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車いすテニス
史上最年少のプロ車いすテニスプレーヤー 小田凱人の素顔
パリ大会でブレイク必至のスター候補を紹介するシリーズ“TOP PROSPECT(=トップ・プロスペクト。「有望株」の意味)”。第3回は、車いすテニスの逸材として注目される小田凱人選手です。
世界ランキング1位のレジェンド国枝慎吾選手のプレーを観て競技を始めた16歳のホープ。昨年10月の楽天オープンでは、その国枝選手との決勝でファイナルタイブレークに持ち込み王者をあと一歩まで追い詰めました。1月22日に引退を表明した国枝選手の後を継ぐ“スーパーヒーロー候補”の素顔に迫ります。
小田 凱人(おだ・ときと)|車いすテニス
9歳のときに骨肉腫を発症。闘病生活の後、車いすテニスを始め、史上最年少14歳11ヵ月でジュニア世界ランキング1位に。2022年4月にプロ転向。16歳で初めてグランドスラムに出場し、世界ツアー最終戦であるマスターズで優勝。パリ大会で金メダル獲得を目指す。身長175㎝。愛知県出身。
次々と記録を打ち立てる“若き挑戦者”
――2022年、15歳でプロ宣言。これまで車いすテニス界の史上最年少記録を次々と塗り替えました。グランドスラムも経験し、現在世界ランキング4位です。小田凱人選手(以下、小田):今はテニスが一番面白いと感じています。プロ転向後、世界ランキングは順調に上昇させることができていますが、まだ大舞台で結果を出せていません。車いすテニスで最もレベルが高いグランドスラムを獲るためにがんばっているところですが……そろそろ獲りたいですね。
――昨年、中学を卒業し、通信制の高校に通いながら、テニス漬けの毎日です。友だちをうらやましく思うことはありませんか?小田:中学を卒業した直後の4月から5月は、友だちが楽しそうなSNSを上げているのを見て『普通の生活に戻りたい』と思うこともありました。
学校とテニスの両立に一生懸命だった中学生時代は意識していなかったんですけど、プロになってから、テニスについて考える時間が多くなり、プレッシャーが重荷になっていたんです。
小田:2022 年5月のワールドチームカップ(ポルトガル)に日本代表として出場し、憧れの3人(国枝慎吾、眞田卓、三木拓也)と一緒に戦ったことがきっかけで変わりました。長年、車いすテニスを続けてきた選手たちが楽しそうに大会に出場している姿を見て、自分の中の不安がなくなったというか、ツアーに集中できるようになりました。
おしゃれは足元から
――海外ツアーの多いテニス選手。これまでに試合をした場所で印象に残っているのは?小田:昨年、全米オープンに出場し、初めてニューヨークのマンハッタンを訪れました。超高層ビルが立ち並び、あらゆるものが最先端。スケールの大きさに、ビビりました(笑) 普段は愛知の田舎で暮らしているので、最初はこんな都会に来ちゃって大丈夫かなって思いましたが、海外ツアーでいろんな都市を回るうちに、都会の景色もいいなと思うようになりました。
――ところで、今日のファッションのポイントは?小田:今日は私服で取材を受けるようにと言われて、めちゃくちゃ悩みました(笑)靴を目立たせたいと思って、シンプルなコーディネートに。普段からダボっとしたTシャツをよく着るのですが、バランスがよくなるように半ズボンにしてみました。あと髪型にはちょっとこだわっています!
――スニーカーが好きなのですね。小田:ナイキと契約を結んだのがきっかけで、スニーカー収集にハマっています。今は15足くらいかな、部屋にズラリと並べています。大きな大会の後、ご褒美にスニーカーをゲットします。
――車いすテニスの大会は優勝したら賞金がもらえますが、何か賞金で買ったものはありますか?小田:賞金で買ったコーヒーメーカーは重宝しています。毎日、ブラックで5杯くらいはコーヒーを飲みますね。
――プロ選手は多忙だと思いますが、気分転換はどのようにしていますか?小田:暇な時間はマジックペンで絵を描いたり、YouTubeの格闘技番組を見たりしています。コロナ禍で増えた趣味は、ギターかな。もともと音楽は好きでいつも聴いていますが、父親が持っていたギターを借りて何曲か弾けるようになりました。エド・シーランの『パーフェクト』は暗記しています。とりあえず気になったら、いろいろやってみるんです。けっこうアクティブな方だと思います。
元サッカー少年が憧れるのは?
――もともとはサッカー少年でした。テニスもパラスポーツもほとんど知らなかったそうですが、プロ選手と聞いてイメージするのは誰ですか?小田:元サッカー日本代表の本田圭佑とアルゼンチン代表のリオネル・メッシです。自分が左利きなので、レフティのプレーに惹かれて食い入るように動画を見ていました。とくに、本田選手のメンタリティは見習いたいと思うし、プレー以外でも学ぶところがあります。多くの人に愛される選手になるために、プレーだけなく、趣味やいろんな物事を発信することが大事だということも本田選手から学びました。なにかひとつでも親しみを持ってもらって、小田凱人の名前を憶えてもらえたらうれしいです。
――グランドスラムで優勝したら、その次に達成したい目標は?小田:パリパラリンピックの金メダルです。名前の「ときと」は、パリのシンボルである凱旋門の漢字「凱」を使っていますし、パリに縁を感じるというか……。金メダルを胸に、凱旋できたら嬉しいですね!
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勝負の世界で生きるプロアスリートでありながら、競技を離れればシャイな一面もある等身大の16歳。プロ転向会見で「病気と闘っている子どもたちのヒーロー的な存在になれるような選手を目指す」と話した小田選手はどんなキャリアを積み重ねていくのでしょうか。新時代のヒーロー誕生に期待がかかります。※世界ランキングは1月16日時点
text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda