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車いすバスケットボール
白熱レポート!パラリンピアン・レッスン <パトリック・アンダーソン編>
10月14日、東京・品川区の日本財団パラアリーナにて、「パラサポMIRAIプロジェクト パラリンピアン・レッスン ~車いすバスケットボール パトリック・アンダーソン編~ 」を開催した。
今回の講師は、2000年シドニー、2004年アテネ、2012年ロンドンとパラリンピック3大会で金メダル、2008年北京で銀メダルを母国カナダにもたらした、車いすバスケットボール界のレジェンド、パトリック・アンダーソン選手だ。
「車いすバスケットボール界の神様」とも称されるスタープレイヤーから直接レッスンを受けられるとあって、北海道や大阪からも参加者が集まり、それぞれ思い出に残る特別な時間を過ごした。
【パラサポMIRAIプロジェクト】
東京2020パラリンピックを2年後に控え、そのレガシーを日本で各競技の未来につなげる取り組み。「パラリンピアン・レッスン」は、優れた功績を挙げたトップアスリートを講師に迎え、参加者が直接レッスンを受けられるプロジェクト。
世界の技を直接指導
この日の参加者は、車いすバスケットボールの現役選手や小・中学生、健常プレーヤーなど、競技経験も年齢も多彩な計15名。会場から熱烈な拍手で迎えられ、“神様”はコートに現れた。
~Lesson1:ウォーミングアップ~
ウォーミングアップとして「シャーク」というゲームからスタート。このゲームは、コートの真ん中で待ち構える「シャーク」にタッチされないようコートの端から端まで車いすで駆け抜ける、いわば鬼ごっこだ。
まずは前向きで、次に後ろ向きで、最後は前向きで、車輪を漕ぐのは1回のみ、と条件を変えながら行ううちに、少し緊張気味だった子どもたちの表情も次第に笑顔になっていった。
心も身体もほぐれてきたところで、実際にボールを使うレッスンへ。今回のレッスンでは、車いすバスケットボールの基本である「ドリブル」と「シュート」にフォーカスして行った。
~Lesson2:ドリブル&シュート~
ドリブルでは、左右の手を使い、車いすの前や横ではもちろん、背中側でもボールを扱う練習に取り組んだ。
車いすを操作しながらドリブルすること自体難しいことだが、さらに背中側でとなると、経験者であってもボールを失ってしまうため、苦戦する参加者が続出。
アンダーソンは、うまくなるためにはドリブルスキルが大切だと力説する。
「僕が相手からボールを奪うのは、相手が自分の車いすの前でドリブルをしているときです。つまり、前方で行うドリブルは相手にボールを奪われやすいということ。だから僕は相手から遠いところでドリブルできるよう、自分の前だけではなく、横や後ろでも練習しています」
シュート練習では、シュートする「シューター」とシュートしたボールを取ってパスをする「リバウンダー」とが2人1組で行う、パートナーシューティングが行われた。
シューターはドリブルやフェイントを使ったりしながら、リバウンダーは自分の胸から相手の胸へボールを出すチェストパスや、左手を頭上に伸ばし手首を使って出すフックパス、野球のように投げるベースボールパスなどパスの種類を変えながら、4パターンを練習した。
ボールを使った練習の後は、タイヤ引きのようなトレーニング「ハーフコート・トウ」を行った。ただし、引くのはタイヤではなく参加者。2人1組となり、1人がタイヤ役となって相手の車いすの背をつかみ、もう一人がパートナーの重さに耐えながら走る。その際、「2プッシュ&ストップ」、つまり車いすのタイヤを2回押して止まるを繰り返す。これをエンドラインからセンターラインまで行い、残りの半分は各自、全力ダッシュで駆け抜けるという内容だ。
負荷がかかった状態で、止まって走ってを繰り返すのはかなりきつい。実際、前進するのがやっと、という参加者もいた。しかし、アンダーソンは「努力が大切。全力でやろう! ハードワーク、ハードワーク!」と声をかけながら鼓舞。その声に励まされながら全員が必死に取り組み、最後まで走り切った。
~Lesson3:3 on 3~
アンダーソンを交えて3人対3人で行う「3on3」のミニゲームも実施。ノールックパスや3ポイントシュート、素早いターンなどアンダーソンが繰り出す驚異的な技の連続に、参加者はもちろん見学者たちも大興奮。世界トップレベルの迫力を間近で感じる贅沢なひとときとなった。
~Lesson4:Q&A~
ゲームの後は、アンダーソンが参加者からの質問に答えた。
「ローポインターに望むプレーとは?」
と質問したのは、持ち点制の車いすバスケットボールにおいて最も障がいの重い1.0点の参加者だ。
「世界のトップレベルになるほど、1.0点の選手のプレーが勝敗を分けるカギとなります。ですから、ローポインターの選手は、安定したシュート力と、味方のためにスペースを作る動きを身につけてください。そして、ときにはファールで相手のプレーを止めることも大切です。僕がカナダチームで一緒にプレーした世界トップレベルのローポインターたちはとても賢く、ポジションの取り方などが優れていました」
また、車いすの片輪を浮かせる「ティルティング」も実演。ティルティングをしながら、浮いている方のタイヤを外し、ほかの人にパスしたり、外したタイヤを元に戻したり、キャスターを使わずに静止したり、手を使わずに車いすを回転させたりといったパフォーマンスに参加者からは歓声が起こった。このティルティングを練習する意義について、アンダーソンは「一見、必要のない技術だと思うかもしれない」と断りを入れつつ、こう話す。
「車いすバスケットボールでは、プレー中に車いすごと倒れることはよくありますよね。ティルティングを練習しておくと、自分が倒れずにいられるのはどこまでか、その限界を知ることができます。また、持ち点が3.0点前後のミッドポインターやハイポインターは、自分の身体のどこを使えばバランスが取れるのかも分かるようになります」
アンダーソンのプレーと言葉の持つパワー
今回のレッスンでは、経験者はもちろん、これから本格的に車いすバスケットボールを始めようとしている若い世代の参加者にも大いに響いたようだ。
最年少の参加者で、レッスンの最後に花束の贈呈役も務めた藤原歩夢くん(11歳)は、レッスン中こそどこか恥ずかし気だったが、「楽しかったです。いろいろなところでドリブルした方がいいということが勉強になりました。車いすバスケットはまだ始めて半年ですが、これからも続けていきたいです」と、前向きに語った。
また、参加者の中で紅一点だった増田汐里さん(14歳)は、「スポーツが好きで、今はカヌーをメインにスキーや車いす陸上にもチャレンジしています。車いすバスケットボールは何度も体験していますが、今日も楽しかったです。アンダーソン選手に教えていただいて、激しく一生懸命練習したら上手になれると分かりましたし、私もやってみたいと思いました」と、いきいきとした表情で感想を語った。
アンダーソンも活躍した6月の国際大会を現地で観戦したという中川西優紀くん(14歳)は、「アンダーソン選手は、動き出しの速さがすごかったです。僕の夢は車いすバスケットボールの選手になってパラリンピックに出ることです。そのとき、アンダーソン選手がカナダ代表として出場していたら対戦したいです」と、目標を教えてくれた。
大人顔負けのフリースローを決めていた磯井秀人くん(14歳)も、「アンダーソン選手にマンツーマンで教えてもらえてうれしかったです。アンダーソン選手のプレーは、YouTubeで何度も観たことがあるのですが、(実際は動画で見る以上に)迫力があって強かったし、レッスンはめちゃくちゃおもしろかったです。教えてもらったことは、帰ってから練習します!」と、満足感をにじませながら語った。
「カナダチームが東京パラリンピックに出場するためにはまず予選を突破しなければなりませんが、必ずや予選の壁を超えて、2020年に皆さんに会えることを楽しみにしています!」と、決意を述べてアンダーソンはパラアリーナを後にした。
この日、スーパースターの言葉とプレーに触れた子どもたちはどんな未来を歩んでいくのか。キラキラと瞳を輝かせる参加者を見て、パラリンピアンの持つ力とその影響力の大きさを改めて感じるレッスンだった。
【WHO I AM】IPC&WOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ
text by TEAM A
photo by Hisashi Okamoto