルやその先の発展もない。彼らが車いすバスケットを引っ張っていくことが大事だし、自分もそこに負けないようにがんばりたいと思う」
未来を担う若手の成長が、トップ選手を刺激している。
東京パラリンピックへの道を突き進むトップ選手たちも躍動
藤本、香西らの他に、6月8日に開幕する車いすバスケットボールの4ヵ国対抗戦「三菱WORLD CHALLENGE CUP」に出場する選手たちも出場していた。8月の世界選手権に向けて生き残りのかかる日本代表選手だが、各チームで強いリーダーシップを発揮していた。
昨年U23世界選手権で活躍し、日本代表の常連になったパラ神奈川スポーツクラブ(関東)は古澤拓也(3.0)は、リオパラリンピック日本代表の鳥海連志(2.5)とともにチームの柱になり、順調にいけば準決勝で対戦できた宮城MAX戦に照準を当てていた。しかし、今大会は一回戦で試合巧者のワールドバスケットボールクラブ(愛知)に51-58で敗退。「勝ち続けてきた相手に対し、焦らなかったことが悪い結果につながってしまった。ガードとして、もう少しゲームメークすることができたはず」と自分を責めた。
決勝が行われたメインコートで試合することは叶わなかったものの、自身が目指す東京パラリンピックの会場の空気を吸い、「いい体育館でした」と笑顔をつくった古澤。悔しさをバネに、またここから新たなスタートを切る。
一方、準決勝でNO EXCUSEに敗れた埼玉ライオンズ(関東)は、3位決定戦でワールドに勝利した。チームは「個の力はあるので、チーム力を上げて、来年は準決勝の壁を突破したい」(キャプテンの原田翔平)と気持ちを新たにするなかで、リオパラリンピック日本代表の藤澤潔(2.0)は「強化しているフィジカルとメンタルに、技術と状況判断が乗ってくれば、もっと思い切ったプレーができる。いま、その過程にいる」と、WORLD CHALLENGE CUPを前に自信をのぞかせた。
「リオ後、日本は世界に通用するようにバスケットボールをがらりと変えたし、フィジカルも鍛えてきた。対戦する国は高さもパワーもあるが、やってやりたいと思う」
東京パラリンピックまで残り2年余り。その舞台を目指して突き進む選手たちの存在がクラブチームのレベルを押し上げ、国内の大会を盛り上げていることは間違いない。ハイレベルな試合を見せた選手たちのたくましさを実感する大会だった。
※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。
text by Asuka Senaga
photo by X-1