野球道具もリユースの時代へ! グローブの再生でサーキュラーエコノミーの未来を創る、SDGsの新潮流

野球道具もリユースの時代へ! グローブの再生でサーキュラーエコノミーの未来を創る、SDGsの新潮流
2022.07.11.MON 公開

使われなくなった野球のグローブを回収し、修理・リメイクする「グローブ再生事業」に今注目が集まっている。手掛けるのは、自身も高校時代に甲子園への出場経験を持つ、グローバルボーダーズ株式会社の代表・米沢谷友広氏。高額な野球グローブが購入できずに野球をあきらめる子どもたちが増えているなか、グローブのリユースで野球界にもSDGsを浸透させようと新境地を切り拓いている。ここではそんな米沢谷氏に、再生グローブが持つサステナブルな魅力やグローブの再利用により創られるサーキュラーエコノミーの未来についてお話を伺った。

手頃な価格で馴染みもいい! 時間とモノの無駄を減らせるエコさが魅力

都内1号店となる蒲田店の店内にズラリと並べられた再生グローブ。紐やヘリ革をカラフルにリメイクすることで、ファッショナブルな印象へ様変わりする

不要品を上手に再活用するリユースの波は、野球界にも訪れている。この4月に、都内に3店舗目となる新店をオープンさせたグローブ再生工房「Re-Birth(リバース)」では、使用済みや休眠中となった野球グローブを回収し、独自の技術で修理・リメイク。それらを「再生グローブ」として販売することで、部活動に勤しむ中高生や草野球を楽しむ大人たちから高い人気を博している。

その理由は、まず手に取りやすい価格帯にある。グローブの多くは上質な天然牛革が使用されているため、硬式野球用の新品では6万円もの値が張る高額品となるが、再生グローブの価格はその3分の1ほど。ラインナップもミズノや久保田スラッガー、ローリングスやウィルソンといった国内外の人気メーカーを中心に300点以上が取り揃えられ、多彩な顔ぶれの中から手頃な値段で自分だけのお気に入りを探すことができる。

また、Re-Birthを運営するグローバルボーダーズ株式会社の米沢谷友広代表は、前の持ち主の想いや愛着を引き継いでいけるのも再生グローブの特徴だと語る。特に前のプレイヤーが使い込むことで仕上がった“型”を受け継ぐことができるのは、新品のグローブにはない、再生グローブならでの魅力だという。

今回インタビューに応じてくれたグローバルボーダーズ株式会社の代表・米沢谷友広氏。高校時代には名門・秋田商業から甲子園へ出場。グローバルボーダーズを起業する前は、ゼビオ株式会社やAmazon Japanでスポーツに関わるさまざまな業務に携わっていた

「野球のグローブはボールを捕りやすい形状に型づけするために、通常3ヶ月から半年ほど使い込んで革を柔らかくする必要があります。ところが、前の持ち主によって使い込まれている再生グローブなら、すでに型が出来上がっているため、購入後すぐに即戦力として使うことができるんです。加えて、型を作り上げていく過程で使われるオイルやスポンジなどの道具も不要になりますから、時間だけでなくモノの無駄を減らせる点でもエコなアイテムといえます。お客様に『このグローブはすごくいい型がついているね! こんな使いやすい逸品に出会えてよかったよ』と喜んでいただけることが、私たちの何よりの働きがいになっています」(米沢谷氏)

仕上がりの良さに思わず涙する人も!丁寧な職人仕事が生み出す圧倒的な感動

個人や野球チームから回収したグローブは、破れや補強などの修理を職人(グローブリペアマン)が手作業で行い、よみがえらせる。既製品の販売以外に、修理やリメイクの依頼も承っている

そんな再生グローブは、ボールの衝撃や摩擦による紐の消耗や手首にフィットするムートンの経年劣化といった、長年使用されることで生じるほころびを職人が一つひとつ丁寧に修理・リメイクしてから店頭に並べられる。価格は修理された箇所に応じて変わっていく仕組みだが、ほぼすべてのパーツを交換するフルリメイク品は、手を入れたときの感触がまるで新品同様のようだと、多くのお客さんに感動を与えているという。

「特に喜んでいただけているのは、手を入れる裏側の革や手の指を通す指袋の入れ替えですね。手触りを左右する重要なパーツなだけに、ここを交換することでグローブに手を入れたときの感触をグッと良くすることができるのですが、同時に、専門的な技術が要求される難しい修理にもなります。Re-Birthでは、グローブの型が変わらないように一度パーツをバラした後、大手のグローブメーカーさんから購入させていただいた新品の余り革を使って、同じサイズに裁断して入れ替えます。

新品同様の状態に再生するフルリメイクですと、修理箇所も多くなるため、熟練した職人でも1日に2個作るのがやっと。紐の交換ひとつとっても、通し方に強弱をつけたり、見た目の美しさにこだわったりと、妥協を許さない職人の技が宿っているんです」(米沢谷氏)

野球グローブを構成するパーツの分解図。Re-Birthではこうしたパーツを適材適所入れ替えることで、リユース品とは思えない感動的な着用感を実現している

そうした丁寧な仕事の甲斐あってか、四半世紀以上前に使っていたグローブのフルリメイクを依頼したある年配のお客さんは、仕上がりの完成度の高さに思わず涙をこぼして喜んだという。子どもの頃の思い出や野球愛が詰まっているグローブだからこそ、きれいに再生されたときの嬉しさもひとしおなのだ。

原点は元高校球児の野球愛! 野球界の課題解決のために描くグローブの循環

再生グローブ事業を始めた理由について語る米沢谷氏。SDGsを続けていくコツは、「SDGsありきで事業を考えるのではなく、成し遂げたいゴールを設定したうえで、手段としてSDGsを結びつけるくらいがちょうどいい」とのこと

価格の面でも仕上がりの面でも、野球愛好家たちから高い支持を得ているグローブの再生事業だが、そもそも米沢谷氏はどうしてこのような事業を始めようと思ったのだろうか? SDGsの機運が世界的に高まっていることも一つの理由かもしれないが、実は真の動機は高校時代に甲子園に出場するほど野球に打ち込んでいた米沢谷氏らしい野球愛から生まれていた。

「始めた理由は、野球界が抱えている二つの課題を解決したいと考えたからです。一つは、新品グローブの価格が非常に高騰していること。この20年間で日本人の給与や所得はほとんど上がっていない中、グローブの価格は1.5倍ほどに値上がりました。しかも、高校野球に限って言えば、プレースタイルの変化から一人の選手が複数のポジションを務めることも多くなり、グローブが2個、3個と必要となるケースも増えています。そうした現状から、経済的な理由により野球を諦めざるを得ない子どもが増えているんです。

もう一つは、まだまだ利用できるグローブが廃棄されてしまっているもったいない実情があります。上質な天然皮革が使用されている野球のグローブは本来、再生可能な貴重な資源で、上手に手直ししていけば、長く愛用できる道具なんです。しかし、就職や結婚といったタイミングで野球から離れてしまうと、眠ったままの状態で保管され、そのまま廃棄されてしまうケースも少なくないんです」(米沢谷氏)

そこで生まれたのが、グローブを起点としたRe-Birthオリジナルのサーキュラーエコノミー(循環型経済)だ。使用済みや休眠中のグローブを廃棄されてしまう前に回収し、それらを高度な再生技術を用いて高品質かつ低価格なグローブに生まれ変えらせ、次のプレイヤーへとつないでいく。そうすれば、グローブの廃棄を減らしながら、子どもたちには手に取りやすい価格で使いやすいグローブを提供することができるというわけだ。単にリユースの観点から地球環境に優しい事業を行おうとしているのではなく、野球界の未来のために「グローブの再生・循環」を根付かそうとしている点もRe-Birthが支持される理由の一つになっている。

グローバルポーターズのホームページより。グローブの回収、修理・再生、販売、次のプレーヤーの使用と循環の輪を広げることで、グローブを未来へとつなぐ仕組みを構築する

「私たちはグローブにも『第二の人生』があると思っているんです。前の持ち主に使われなくなって、ガレージや倉庫で眠らされてしまうのであれば、必要としている人のもとへ旅立ち、愛着を持って使ってもらえる方がグローブも嬉しいはず。資源を循環させることはもちろん、グローブに込められた想いや愛着も次のプレイヤーへとつないでいくために、私たちはサーキュラーエコノミーというモデルを活用して経済的な実現を図っているんです」(米沢谷氏)

持続可能な野球界の未来のために、地域の野球文化を支える存在へと飛躍

新店舗となる多摩永山店でコラボレートを果たした「プレミアムベイス野球スクール」。西武ライオンズに所属していた佐伯秀喜選手による、小学校高学年から中学生向けの本格的な少人数制スクールだ

4月には野球の練習場を併設した都内3店舗目となる多摩永山店をオープンさせ、元プロ野球選手が運営する「プレミアムベイス野球スクール」ともコラボレーションを果たしたRe-Birth。再生グローブの使用感がその場で試せるようになったことはもちろん、野球技術の上達からアフターサービスまでをワンストップでフォローする体制を整えたことで、お客さんの満足度はよりいっそう高まっているという。

また、日本とイタリアの2カ国でプロ野球選手として活躍し、現在はストリートファッションブランド「NEXT THING」を手掛けている湊川誠隆氏の監修のもと、オリジナルのアパレルブランド「RB」も展開。ファッションを入り口に、より多くの人たちに野球や再生グローブに関心を持ってもらおうと、店舗展開以外の新境地も開拓している。

「NEXT THING」のこだわりは、ウエア類にグローブの余り革を活用したブランドタグを付けるところ。こうしたブランドのスタンスからお互いの想いに共感が生まれ、「RB」を始動させることとなった。現在はTシャツとキャップの2アイテムを展開中

そんな米沢谷氏にRe-Birthのこれからの展望を尋ねると、次のような目標を語ってくれた。

「現在は3つの実店舗とオンラインのサービスで全国からの受注を承っているのですが、今後はもっとたくさんの実店舗を日本中に展開したいと考えています。その理由には、グローブ選びの悩みやカスタムの相談を対面でしっかりお聞きしたいということも挙げられるのですが、一番の理由は街の野球専門店がなくなることで地域の野球文化が廃れてしまうことを防ぎたいからなんです。

私が現役選手だった頃には、中核市には必ずと言っていいほど、野球の専門店がいくつかあり、そこにいる確かな技術を持った職人気質の親父さんがグローブの扱い方や型のつけ方を丁寧に教えてくれていました。しかし、高齢化に伴う廃業が進む現在では、地方に行けば行くほど、そういったプロショップはなくなりつつあります。そのような地域にRe-Birthが出店したり、または廃業を考えているオーナーさんからお店を引き継いでいくことで、地域の野球文化を絶やすことなく継承していきたいですね。

それには職人の育成も重要となるため、来春にはグローブの再生技術を習得できる学校を開校し、体系化されたプログラムのもとで職人を育てるという日本初の試みにも挑戦します」(米沢谷氏)

一人前の職人に成長するには、4年ほどの修行が必要となるというグローブの再生技術。リーダーを務める大木賢(おおき・さとし)氏は、忙しい修理の合間を縫って、後輩たちの育成にも汗を流す

グローブの再生に始まり、野球文化を支えるプロショップの増店や職人の育成と、モノ・コト・ヒトの3面から野球界にSDGsを浸透させようと奮闘する米沢谷氏。「再生する」「生まれ変わる」という意味を持つRe-Birthの名の通り、野球界を生まれ変わらせる新しい取り組みで持続可能な未来が拓かれることを期待したい。

PROFILE 米沢谷友広(よねざわや・ともひろ)
1982年生まれ。7歳の頃から野球に打ち込み、名門・秋田商業から甲子園へ出場。神奈川大学を経て、スポーツ小売業大手のゼビオ株式会社に新卒入社。経営企画室で広報活動やスポンサード事業、新規事業の開発やM&Aなどの投資関連業務に従事する。その間、カリフォルニア大学にてアントレプレナーシップやビジネスインキュベーション、コーポレートファイナンスなどの単位を取得する。2012年にAmazon Japanに入社。スポーツ&アウトドア事業部の商品戦略部統括部長などを歴任し、2017年にグローバルポーターズ株式会社を起業。トータルベースボールカンパニー構想の実現に向け、野球界の発展に努めている。

text by Jun Takayanagi(Parasapo Lab)
photo by Yoshio Yoshida

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