東京パラの出場権は誰の手に!? 車いすテニス アジアパラ代表記者会見
6日から始まるインドネシア2018アジアパラ競技大会への車いすテニス日本代表の派遣記者会見が10月3日、日本財団パラアリーナで行われた。
アジアパラは、男子、女子、クァードでそれぞれ単複が実施される。代表選手は各クラス3人ずつで、記者会見には男子クラスの眞田卓をのぞく8人が出席し、アジアパラへの意気込みを語った。
完全復活の国枝が東京行き切符をつかむか
「今年は4大会あるグランドスラムのうち2大会で優勝し、すごくいい1年でした。最後にアジアパラで花を添えたいです」
抱負を述べた日本のエース国枝慎吾は会見中、にこやかな笑顔を絶やさなかった。6月の全仏オープンで優勝後、2年ぶりに世界ランキング1位の座を奪還。3連覇のかかるアジアパラを好調で迎えられる喜びが滲んだ。
アジアパラでは、男女シングルスの優勝者に東京2020パラリンピックの出場権が与えられる。全競技のうち、東京行きの切符を与えられるのは、車いすテニス競技のみ。もちろん国枝が見据えているのは優勝だけだ。
「ここで決めれば、そのあとのスケジューリングも立てやすい。2年前に出場のチャンスが与えられることは選手にとって有利なこと」
振り返れば、2018年までの2年間、これまでにないほど苦しんだ。2016年2月に世界1位を奪われ、同4月に右ひじの手術を受けた。リオパラリンピックでは3連覇を逃し、「元の位置に戻れるのか半信半疑……というか疑いのほうが70~80%くらいで強く、もうダメだと思ったときもある」という。
だが今年に入って、復活ののろしはあがった。スイングすると痛みが走った右ヒジは次第に回復し、今年1月の全豪オープンで3年ぶり9度目の優勝。4月からは新コーチを迎え、ネットプレーを加えるなど、新たなプレースタイルを模索している。アジアパラで東京パラリンピックの出場権を得られれば、国枝が話すように今年はさらにいい年になるはずだ。
「前回大会では、ランキングが高くなくてもアジアには強い選手がいっぱいいるんだと思った。気は抜けないが、コンディションはいいので、力を発揮すればいい結果が出ると思う」
国枝は眞田とのダブルスでも頂点を目指す。
女子は上地が初Vを目指す。ライバルは眠れる獅子の中国か
日本選手団の東京パラ行き第1号の期待がかかるのが、世界ランキング2位の上地結衣だ。男子シングルスより早く決勝が行われる見込みで、第1シードの上地はもっとも頂点に近い位置にいる。ただ上地は「もしそうなったら、そのときに喜びたいと思います」と慎重な姿勢を崩さない。
というのも、これまで2度出場して金メダルに手が届いたことはない。前回大会では、準決勝でタイ選手に敗れ3位決定戦にまわり銅メダルだった。今回、第1シードとはいえ、足をすくわれる可能性はあるのだ。さらに、ワールドツアーとは異なるアジアパラ大会独特の空気感への対策も必要だという。
「アジアパラには経済や距離的な問題でワールドツアーに出にくい選手が出てきます。彼女たちはアジア大会で優勝さえすれば、東京パラリンピックに出られる! という思いが強いんです」
優勝へのがむしゃらな気持ちを持った選手と戦うことが今回の難しさだという。とくに近年、怖い存在が中国選手だ。中澤吉裕監督は「実力が飛び抜けてきている印象がある」と警戒する。一方、上地にも秘めた思いがある。
「他の国の選手の“アジアで優勝さえすれば”という気持ちに対し、私にも次のパラリンピックの開催地は日本だから出たいという思いがある。その気持ちを出していけたらと思っています」
なお4シードのうち、3枠が上地を含めて日本選手。田中愛美と大谷桃子は初出場になる。決戦が日本人同士になれば、東京パラリンピックに向けて日本選手はますます活況のときを迎える。
日本の連覇がかかるクァードは、世界4位の菅野に期待
前回、諸石光照と川野将太による日本決戦となったクァードは、ベテランの諸石が2-1で逆転勝ちし頂点に立った。さらに今回は、2人にとって脅威といえる有望選手が加わった。
菅野浩二、37歳。趣味の範囲だったテニスだが、2016年、「東京パラリンピックに出たい」とクァードに転向した。以来、白星を重ね、世界ランキングは日本最上位の4位へと上昇した。
「自分がクァードでやると決めたとき、計画を立てたんです。1年目は日本一になろう。そして今年はアジア1位に。来年はグランドスラムを目指して、2020年は東京パラリンピックで金メダルを獲ろうって」
テニスが生涯スポーツから競技スポーツに変わり、気持ちの変化も起きた。以前なら勝っても負けても楽しければよかったが、今では「格上の選手であっても勝つ方法を考えなければならない」と勝負にこだわるようになった。
国枝、上地らトップ選手から学ぶことも多い。以前は、調整という考え方に乏しく、体を少し動かし、ボールをすぐに打ち始めていた。しかし、傍にいることで日本のエースたちはしっかり準備して試合に挑むことを知った。
「試合開始が10時だとすると、国枝選手、上地選手は7、8時にはやってきてアップします。そこにかける時間が長いんです。そのあと30分から1時間くらい練習して試合へ。自分はそういう大事なことを知りませんでした」
もちろん、日の丸を背負って戦うのは今回が初めて。だから会見では肩を小さくまるめ、しきりに「緊張します」を繰り返していた。しかし、心配は無用だろう。菅野には「これも東京につながる体験」という自覚があり、自分を客観視できている。世界4位にしてこれからの伸びしろが大きいのだ。日本は前回以上の層の厚さを見せてクァードの連覇を狙う。
text by Yoshimi Suzuki
photo by Haruo Wanibe