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ダウン症クラスを新設! 330人がエントリーした日本知的障害者選手権新春水泳競技大会
1月9日、千葉県国際総合水泳場で毎年恒例の「第6回日本知的障害者選手権新春水泳競技大会」が開催された。知的障がい303選手、身体障がい21選手、デフ6選手の330人がエントリーした同大会で、初めてダウン症のクラスが設けられた。
33人のダウン症スイマーがエントリー
新型コロナウイルス感染症対策のため無観客で実施された大会。表彰式やメダル授与はなかったものの、今大会にエントリーした33人(男子25選手、女子8選手)のダウン症スイマーは、東京2020パラリンピックでも活躍した知的障がいのトップスイマーとは別のクラスで泳ぐことで「優勝」という目標を立てやすくなる。
実際に、50mバタフライと100mバタフライに出場した張信豪(チョウ・シンハオ)は、大会直前に母親からダウン症クラスについて知らされ、「いつもより気合いが入った」と話す。
張は男子50mバタフライ(3位)を泳ぎ終えたあと、自身のタイムを見てガッツポーズ。「ちょっとだけ悔しさもあるが、(100mバタフライも含めて)最後まで一生懸命泳いだ」と充実感をにじませた。
「ダウン症クラスができてうれしい」
女子の有力選手は、平泳ぎのスぺシャリストとしてダウン症の世界大会でも活躍する小林倫子(こばやし・みちこ)だ。今大会は、100m平泳ぎと200m平泳ぎの2種目に出場した。
「この大会は初めてなので緊張したが、とにかく自己ベストを出せるようにがんばった」
得意の100m平泳ぎは、同組の選手の中で一着だった。最終種目の200m平泳ぎでは、知的障がいの日本記録保持者である芹澤美希香と同組だ。スタートから出遅れ、上位から1分以上離されたものの、この種目のダウン症で唯一の出場であり、フィニュシュした瞬間、堂々の2冠を決めた。
ライバルは福井香澄らパラリンピアンだという。2022年はダウン症の世界大会を中心に活動したが、今後は日本知的障害者選手権水泳競技大会などに出場予定だ。
「パラリンピックを目指し、タイムを意識してがんばりたい」
瞳の奥を輝かせて小林は語った。
パラリンピック水泳のS14クラスにあたる知的障がい者水泳。その統括組織である、日本知的障害者水泳連盟主催の全国大会では、2021年のJSCA全国知的障害者水泳競技大会以降、「知的障害」と「ダウン症」の2クラスに分けて競技を行うようになった。
「やっとダウン症クラスができた。とっても嬉しい」と小林。
日本代表の監督も務める谷口裕美子専務理事は、こう解説する。
「世界的にダウン症を別のクラスで実施し、メダルもあげようという流れになっている。2019年のINAS(国際知的障がい者スポーツ連盟、現在の名称=Virtus)グローバルゲームで盛り上がった後、日本連盟としても『やろう、やろう』と思っていて、ようやく実現できるようになった。まだまだダウン症の参加人数は少ないが、人数が増えていけば海外派遣もしていきたい」
ダウン症は知的機能発達の遅れに加え、運動機能障がいを伴う。そのため、知的障がい選手と同じクラスでタイムを競うことは不利とされてきた。だが、ダウン症クラスの実施が定着してきたことで、ダウン症スイマーたちはさらなる活躍の場を求めて期待を膨らませているはずだ。
谷口監督は続ける。
「ダウン症の選手を海外派遣するためには、合宿の回数を増やし、競技だけではなく、約束や時間を守るなどの指導を行わなければと考えている。ただ、(従来の)知的障がいのトップ選手とは行動パターンが異なるため、別々に合宿を行うなどいろいろ考えなければならない。工夫が必要になってくる」
なお、大会は2つのアジア記録、2つの日本記録、10つの大会記録が生まれた。200m平泳ぎで自身の記録を4秒近く更新し、2分52秒98の日本新をマークした芹澤美希香は、「今年一発目のレースで2種目とも自己ベストが出せていいスタートが切れた」と喜んだ。
text by Asuka Senaga
photo by X-1