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水泳
19歳の東海林大&中島啓智が驚異的な記録樹立! 知的障がい者水泳の短水路選手権
短水路(25m)プールで行われる第21回日本知的障害者選手権水泳競技大会が、11月4日、石川県金沢市の金沢プールで開催された。
9歳からのジュニア世代にも門戸を広げる今大会は、4カテゴリーに分かれる年齢別大会で、知的障がいのある泳ぎたい人なら誰でも出場できる。今年は全国から男子278名、女子80名の合計358名がエントリーし、男女各15種目とリレー3種目、合計33種目のうち20種目で日本新記録が生まれた。
そんな数々の日本記録のなかでも、強い輝きを放った2人がいる。非公認とはいえ、世界記録を上回る力泳を見せた少年B(※)の東海林大と中島啓智だ。東海林が200m個人メドレーで2分06秒39、中島が100mバタフライで56秒86を出し、日本知的障害者水泳連盟の世界記録認定証を授与され、表彰台で笑顔を見せた。
※少年B:13歳~19歳の競技区分
中島が100mバタフライで、東海林が200m個人メドレーで非公認の世界記録!
東海林と中島はともに19歳。連盟が選出する29名の国際大会の強化指定選手のうち、東海林と中島だけが基準をクリアしS指定されている。いわば2人は知的障害者水泳界をけん引する存在だ。
大会ではまず東海林が会場をどよめかせる。男子200m個人メドレーで力強い泳ぎを披露し、マーク・エバース(オランダ)の2分09秒48を上回る2分06秒39を叩き出した。
「2分10秒を切りたいとは思っていたけど、まさか世界新(相当の記録)とは……。前半が大事だと思って、とばしていきました。ただ、後半は平泳ぎできつくなり、フリーでは完全に腕が重くなっていたので、そこが今後の課題だと思います」
続いて東海林は男子100m自由形を52秒63で泳ぎ、自身の日本記録を塗り替えた。
一方、このあと中島も負けじと驚異的な記録を叩き出す。男子100mバタフライで最後までトップを譲らず、これまでの世界記録57秒39をコンマ53秒縮めてフィニッシュした。
「長水路で57秒台の記録があるので、56秒台は出ると思っていました。でも、この記録がすごくうれしいかというと違います。たぶん、このタイムは次世代の選手も普通に出していけるタイム。僕はあと12日で20歳。少年Bは最後の年なので、本当は、次世代に試練になるようなタイムを残したかった」
ただし中島は「しっかり名前を残せたことについては悔いがない」とし、25m自由形で日本新11秒30を出せたことも喜んでいた。
ライバル2人は切磋琢磨していく
今回、同じ種目で泳がなかった2人だが、10月のインドネシア2018アジアパラ競技大会では100mバタフライで東海林が金メダル、中島が銀メダル、200m個人メドレーでは東海林が金メダルで、中島が銅メダルとライバル関係を築いている。
先にパラの世界で頭角を現したのは中島だ。高校時代から国際大会で活躍し、2016年のリオパラリンピックの200m個人メドレーで銅メダルを獲得した。だから、東海林は「(中島)啓智さんはパラ選手として頼もしい存在。出会えたことがうれしいし、いい経験になっています」と中島を見上げている。
一方、中島は「(東海林は)友人としてアドバイスをもらったりするいい仲ですが、金メダルは一つしかないので、やはりライバル。そして脅威的な存在です」とはっきり口にする。
というのも、2014年、東海林がパラ水泳の大会に出場するようになり、日本代表として海外レースに出場するようになった2015年以降、駆け足で世界トップクラスへ躍り出て、中島は国内の真剣勝負で敗れることを知った。
東海林が強くなった理由を、アジアパラに帯同した新井静総務は「メンタル面が変わりました。以前は緊張しやすかったんです」と明かす。
東海林もまた「前はレースでは体がかちこちでしたが、山梨学院大のトレーナーの方に“笑顔で楽しく”というアドバイスをもらい、いまは日の丸を背負うことを考えすぎなくなりました」と、メンタルでの変化を挙げている。
来年、2人の最初の目標は3月のパラ春季水泳記録会で成績を残すことだ。そして世界選手権の代表権をつかみ、その世界選手権で優勝して東京2020パラリンピックの出場権を手中に収めたいと考えている。
女子は北野安美紗が3種目で日本新!
女子は5選手が11種目で日本新記録をマークした。3種目すべてで日本新を出したのは、15歳の北野安美紗。出場した100m、200m自由形、200m個人メドレーのうち、北野がもっとも喜んだのは200m個人メドレーだ。じつは「自分が記録を持っておきたい」という思いの強い自由形は自身の日本記録を塗り替え、1位でゴールしたが、ベストタイムに届かず、悔しさが残った。ところが個人メドレーは順位こそ2位だが、ベストを更新した。
「今回はベストタイムを出したいという気持ちがありました。個人メドレーは2位なので記録には残らないのは残念ですが……」
4歳で始めた水泳は、13歳でパラ水泳に転向して以降、辞めたいと思ったことは一度もないという。
「東京パラリンピックという目標ができたということと、アップルゲート選手(イギリス)という憧れがいて、彼女に勝てれば東京で金メダルを獲れるんじゃないかっていう思いがあるんです。いまのベストからすると、彼女にはほど遠いんですが、あと2年でどれだけ上げられるかなって」
東京パラリンピックでは、アジアパラでナンバーワンに輝いた200m自由形で金メダルを獲ることが大きな夢だ。
滋賀の福井香澄&井上舞美も日本新!
滋賀友泳会からは19歳の福井香澄と井上舞美が日本新記録を出している。
所属コーチに「うまいね」と言われて以来、背泳ぎが専門になった福井香澄は25mを15秒80、50mを32秒94で泳ぎゴールした。ベストに届かず、納得はしていないが、「最近は1日5000mから6000mと練習量をこなせている。私は単距離型で(東京パラリンピック実施種目の)100mは苦手ですが、やるしかない。(世界選手権代表権につながる)3月の記録会も期待できると思う」と手ごたえを得ていた。
一方、200m個人メドレーで北野を抑え、2分33秒63の日本新で優勝した井上も自信を深めているところだ。アジアパラでは銀メダルを獲得。現在は子どもたちに水泳を教えながら、東京パラリンピックの100mバタフライと200m個人メドレーでの金メダルを目指している。「日本代表に入ったばかりの頃は体力がなく、風邪をひいてばかりでした。でも、いまは風邪をひくこともなくしっかり練習をつめているのがよくなっている理由です」。
東京パラリンピックまであと2年を切り、いよいよ来年は出場権獲得に向けた緊張の1年が始まる。新記録を打ち立てた選手たちは、水泳を生涯スポーツではなく、金メダルを求める競技者として表情を光らせていた。
text by Yoshimi Suzuki
photo by X-1
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