ボートレース場が親子の新しい遊び場に!多様に進化するスポーツ施設の今

ボートレース場が親子の新しい遊び場に!多様に進化するスポーツ施設の今
2023.01.20.FRI 公開

昨今、様々なスポーツ施設が社会貢献や地域貢献を考え、家族向けのスポットの設置などで、新たなニーズにアプローチするための多様な取り組みを行っているのをご存知だろうか。その結果、コアなファンが集まるだけではなく、ファミリーなど幅広い層が遊びに行きやすくなり、以前に比べてイメージやその存在が変わりつつある。今回紹介する「ボートレース戸田」も、そうしたスポーツ施設のひとつだ。ファミリー層を意識したボートレース場の取組とは? 一体どんなことを行っているのか、戸田ボートレース企業団事業部の大井川美佳氏と宇田川智史氏に伺った。

5つのゾーンで思いっきりからだあそび!ファミリーで大満足のあそび場

画像提供:戸田ボートレース企業団

1954年に設立されたボートレース戸田。ボートレースを楽しむファンが多数訪れる場所だが、実はその2階に親子で遊べる施設があることをご存じだろうか。

あそびの専門企業「ボーネルンド」と協働で誕生した「BOAT KIDS PARK モーヴィ戸田」は、「あそぶことは 生きること」という考え方をベースに、子どもたちの”やってみたい”という自発的な衝動を大切にしている、イキイキと楽しく活動できる遊び場だ。

コンセプトは、①からだあそびを中心に、こころと頭と身体にとってバランスのよい発達を促進すること、②親も一緒に遊ぶことができること、そして③プレイリーダーと呼ばれる研修を受けたスタッフが常駐していることだそうだ。 プレイリーダーは指導者ではなく、子どもの意欲を引き出し応援する子育てサポーターという位置付けなのもユニーク。親も一緒に遊ぶことで「こんなことができるようになったの!?」と、子どもの成長に気づくこともできるだろうし、見守られながら安心して遊ばせることができるのが特長だ。

施設内は、はいはい、ヨチヨチ歩きの子どもが楽しめる「ベビーゾーン」、くるくるまわる遊戯などでダイナミックに遊べる「チャレンジゾーン」、ボールプールやサイバーホイールなどで全身を使って遊ぶ「アクティブゾーン」、外で砂遊びや水遊びができる「アウトドアゾーン」、たくさんの絵本を自由読める「ライブラリーゾーン」の5つのゾーンからなる。それぞれのゾーンに特徴的で楽しい遊具が揃っており、年齢や個性に合わせた遊びが可能(対象年齢:6ヶ月~12歳)。家族で気軽に遊びに行けるスポットだ。

ボートレース場を、親子で遊びに来られる「身近な存在」にしたい

5つのゾーンに分かれたスペースに楽しい遊具の数々が揃っており、頭や全身を使った遊びを体験できる。 写真提供:戸田ボートレース企業団

ボートレース戸田の施設内に2019年に誕生した「BOAT KIDS PARKモーヴィ戸田」。ボートレース場と子ども向けの遊び場というのは意外な組み合わせのように思うが、どういった経緯で作られることになったのだろうか。

「以前から、ボートレースをやっていくだけでなく、何か社会貢献、地域貢献という形で実際にここに来たことがない方たちにも足を運んでいただきたい、と考えていました。それで以前も、テレビや本が置いてあるキッズ向けのスペースがあったのですが、あまりファミリー層に浸透しなかったんです。それをなんとか変えていきたいというタイミングで、BOAT RACE振興会の呼びかけにより、株式会社ボーネルンドさんとのコラボで『モーヴィ戸田』が誕生しました。ボートレース場は全国に24場あり、そのうち7場に『モーヴィ』がありますが、戸田が第1号となります」(大井川美佳氏、以下大井川)

「モーヴィ戸田」ができてから、ボートレース場での遊びに別の選択肢が生まれ、明らかにファミリー層の来客が増えたそうだ。

「『モーヴィ戸田』を目当てに来たというご家族も多いです。何度も足を運んでいただくことで、ボートレース場へ行くというハードルも下がったと思います。そして戸田市は東京にも近いということもあって年々人口が増えていて、埼玉県内で一番平均年齢が若い地域なので、今後もファミリー層やカップルなどは大事にしていきたいですね」(大井川)

「地域に暮らしている方々にとって、気軽に利用していただけるような場所になってほしいと思います」(宇田川智史氏、以下宇田川)

ボートレース場と聞くと、「ギャンブル」に対する固定観念が先行し、あまりいいイメージを持っていない人もいまだに多い。しかし実際に足を運んでみると、場内は綺麗で広々としており、すごく開けた明るい印象を受ける。「モーヴィ戸田」をきっかけに遊びに行ってみれば、きっとイメージがガラリと変わることだろう。

戸田ボードレース企業団事業部の大井川美佳氏(左)と宇田川智史氏(右)photo by Noriaki Miwa

親子でダイバーシティを学べる参加型イベントも開催

パラアイスホッケー/パラ・パワーリフティング選手の馬島誠氏(左)とパラ・パワーリフティング選手の山本恵理氏(右)が講師として参加 photo by Noriaki Miwa

ボートレース戸田のファミリーに向けた取り組みは、モーヴィにとどまらず、さらに広がりをみせようとしている。2022年10月29日・30日の週末に、大人と子どもが一緒に遊び、体験しながら「ふつう」と「ちがい」の世界を学ぶ『あすチャレ!ファミリーアカデミー』(プログラム提供:日本財団パラスポーツサポートセンター)が行われた。

クイズやアクティビティも交えながら「障がい」や「ちがい」について考える。参加した子どもたちは積極的に発言し、家族と共にいきいきと楽しんでいた photo by Noriaki Miwa

当日は多くのファミリーが参加。やや緊張した面持ちで待っていると、講師の山本恵理氏と馬島誠氏の二人が登場。自身のエピソードや体験談を交えながら、「ちがい」を自分の力としてプラスに考える重要性を教えてくれた。また、ゲームやクイズを一緒にしながら話を進めることで一体感が生まれ、参加者もより自分ごととして考える機会となった。

体験の時間では3グループに分かれ、視覚に障がいがある人の誘導体験、車いす体験、ボートレースについて学ぶ体験「ボートレースってなあに?」が行われた。全てが初体験という家族も多く、真剣に興味深く楽しんでいる姿が印象的だった。

視覚に障がいのある人が食事をする際に、時計の針の位置で方向を知らせる「クロックポジション」を体験しながら学ぶコーナー photo by Noriaki Miwa
車いすに乗りながらドアの開閉に挑戦。実はこうしたスライド式のドアは、引きながら車いすを漕ぎ中に入るのが難しいことがある。日常でよく見かけるものが、時に車いすユーザーにとってバリアになっていることに気づく機会になった photo by Noriaki Miwa
コンビニなどの棚から飲み物や食べ物を取るときの距離感を、車いすに乗って体験。床にものが置いてあると、想像よりかなり遠く感じ、驚いていた photo by Noriaki Miwa
ボートレースについてイチから学べる「ボートレースってなあに?」も開催。収益が小中学校の建設・修繕など、自分の身近なことのためにも使われていることも学んだ photo by Noriaki Miwa

同じ親子をターゲットにしたコンテンツといっても、「楽しむ」がメインのモーヴィ戸田に対し、『あすチャレ!ファミリーアカデミー』は「楽しむ」だけでなく「学ぶ」ことにも力点を置いたコンテンツだ。こうした「学ぶ」イベントとボートレースの結びつきも意外に思えるが、今回なぜボートレース戸田で開催されたのだろうか?

「戸田ボートレース企業団の八木橋英一事務局長が、ある会議のときに『あすチャレ!』プログラムのお話を聞いていたく感銘を受け、すぐに担当者に、『ボートレース戸田でも開催できませんか?』とお伺いしたそうなんです。その後こちらへロケハンに来ていただくなどすり合わせを重ね、今回の開催が実現しました」(大井川氏)

「学ぶ」コンテンツの可能性を事務局長が感じたのがきっかけだったのだ。大井川氏と宇田川氏も実際に『あすチャレ!ファミリーアカデミー』の様子を見て、障がいに対してのイメージがガラリと変わったとのこと。子どもや親に新鮮な学びの機会を届け、社会・地域への貢献度も高いことに気付いたそうだ。

「山本さんと話してみたらすごく明るくて。障がいのない人は障がいのある方を見ると大変そうだなと思いがちですが、実際は常に大変・困っているわけではなくて、私たちが勝手にイメージをつくってしまっているんだということに気付かせてくれました。また、社会・地域貢献はボートレースだけでは成し得ないことなので、こういった機会を作って多くの人に足を運んでもらうことがすごく大切だなと思いましたね」(宇田川氏)

「人はみんな違うのが当たり前ということに気付かされました。今まで子ども向けのイベントとしてはキャラクターショーや科学体験コーナーなどを開催してきましたが、『あすチャレ!ファミリーアカデミー』で、これまでとは違うアプローチができたなと思います。子どもたちに新たな学び、気付きの機会を届けられたのが良かったですね。今後の人生にすごくいい影響をもらえたんじゃないかなと思っています」(大井川氏)

アクティビティの中で、家族同士で普段はなかなか言えないような感謝の言葉を伝え合うなど、どのファミリーも充実した時間を過ごした。大井川氏は参加した親子の満足げな表情を見て、今後も継続して開催していきたいと語ってくれた。

「初めての試みでしたが、多くの家族に参加していただくことが社会・地域貢献になるんだと感じました。せっかくダイバーシティ&インクルージョンについて学ぶチャンスを得たのに一回で終わるのはもったいないので、今後も定期的に開催できたらいいなと思います」(大井川氏)


これまでコアなファン向けだったボートレース場という枠を越え、多様な取り組みを導入したことでファミリーでも一日通して楽しめる場所となったボートレース戸田。楽しさと学びを届けていく中で、地域により貢献し、より身近な存在となっていくことだろう。興味を持った人はぜひ足を運んでほしい。こういった取り組みは、新しい遊び場としてはもちろん、新しいスポーツとの出会いの場にもきっとなるはずだ。今後のスポーツ施設の多様な取り組みと進化にますます期待が高まる。

モーヴィ戸田
https://www.mooovi-toda.jp/index.php

あすチャレ!ファミリーアカデミー
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/academy/family/

text by Jun Nakazawa(Parasapo Lab)
key visual by 戸田ボートレース企業団

ボートレース場が親子の新しい遊び場に!多様に進化するスポーツ施設の今

『ボートレース場が親子の新しい遊び場に!多様に進化するスポーツ施設の今』