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自転車競技
日本パラサイクリング選手権トラック大会で好記録が続出!
9月8日、2020年の東京オリンピック・パラリンピック会場となる伊豆ベロドロームで「2018日本パラサイクリング選手権トラック大会」が「第87回全日本自転車競技選手権大会トラック・レース」と共催で行われた。パラサイクリングには、パラアスリートと二人乗りタンデムのパイロット合わせて12選手が出場し、8の日本記録、13の大会記録が誕生。残念ながら観客はまばらだったが、会場からは大きな拍手が沸いた。
結成1年。期待の男子タンデムペアが日本新!
なかでも圧巻だったのは、タンデムに乗る男子B(視覚障がい)の木村和平・倉林巧和(パイロット)ペアだ。この日は午前中、1kmタイムトライアルを走った後、13時過ぎに個人パーシュート(4km)に出場。2011年に大城竜之・伊藤保文ペアが記録した4分38秒283の日本記録を大きく更新する、4分24秒407の日本新記録をたたき出した。
タンデムの後ろに乗る木村は、笑顔を浮かべながらレースを振り返る。
「世界で戦うために、まずは国内で1位になれてうれしいです。1kmは最後の周回を走り切る体力をつければもっとタイムは伸びるし、4kmはスタートの息が合わなかったので改善の余地はあると思っています」
生まれつき視覚障がいがある木村が自転車を始めたのは2年前のこと。高校一年まで健常者に混ざってプレーしていたサッカー経験を活かし、ブラインドサッカーでパラリンピックを目指そうと考えたが、弱視の木村は全盲が対象となる国際大会には出場できない。そんなときに出会ったのが、盲学校の先生に勧められた自転車だった。
「風を切って走るスピード感が楽しくて。日本パラサイクリング連盟に機材を借り、盲学校で自転車を漕ぐことからはじめました」
昨年のジャパンパラサイクリングカップ2017でトラック戦デビューし、今春に故郷の北海道を離れて上京。健常者のアジアチャンピオンだった倉林と同じ楽天ソシオビジネスに勤務し、まさに二人三脚でトレーニングに励んでいる。
昨年から木村のパイロットとしてタンデムに乗る倉林は、「木村君と僕は脚質が似ているし、はじめはちぐはぐだったスタートやギアチェンジの息も合うようになってきた」と、コンビネーションに自信をぞかせる。元はリオデジャネイロオリンピック出場を目指していたトップ選手。今度は、なんでも素直に吸収していく21歳とともに「パラリンピックでメダルを獲るという新たなモチベーション」を胸に、虎視眈々と世界の頂点を狙うつもりだ。
パラリンピアンたちの“夢の続き”
「トラックを走ったら昔の感覚がよみがえってきました。この楽しさと苦しさを久しぶりに味わうことができて感無量です」
2年ぶりにトラックに戻ってきた、2012年ロンドンパラリンピック日本代表・大城の言葉だ。
個人パーシュートでは、木村・倉林ペアに日本記録を塗り替えられ、複雑な胸の内を明かすも、「次世代の選手が出てきたことはうれしい。練習不足でタイムは喜べないが、今日をきっかけに新たなスタートが切れそうです」と前を向いた。
今大会には、その大城に「一緒に東京を目指そう」と声をかけた葭原滋男の姿もあった。
葭原は、2000年シドニーパラリンピック1kmタイムトライアルの金メダリストで、2004年のアテネパラリンピックでも2つの銀メダルを獲得している元世界記録保持者だ。彼もまたブラインドサッカーで日本代表を目指していたが、2011年より代表から遠ざかっている。現在、55歳。自国開催のパラリンピックに挑戦したいと考えたとき、再び候補として浮上してきたのが自転車だった。
しかし、現実は甘くない。アテネ以来、実に14年ぶりだったというトラックレースは、1㎞タイムトライアルの後半にスタミナ不足でタイムを落とした。「でも、この場所に立てたことが何より。もう一度パラリンピックにチャレンジしたいという僕をサポートしてくれている人たちへの感謝の気持ちでいっぱいです」
葭原にとって、この日の舞台は「ようやく立てた東京パラリンピックへのスタートライン」だった。
過去にタンデムは1組の出場という大会もあっただけに、今大会3組がエントリーしたことはパラサイクリングにとって大きな意味がある。
「東京パラリンピックを機にタンデムを盛り上げ、もっと底辺を広げていきたいです」と大城。ただ出場するだけでなく、日本一をかけた競い合いがベテランたちの胸を熱くした。
「やっぱり自転車って面白い。今は重いギアを踏むのが主流で、これから筋力アップする必要があるけれど、せっかくやるなら東京を目指したい。パラリンピックへの道のりは厳しいけれど、なんとか挽回する道を探りたいと思います」
そう話す葭原は、ともにアテネパラリンピックに出場したパイロットの大木卓也とともに、夢の続きを追いかける。
野口&川本が貫録V
今大会、同じ距離を走るC(二輪)カテゴリーのレースは、障がいのクラスによって異なる係数をかけて算出された計算タイムで争った。ロードの世界チャンピオン・野口佳子(女子C2)は2種目を制し、「まずまずの結果。トラックはまだまだ初心者だが、トラックでメダルに絡めるパワーがあれば、ロードの金メダルに絡める。10月のアジアパラ競技大会も、全種目自己ベストを目標にがんばります」と言い、さらなるレベルアップを誓った。
また、個人パーシュート(3km)2位の川本翔大(男子C2)も「パラリンピック会場になるこの会場で、目標タイムに近い記録を出すことができた」と満足そうに語り、「東京では絶対にメダルを獲りたい」と力強く語った。
少数精鋭のチームを率いる日本パラサイクリング連盟の権丈泰巳理事長は、大会をこう総括する。
「これまで日本選手権は出場選手が限られていて、記録が出にくかった。でも、今回はタンデムの木村・倉林ペアを筆頭に好記録が多く出て、東京パラリンピックの表彰台に光が差しました。女子も野口に引っ張られるかたちで、藤井美穂(女子C2)が自己ベストを更新できたし、チーム力で強くなっていると実感できました。東京パラリンピックでは出場した全員がメダルを獲れるチームを目指したいです」
自転車競技について:
https://www.parasapo.tokyo/sports/cycling
text by Asuka Senaga
photo by X-1