ダイバーシティ研修はなぜ必要?大手企業が語るその目的やメリット、実施内容とは
昨今よく耳にするようになり、社会に浸透しつつある「ダイバーシティ」という概念。それは企業の発展のためにも重要とされ、推進の一環としてダイバーシティ研修に取り組む企業が増えている。なぜダイバーシティ研修が企業に必要なのか? そこで今回、ダイバーシティ研修を積極的に取り入れている株式会社セブン‐イレブン・ジャパンに、ダイバーシティの必要性、研修の目的やメリット、実施内容などについて伺った。
1.ダイバーシティ研修は、企業に今なぜ必要なのか?
2.セブン‐イレブン・ジャパンにおけるダイバーシティ研修の必要性
3.ダイバーシティ研修の対象は?どれくらいの頻度で行う?
4.ダイバーシティ研修はどんな内容を実施すべき?そのポイントとメリット
5.ダイバーシティ研修が社員に与える影響
ダイバーシティ研修は、企業に今なぜ必要なのか?
ダイバーシティ研修とは一般的に、年齢や性別、障がいの有無、人種など様々な違いをもつ多様な人材が、それぞれの持つ能力や特性を存分に発揮して働くことができる企業にするためにはどうすればいいのかを理解し、学ぶための研修だ。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という概念は世界的にもスタンダードになりつつある今、企業としても多様なニーズに応え、イノベーションを生み出すためにも研修の必要性が高まっている。また、経済産業省でもダイバーシティ経営を推進しており、ダイバーシティの考えを社員に浸透させることは、会社の価値を高めることにもつながるとされている。実際にダイバーシティ研修に取り組んでいる企業は、どのような考えを持って行っているのだろうか?
セブン‐イレブン・ジャパンにおけるダイバーシティ研修の必要性
――セブン‐イレブン・ジャパンでは積極的にダイバーシティ研修を実施されていますが、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という概念を企業としてどのように捉えていますか? また、企業として何を目指して研修を実施しているのでしょうか?
竹井浩樹氏(以下、竹井) 元々セブン‐イレブンはあらゆる方にご来店いただけるお店です。お客様だけでなく社員の視点からも、あらゆる人にとって働きやすい環境を作ることは、小売業の使命だと考えています。
現在、セブン‐イレブン・ジャパンには障がいのある社員が約200名、そのうち直営店(セブン-イレブン・ジャパンが直接経営している店舗)で働いている社員が約100名います。今はまだ一般的に、障がいのある社員と一緒に働ける環境は少ないため、誰でも働ける、誰でもサービスを提供できる、そんな多様性を表したようなお店を今後作っていけたらと考えています。
障がいのある社員と一緒に働いている環境が徐々に浸透していけば嬉しいですね。また、当然、当人ももっと成長したい、いつまでも同じ仕事ではなくできることを増やしたい、といった意欲や意志もあります。周囲が障がいのことを理解して接することができるようになれば、うまく対応していくことができる。まだまだ理想には届いていない現実はありますが、一歩一歩当たり前にしていければと考えています。
セブン‐イレブンは全国に約2万1千店あり、それだけ多くのお客様と接する機会も多いので、そういった地道な取り組みを積み重ねていくことでダイバーシティを定着させる、そんな社会作りのお役に立ちたいという想いがあります。
――「誰もが働きたいお店」というのは、お客様への対応だけでなく社員の多様性も理解し、認め合い、助け合う職場であって、これからの時代に必要不可欠になっていくと思います。
竹井 実際それがイノベーションにも繋がるのではと考えています。例えば、人と直接接することが苦手な方は、現在お会計セルフレジの設置が進んでいるため、品出しなど別の業務に集中することも可能です。効率の向上だけではなく、従業員の力をより活かせるようになる、という面もあると思います。誰もが働きたいと思える店舗が増えれば、その地域がすごく優しい感じになっていくんじゃないのかなと。そんな風に設備にも波及して、イノベーションに繋がっていくのではと感じています。
ダイバーシティ研修の対象は?どれくらいの頻度で行う?
――実際のダイバーシティ研修では、どのような人たちを対象に、どれくらいの回数で研修を行っているのでしょうか?
丸橋さやか氏(以下、丸橋) 本年度から、まずは新入社員に向けて年に1回、研修を実施しています。
弊社は新卒社員をメインとして採用活動を行っているのですが、新卒社員のキャリアは店舗で勤務することから始まります。なぜ店舗勤務をするかというと、新卒社員には将来、加盟店のオーナーさんに経営や体制面のアドバイスをする「オペレーション・フィールド・カウンセラー」として活躍してほしいからです。
入社後、実店舗の店長・副店長として勤務し、商売の本質やヒト、モノ、カネのマネージメント、様々な個性や価値観をもった人とのコミュニケーションなどを学ぶ期間となっています。その中で、多様なお客様とどうコミュニケーションをとっていくのか、ということも学んでいくのですが、 ダイバーシティ研修を実施することで、その理解がより一層深まるのではと考えています。
竹井 一緒に働く仲間の多様性の理解についても同じです。店舗で働く障がいのある方の採用は13年くらい前から始めていて、今、一定数の社員の方がいる中で、そこでやはり初めて対面すると、ビックリしてしまったり、遠慮してしまったり、ちょっとした言葉づかいが相手を戸惑わせてしまったりするということが、現実で起こってしまいます。新入社員の段階から一般的な知識としてあれば、それだけでも全然違うと思うんですね。その中で色々な意識が芽生えてくれば、より興味を持ったり、より学ぼうと思ったり、より大切にしようという視点が生まれるのではないかと思います。
――新入社員以外にもダイバーシティ研修を実施しているのでしょうか?
丸橋 今後は新入社員だけでなく、既存の店長や副店長にも受講してもらいたいと考えています。そして管理職向けにも、受講が必須のダイバーシティ研修を、今年6回計画しています。障がいのある部下と一緒に働いている管理職の社員もたくさんおりますので、より理解を深められたらと。
また、今までは就業時間外に研修を行っていましたが、今後は全社員向けに任意受講の研修を就業時間内に行います。セブン&アイグループ全体でも、今年から初となる手話教室を2023年6月から月に2回ほど、約半年間にわたって実施します。管理職だけではなく、全ての社員にD&Iを浸透させていくために、ダイバーシティ研修の取り組みを今後も拡大していきたいと考えております。
ダイバーシティ研修はどんな内容を実施すべき?そのポイントとメリット
――セブン‐イレブンでは、どのような内容のダイバーシティ研修を実施しているのですか?
丸橋 弊社のダイバーシティ研修では、「ジェンダーギャップ」、「男性育休」、「LGBTQ」、「仕事と介護の両立」、「みんなの生理研修(男女の健康)」「障がいのある方と共に働く共生社会」という6つのテーマでやっています。
――研修を実施する上で、大切にしているポイントはありますか?
明星比呂記氏(以下、明星) 私が研修を組み立てる中で重要視したのは、障がいや人権、法律といった難しいことをどのように伝え、共感してもらうかです。研修ですごくいい話を聞いたとしても、頭で理解するだけではなく、実際にどう行動に移せるか、ということが必要だと思います。
今回、新入社員向けのダイバーシティ研修のひとつとして、日本財団パラスポーツサポートセンターの研修プログラム「あすチャレ!Academy」を、セブン‐イレブン・ジャパン用のカスタムメイドプログラムで開催していただきました。車いすユーザーでありパラアスリートの山本恵理さんが講師だったのですが、やはり当事者の実体験を生の声として聞くと、研修を受ける側への響き方が全然違います。障がいのある方が実際に買い物をしているシーンなどを見ることによって、イメージしやすくなりますので、文字や活字では表現できない部分もより伝わると感じました。
丸橋 視覚に障がいのある方が、おにぎりの中身の具材に何が入っているか分からないから、「(購入する時は)毎回ロシアンルーレットをやっている気分だ」というお話は、目から鱗でしたね。サービスを提供する側としてできていないことが、まだまだあるなと実感しました。それから、講義を受け身で聞いているだけではなく、必ずディスカッションやワークをする時間を設けることも大切だと感じました。当日は4~5人のグループを30~40グループ作り、ディスカッションしてもらいましたが、それぞれの思いや考えをちゃんと話し合っていたようです。
明星 受講者の中には知的障がいのある社員もいて、ディスカッション後の発表の場では、たくさん発言をしてくれました。研修の話の中に出てきた「障害者手帳を持っているけど、誰かの役に立てる」という話を聞いて、本人も自信を持てたと言っていましたね。
【ダイバーシティ研修のポイント】
- 1:頭で理解するだけでなく行動に移しやすいこと
- 2:実際のサービスに活かすイメージがしやすいこと
- 3:受講者同士でのディスカッションタイムを設けること
ダイバーシティ研修が社員に与える影響
――研修後の社内の評判はいかがでしたか?
明星 研修を受講した人の感想を見ると、すごく感銘を受けたようです。すぐに行動に移したい、見え方が変わった、学生のときからこういう研修を受ければよかったなど、たくさんありました。
印象的なものに「以前、飲食店でアルバイトをしているとき、障がいのある方に声をかけて断られた経験があります。声をかけたのがまずかったのかなと、ずっともやもやと答えが出ていなかったものが、今回の研修を通して答えが見つかりました」という感想がありました。何度でも声をかけていいし、声をかけることが相手に選択肢を与えることになると聞いて、声をかけることの自信につながったのですね。自然と腑に落ちるように導けたのが、すごくよかったなと感じています。
丸橋 感想に「研修を受けて、すぐにUDトーク(音声認識&自動翻訳アプリ)をスマホに入れました」という人もいて。すぐに行動に移したくなるくらい、内容にインパクトがあったのだと思います。そして「自分が誰かの選択肢になる」という言葉に、すごく感銘を受けた人が多かったですね。
他にも受講後のアンケートでは、「障がいのある方のリアルな声を聞くことが出来て非常に理解がしやすかったです。また、自分がどう行動しなければならないか考える機会になりました」「心に残った言葉は、今すぐ障がいをなくす方法として、『自分が誰かの選択肢になること』があるということです」「あらゆる角度の視点を持って、誰もが安心して買い物ができる店舗環境づくりに貢献したい」など、様々な感想が寄せられました。
企業のこれからを担う社員が、ダイバーシティに自分なりのアンテナを張ってモチベーション高く行動していくための契機として、ダイバーシティ研修は大きな可能性を秘めているといえます。
先日もレジカウンターへの「指差しシート」の設置拡大を発表するなど、ダイバーシティ&インクルージョンに向けた取り組みを進めるセブン‐イレブン・ジャパン。ダイバーシティ研修を活用し、様々な角度から社員の意識改革にアプローチする姿勢からは、顧客にとっても、社員にとっても、誰にとってもよい企業であろうとするセブン‐イレブン・ジャパンの本気度を示しているように感じた。
ともすれば ダイバーシティ研修は難しく捉えられがちだが、詰まるところは相手(顧客や社員)にいかに寄り添えるか、一人一人と向き合えるか、ではないだろうか。その点を踏まえると、ダイバーシティ研修は、自社に沿った共感・イメージのしやすさ、実際のシーンでの取り入れやすさなどがポイントになってくるだろう。今後ますます日常となっていくダイバーシティの概念。企業における推進・普及も早急に期待したい。
text by Jun Nakazawa(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa