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車いすラグビー
人生を一変させたウィルチェアーラグビー・連盟事務局 竹城摂子さん
アスリートはだれでも日々黙々と自分と向き合い、ひたむきな努力を続けています。しかし、競技はひとりきりでは成立しません。選手の熱い思いをバックヤードで支え、競技団体で働く女性のライフストーリーにスポットを当てる連載、第2回です。
たけしろ・せつこ(57歳)
一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 事務局
ウィルチェアーラグビーは、車いす(ウィルチェアー)同士のぶつかりあいが許された唯一のパラリンピック競技です。競技発祥の地は1970年代のカナダ。四肢まひなど比較的重い障がいをもつ人が競技できるチームスポーツとして考案され、日本では1997年に日本ウィルチェアーラグビー連盟が発足。限界を超えて闘う選手の姿に魅せられた竹城さんは、ボランティアから始めて現在は連盟の職員として活動中です。
スピード・体力・知力で勝利を目指す頭脳バトル
事務局のオフィスで、日々さまざまな運営業務をきりもりしている竹城さん。普段はデスクワークですが、この日は代表選手の練習サポートのためにパラスポーツ専用体育館(日本財団パラアリーナ)へ。取材班が体育館に到着すると試合形式の練習は本番さながらの激しさで、いきなり車いすがぶつかりあった瞬間にタイヤが外れるシーンに遭遇。激しい動きの連続に体温が上がってしまい、競技用車いすに乗ったまま床にあおむけになって、扇風機の風を浴びながら体を冷やす選手の姿も見られます。
−−先ほど、選手に空調の様子を尋ねていらっしゃいましたね。
はい。ウィルチェアーラグビーの選手の多くは頸椎を損傷しているので、体温調節が難しい障がい特性があるんです。コートサイドに霧吹きがたくさん置いてあるのは、霧吹きで体に水をかけて、汗をかく代わりに気化熱で体温調整するため。夏場は特に、空調が効いているかこまめに気を遣うようにしています。
私は事務担当ですが、人手が足りないときには練習のサポートや、合宿の設営準備のお手伝いをすることもあるんです。練習の場合は主にコート設営やモップがけなど。事務方はなかなか選手の生の声を聞くことができないので、積極的に声をかけて雑談するようにもしています。今、どういうことに不便を感じているのか、どんなことが不安なのか、これが良くなればもっと楽になるのにとか、ニーズを聞いて課題解決できればと思っています。
会社のボランティア活動で選手と出会う
−−竹城さんがウィルチェアーラグビーを知ったのはいつ頃ですか?
50代に入ってからですね。初めて会った選手は、前勤務先の社員でもある今井友明選手です。以前から社内で昼休みのボランティア活動に参加していましたが、識字率の低い国に絵本を送るボランティアでたまたま今井選手と一緒になったんです。初対面の印象は、“すごくチャレンジドな人生を生きている人”。頸髄損傷によるまひで手に障がいがあるので、絵本にシールひとつ貼るのも大変そうだなと思っていたんです。
ちょうど同じ頃、社内に「DREAM AS ONE.」という障がい者スポーツ応援プロジェクトも発足しまして。パラスポーツの社員ボランティア募集をみつけて「あ、この日は予定がないのでちょっと参加してみよう」と応募しました。その時にウィルチェアーラグビーの観戦を勧められて、日本選手権を観戦しに行ったんです。
そしたらなんと、今井選手が出場しているじゃないですか。競技用車いすに乗った彼は、文字通りの別人でした。重い障がいがあるので守備型の車いすに乗って、攻撃時に壁をつくる戦略的な動きをしているんです。シール貼りに悪戦苦闘していた人が、コートであんなに活躍してるなんて! まず、そのものすごいギャップに驚きました。
過酷なリハビリを越えた選手の談話に鳥肌が
後日とある選手から聞いた話ですが、ウィルチェアーラグビーの選手たちは過酷なリハビリ経験を乗り越えてきた人が多いんですね。その選手の場合はバイク事故による頸椎損傷。最初はベッドに寝たきりで、頭や体が動かないように金属で固定されるのだそうです。それから徐々にベッドで体を起こす練習が始まって、でも最初は3分もたずにクラクラきて起きていられない。考えられないですよね。「普通に車いすこいでるじゃない」と思っていたら、そんなにも大きなハードルを乗り越えてあんなに激しい競技に打ち込んでいたなんて。聞きながら思わず鳥肌がたっていました。
−−そんなタイミングで、初級障がい者スポーツ指導員資格を取得されたのは?
パラスポーツのボランティアをしたいと思ったからです。2017年の2月に取得して、5月から日本ウィルチェアーラグビー連盟の事務を手伝い始めました。最初は経験がないので、いろいろなことが不安でした。人手が足りないと声をかけてもらったけれど、総合商社勤めでまったくの畑違いの私が本当に役に立つのかしらと危惧したり…。
いまだにまだわからないことだらけですが、でも会計業務や英語、ITスキルなど、会社員時代に培った知識が意外に活きる場面も多いんですよ。人生、ムダなことはないんだなぁとも実感しています。
今年の夏は、シドニーで行われる世界選手権のオブザーバー・プログラムへの参加を予定しています。「ラグビーワールドカップ2019」の予選と本選の間に、「ウィルチェアーラグビーワールドチャレンジ2019」も開催されるんです。ホスト国スタッフとして十分な知識を身につけるべく、しっかり勉強してきます。お客さまをお迎えするにあたって、選手たちにはなるべくいい環境で、いい競い合いをしてもらいたい。そして、ひとりでも多くの方にウィルチェアーラグビーのファンになってもらえたらうれしいですね。
(後編に続く)
text by Mayumi Tanihata
photo by Yuki Maita(NOSTY)
一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟
https://jwrf.jp/
*競技用車いすに乗ることができる体験会は随時開催
*今後の主な大会
2018年8月5日〜10日 世界選手権(シドニーオリンピックパーク) ※NHK BS-1にて全戦放送が決定!
2018年12月14日〜16日 第20回ウィルチェアーラグビー日本選手権大会(千葉ポートアリーナ)
2019年10月16日〜20日 ウィルチェアーラグビーワールドチャレンジ2019
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